44.打倒! サンドワーム!
【前回までのあらすじ】
船の欠片から元の姿を取り戻させる。そういえば初めて「戻し」たのも小舟だったセツナ。
今では立派な戦闘艦も元通り。
成長曲線やばすぎぃ!
東の砂海に五隻の戦闘艦と、小型砂上船が船団を作って進む。
先頭を行くのはイレーナのスターティアラ号。
両翼に東西南北四部族の船が展開した。
イレーナがスキルを発動する。
「進路そのまま第二船速!」
スターティアラ号の操舵輪を握ったイレーナの呼びかけは、どれだけ離れていても明確に頭の中に響いた。
メイが両手と触手ツインテールで頭を抱える。
「くっ……こいつ頭の中に直接語りかけてきますか?」
シャチ子も首を傾げる。
「ふむ。演習で経験済みとはいえ、やはり慣れぬな」
イレーナが吠えた。
「アンタらとは強めに繋いでんだから、余計なこと考えないの!」
これが船長のスキル「指揮」だ。
彼女がスキルで指定した船に乗っている間、イレーナを意識して考えたことが報告として瞬時に伝わるようになっている。
各艦船の状況をイレーナは随時頭に入れながら、的確に指示を出すことができた。
すごいスキルだと思う。
と、船がぐらりと揺れる。操舵輪を右へ左へイレーナは蛇行しながら身体をよじった。
胸をぶるんぶるんさせて頬に手をあて顔を赤らめる。
「んも~! セッくんってば正直なんだからぁ」
「セッくんって、もしかして僕のことですか?」
「他にいないでしょ? ねぇ~セッくん♪」
僕がスターティアラ号を修復してから、イレーナはこの調子だ。
メイがほっぺたを膨らませる。
「先生に向かってその言い方はダメでしょうに! お友達感覚ですか!? もっとあがめて!」
「やーんも~! メイメイがいじめるんですけどぉ~! ね~! セッくんてんてぇ~! 仲良くしなきゃだよねぇ~」
「ああああああ! メイをまた悪者にして! イレーナ嫌いです!」
「いいのぉ? セッくんは、アタシとメイメイが仲良くないと悲しむわよ?」
「あうぅ……な、仲良しですよ? 世界平和ですよ?」
クラゲ少女は得意のワカメのモノマネで敵意が無いことを表現する。
シャチ子は自身の眉間を指でつまんでため息をついた。
「仮にも現海魔族の王がなんたる弱腰外交。メイ様、もっとしっかりなさってください」
「で、でもシャチ子! イレーナはあんなにメイたちに怒ってたけど、今はちゃんとしてますから」
船長が「前もちゃんとしてるわよ!」とツッコミ返す。
打ち解けたってことでいいのかな。
僕の意識をイレーナが汲み取って言う。
「仲良くしろって言ったのセッくんでしょ? それに、この二人ってセッくんが言ってた通り、海魔族にしてはまともっぽいし」
シャチ子がイレーナに対抗するように胸を張る。
「貴様も人間にしては優秀だな。無論、セツナ様の足下にも及ばぬが」
「うっさいわねデカ乳」
「貴様とて大きいではないか!?」
「メイは……メイの心の器は……壊れますか? せ、先生はやはり大きさですか!?」
戦闘前なのに緊張感がない。なんでおっぱいの話になっちゃってるんだろう。
と、思った矢先――
砂の地平線の向こうに巨大な砂柱が爆ぜた。
イレーナが海賊帽を深く被り直す。
「来たわね。総員第一級戦闘配備! 全砲門開けッ!」
巨大バリスタが砂柱に向けられる。
船足が速まり船団は右から回り込むように砂柱を半包囲した。
砂塵が収まり巨大なサンドワームが姿を現す。
「撃てぇえええええええええええええええ!」
完璧なタイミングで五隻の戦闘艦から、城塞攻撃用の巨大バリスタの矢が放たれる。
小型船からも連弩が一斉発射された。
が――
サンドワームは全身を振動させたかと思うと、巨大な口から黒い触手の矢を無数に放った。
こちらの攻撃を相殺する。
だけじゃない。
なぎ払うような掃射に小型船の一群が吹き飛ばされる。
一瞬の出来事にイレーナが舵から手を離しそうになった。
「嘘……でしょ。飛び道具なんて反則じゃないッ!?」
僕はイレーナの隣に立って舵を手にする。
「指示を出してイレーナさんッ!」
「わ、わーってるわよ! けど、今ので音信不通。三十隻がよ!?」
小型船の乗員たちが無事……とは思えなかった。
シャチ子がイレーナの頬を叩く。
「しっかりしろ。これは戦だ。人も死ぬ」
下手に希望的なことを言っても仕方ないけど、指揮官が指示を出さなきゃ次の動きができない。
「イレーナさん。みんな、あなたの声を待ってます」
イレーナはうつむいたまま呟く。
「サリヤ以外の三部族から撤退の申請が来てるわ。説得する間、船、頼める?」
僕は頷くと操舵輪をシャチ子に握らせた。
「何をしようというのだセツナ様?」
「僕らで時間を稼ぐよ。船をサンドワームの攻撃射程に入れて。イレーナはスターティアラ号の戦闘員を船の中心部に移動させて!」
「セッくん? それじゃ攻撃できないし、わざわざアイツの攻撃を受けるようなものじゃない?」
「楯になるんだ。スターティアラ号を傷つけちゃうけど……我慢してね」
メイがそわそわしている。
「メイは……メイは何かのお役に立てませんか? やれますか? やりますよ! なんでも!」
「もちろんメイにもお願いするよ。甲板に残る操船部員の人たちを守ってあげて」
「がってんです!」
イレーナが叫ぶ。
「楯になるなんて無茶よ! 船体も帆もアイツの攻撃を受けたらボロボロに……」
僕はしゃがみ込んで床に右手をそっと置く。
「壊れたところからすぐに直すから。けが人が出たらメイ……ここまで連れてきて」
「もちろんですとも!」
「シャチ子さんは上手くサンドワームの注意を引くように船を動かして」
「船を餌にミミズを釣るなど前代未聞だな! 気に入ったぞセツナ様!」
「イレーナは他の四隻に、被弾した小型船の救助者を一人でも多く助けるように指示して」
船長はそっと顔を上げた。
「わかったわ。アタシより、セッくんの方が船長向きかもしれないわね」
他の四隻を置いてスターティアラ号が突出した。シャチ子の操船はつかず離れず、サンドワームの黒い触手のような矢を躱し続ける。
それでも、全ては避けきれず船体に無数の風穴が空いた。
即座に時間を「戻し」て、無かったことにする。
帆への攻撃も瞬時に修復。
サンドワームに知性があるなら、いくら攻撃しても再生するこの船に驚いてるかもしれない。
黒い矢に射貫かれた船員をメイが担ぎ込む。船を直しながら治癒し続けた。
メイは触手ツインテールを使って甲板を縦横無尽だ。
木箱や樽を投げて、雨のように降ってくる黒い矢から船員を守ってみせた。
さらに自身の水分補給と操舵担当のシャチ子にも水を渡すのを欠かさない。
メイはエヘンとなだらかな胸を張る。
「港町の酒場で美人看板娘ウェイトレスさんの経験をイカしたのです! クラゲですが!」
実際、フォローの行き届きっぷりはすごかった。
甲板で帆の向きを変える船員たちも、必死で風を捉まえ続ける。
誰一人諦めず、脱落させずに攻撃をしのぐ。
長い、永い時間。
無限にも思えた防衛は、突如、終わりを告げた。
説得が通じ、救助も終わったみたいだ。
イレーナが言う。
「死者十四名。重軽傷者二百名あまり。戦闘は……継続。ここで引いたら死んだ者たちに示しがつかないわ!」
各艦から怒号のような声が響いた。
弱腰、逃げ腰だったサリヤ以外の三部族長も覚悟が決まったんだと思う。
戦闘は続行だ。
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