42.取り戻したいもの
【前回までのあらすじ】
海の船乗りだったイレーナも海魔族の襲撃で仲間を失った。
生き残りを集めて復興をさせたいようだけど――
ここはセツナの出番だ!
途中退席した船長に代わってサリヤが僕らに謝罪する。
「船長の無礼をお許しください。メイ様、シャチ子様」
メイは「えぅぅ」と小さくうめく。
シャチ子がテーブルに身を乗り出した。
「あの小娘はどうして我らを敵視するのだ? 共に戦おうというのに、この調子でやられては命を預けられん」
一瞬、考え込む素振りを見せるとサリヤは「船長には申し訳ないですが……」と、俯いた。
「イレーナ船長は元は海の船乗りです。船団を率いていたそうです」
「海賊か。あの年齢で団を率いるとはな」
シャチ子は自身の顎をなでながら「ふむふむ」と考え込む。
僕も訊いてみることにした。
「海賊っていうと、やっぱり略奪行為とかをしてきたんですよね?」
「そういった人物であれば、デザートムーン号をお任せしていません。姿こそ海賊のようですが、相手に舐められないためと……」
イレーナは武装商船団長にして、冒険家なんだとサリヤは教えてくれた。
「海魔族と何かあったんですか?」
「船を沈められたとうかがっておりますわ」
シャチ子が握った拳をテーブルに叩きつける。
「海魔族の領海に勝手に入り込みでもしたのだろう。自業自得だ」
メイはお尻をそわそわさせた。
「シャチ子。どうして海魔族は人間の船を沈めますか?」
「それは国を守るためです」
「けど、メイたちは先生や、港町のおかみさんや、フゥリィちゃんやゴルドンとも仲良しになれましたよ?」
「良い人間や獣魔族やドワーフばかりではありませんから」
「イレーナとだって、お話できれば仲良くなれるかもしれぬが?」
メイは瞳を潤ませる。
女剣士は「ですが相手がそもそもこちらの言葉に聞く耳をもたなければ、会話にもなりません」と、先ほどまで水煙草がキマっていたとは思えない正論っぷりだ。
「僕が少し話してみるよ」
「せ、先生がですって!?」
「イレーナの船を沈めたのが海魔族でも、メイやシャチ子さんまでひとくくりで恨まれる筋合いは無いと僕も思うから」
サリヤに訊くと、船長は独りになりたい時には決まってオアシスの水辺にいるらしい。
メイをシャチ子に任せて、僕はイレーナを探すことにした。
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バザールを抜けた先に水面が広がった。
対岸の建物が小さく見えるくらいの大きさだ。
ナツメヤシの茂る木陰で、ほとりに独り、イレーナがオアシスをじっと見つめてたたずんでいた。
「少しお話しませんか?」
「なによ? アイツら抜きだからって、アタシがアンタに気を許すとか思ってるわけ?」
「別にどちらでも構いません。けど、これから一緒にサンドワームを倒すのに、情報共有は大事だと思って」
少し黙ってから「ま、別にいいわ。日陰に入んなさいよ」と彼女は寂しげに呟いた。
隣に立って湖のようなオアシスを一望する。
「これだけ大きなオアシスはきっと世界のどこにもないでしょうね」
「そうなんですね」
「海と比べたらちっぽけだけど」
風がナツメヤシの葉を揺らした。
「サリヤさんから少しだけ、イレーナさんのことをうかがいました」
こちらには顔を向けず、じっと遠くを見つめたまま船長は「そう」と、呟く。
「海魔族を憎む気持ちと、メイやシャチ子をひとくくりにするのは……やめてください」
「わざわざそんなことを言いに来たわけ?」
「そんなことが大事ですから」
「アンタは海魔族がどれだけ獰猛で恐ろしいか知らないのよ」
これでも、助けてくれた恩人の女の子ごと船を沈められたし、蟹の海魔族には殺されかけた。神官エビルみたいな考え方の海魔族がいることも知ってるつもりだ。
「何があったんですか?」
今は僕が何かを語る時じゃない。
イレーナの事を知りたい。
じっと待つように見つめると――
彼女はこちらに向き直った。
「なら、教えてあげる。あの日――アタシは輸送の仕事に就いてたの。海魔族が出る航路じゃなかったわ。なのに連中は無茶苦茶だった。精鋭揃い。積み荷が欲しいならくれてやるって言ったのに、交渉すらできず団員は皆殺しよ。みんながアタシだけを生かそうとして……救命ボートに乗せられて……気づいたら浜辺だった。アンタにはわからないでしょ?」
同じ事が僕にもあった。
そっか。
イレーナさんも僕と同じ、生き残ってしまった人なんだ。
不思議だけど、フゥリィもゴルドンも、状況は違うのに同じような経験をしている。
こういう人を助けるために、僕は旅をしてるんじゃないかと思うほどだ。
「イレーナさん。それって半年くらい前じゃないですか?」
「なんで知ってるのよ?」
「僕も同じような事に遭遇したんです。海魔族たちが船を襲ってきて……その時、たしか海魔族が出ない海域みたいなのに……って、船員が言ってたんです」
「じゃあ、襲われたのってアタシの船だけじゃなかったんだ」
イレーナは下唇を噛んでから続ける。
「アタシを騙すために嘘、ついてないわよね?」
「もちろん。ただ、証明はできませんけど」
「それが本当なら……どうしてアンタが憎い海魔族と一緒に旅なんてしてんのよ!?」
僕は自然と笑顔になっていた。
「メイはとても良い子で、シャチ子さんも本当は優しい人です。一緒に暮らして、旅をして二人のことを知ってますから」
「ば、バカじゃないの? 海魔族は狂暴な連中なの。アンタ騙されてんのよ」
「メイもシャチ子さんも海魔族です。けど、イレーナさんたちを襲ったのは二人じゃありません。それに人間にだって悪い奴はいます」
「だからって、あの二人が良い奴にはならないでしょ?」
「僕が乗せられた船は人間の奴隷船で、僕は……スキル持ちの奴隷にされて売られるところでしたから。そんな僕が前に進めたのも、メイに出会えたおかげなんです」
「アンタ……そう……だったんだ」
イレーナの隻眼から敵意と怒りがフッと消えた。
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