43.思い出は欠片とともに
【前回までのあらすじ】
イレーナの過去を知ったセツナは彼女のために何かできないかと考える。
メイとシャチ子ともケンカしてほしくない。
少年の優しさが船長のささくれだった心に染みて……これは……ありがたい。
「イレーナさん?」
「ねえ。アンタさ……修復士っていうけど、割れた水瓶の破片から元に戻したわよね?」
「ええと……はい」
「だったら、コレから船……戻せる?」
イレーナは肩に掛けたコートのポケットから、羽の彫刻がされた欠片を取り出した。
「なんですかこれ?」
「アタシの船……スターティアラ号の船首像の欠片よ。翼人族の像だったの。襲撃前に手違いで折っちゃって、慌てて隠してそれっきり」
「船長なのに悪戯好きなんですね?」
「う、うっさいわねバカぁ」
「ところで、もし戻せたら僕のお願いを聞いてくれますか?」
「あの二人と仲良くするフリくらいはしてあげるわ。どうせ無理でしょうけど」
少女っぽくイレーナは膝をもじもじさせながら言う。
欠片からの復元か。
元の姿を知らないけど、できるだろうか。
いや、やるんだ。
最初はフリだってかまわない。メイとシャチ子への偏見を無くす第一歩だ。
きっと上手くいく。
船を直すのは三度目くらいだけど……。
最初に奴隷船を脱出した時の小舟と、砂漠の海を渡った砂上船。
目の前に澄んだ湖のようなオアシスが、浮かぶ船を待つように水面を風に揺らしていた。
「ちょっと、やってみますね」
イレーナから羽彫刻の欠片を受け取る。
「べ、別にできるなんて思ってないわよ! 水瓶と戦闘艦だもの。いくら修復スキルって言って……も……えっ……あへっ!?」
僕はオアシスに腰まで浸かると、時間を半年ほど遡る。
欠片は一気に巨大な船体を取り戻した。
船長はその場でぺたんと腰を抜かす。
欠けてしまった船首像も元通りだ。
まあ、この場所で復活させたせいで、浅瀬に座礁したみたいな格好になっちゃったけど。
「できました。約束通りメイたちとちゃんと向き合ってください」
「嘘……でしょ……けど……」
少女の隻眼から涙が落ちた。
「おかえり……スターティアラ号……」
喜んでもらえたみたいだな。
まあ、何度でも言うけどね。
浅瀬に座礁してる状態だって。
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スターティアラ号はボートやら砂海宮の運搬スキル持ちの協力で、座礁状態を脱してオアシスに浮かんだ。
これに浮遊魔導具を設置して、砂上戦闘艦への大改修が始まった。
僕らは砂の海の東航路復活のメリットを、他の地域の砂の民に説いて回る。
紅い荒野の鉱山町が復活し、獣魔大森林まで流通網が広げられるという話だ。
西と南と北の族長が集まった会合に、踊り手サリヤとともに立ち会った。
廃坑が甦るわけがない! と、サリヤの説得に応じない三人に向けて、僕は腰の小剣を抜いて見せる。
「この剣が鉱山町で作られているんです」
三人は目を皿のようにした。
「ほぅ。なんと美しい刀身だ」
「かの名工ゴルドンの作。実物を拝めるとは……」
「しかし、獣魔大森林は閉鎖的という噂だ。それに族長が死にかけているとも……」
僕はそっと首を左右に振る。
「族長は健在にして壮健です。鉱山町と獣魔大森林ですでに金品のやりとりも始まっています」
北の族長が目を細める。
「ほほぅ。サンドワームを倒し、砂海の航行の安全と自由を……か。いいだろう。一隻出そう」
これに西と南も続いた。
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サンドワーム討伐の準備が進む中――
「剣の特訓をしたいとは殊勝な心がけだなセツナ様」
空いた時間を利用して、シャチ子に稽古をつけてもらった。
場所はオアシスの水辺で、熱砂の中でも涼やかだ。
メイは僕の応援係に立候補した。
「先生がんがえ~! そこだ~! 打て~! ころせ~!」
「そ、そんなメイ様ッ!? たまには私を応援してくださっても!」
片手で僕に何発も上段斬りを打ち込みながら、シャチ子が涙目になる。
僕ばかり応援する……よりも、さらりと「ころせ~!」が混ざってる事の方が怖いんだけど。
こう考えると、海魔族と人間だとやっぱりちょっと価値観が違うのかなと思う。
シャチ子の剣がトンカチみたいに、僕をガンガン上から打ち付ける。釘になった気分だ。
「ほらほらどうしたセツナ様ッ! 攻撃しなければ相手は倒せぬぞ!!」
技術指導して欲しいんだけど、だいたいいつも根性論になってしまう。
それでも剣の扱いには多少慣れてきた。
相手がシャチ子で、僕がどれだけ本気で斬りかかっても簡単にいなしてしまう。その安心感から、全力で振れるようになったと思う。
そして――
やっぱり僕の戦闘力って、並み以下なんだなと思った。
いくらゴルドンの作った剣がすごくても、全然使いこなせてない。
その性能を完全とまではいかずとも、ある程度引き出せるくらいには強くなりたい。
力を出し尽くしてぶっ倒れるまで、特訓は続いた。
戦力が整えば、サンドワーム討伐作戦が始まる。
東の砂の海で人々の暮らしを奪った怪物に引導を渡すんだ。
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