40.砂の上の船乗り
【前回までのあらすじ】
でかああああああああああああい!(説明不要)
サンドワームの襲撃に大ピンチと思ったら、渡りに助け船が現れた。
その正体とは――
砂漠風の民族衣装に身を固めた男たちに取り囲まれて、僕らは巨大な砂上船の甲板にあげられた。
僕らが乗ってきた砂上船は拿捕されて曳航中だ。
広い甲板に集った十数人の男たちは、いつでも曲剣を抜けるように身構えている。
シャチ子が「話し合いにならないようであれば……」と覚悟を決めた。
メイはといえば――
決死のワカメのモノマネで和解アピールだ。
そんなメイの元に、フェイスベールをしたベリーダンサーの女の人がやってくる。
「お嬢さんとっても素敵ね。けど、どうして踊っているのかしら?」
「メイは言葉が苦手だから! 敵意は無い! それはまさしく海流に身を預けたワカメの如く」
「フフフ……愉快な人。船長……いかがなさいます?」
ダンサーがメイからそっと離れる。と、屈強な男たちの肉のカーテンを開くように、小さな影が姿を現した。
女の子だ。
厚底を履いているからメイより背丈は大きく見えるけど、脱いだらメイと同じくらいかもしれない。
そのわりに胸は大きかった。背は小さいのに大きさはシャチ子と良い勝負だ。
ドクロマークの眼帯に唾の大きな船長帽子。
肩にマントのようにコートを羽織った赤毛の女の子。
「いかがもなにもあるかぁッ! 打ち首にさらせぇ!」
砂漠の民たちが剣を抜こうとした――
まずいかも。なんで助けてくれたのかもわからないのに、いきなり処刑されるわけにはいかない。
「ちょっと待ってください! 助けてくれたんじゃないんですか?」
船長と呼ばれた女の子は僕の前に立って腕組みする。
「アンタってバカ? そりゃ砂漠の民の紋様掲げた砂上船だもの。助けるに決まってるじゃないの?」
初対面でバカとはご挨拶だ。けど、今は言い争っている場合じゃない。
「じゃあ、どうしていきなり殺意マックスなんですか?」
「疑問系に疑問系で返すなぁッ!」
なんでこの人、キレてるんだろう。
みれば砂漠の民とは服装が一人違っていた。
ベリーダンサーがくるくると踊るようにターンしながら、船長にそっと耳打ちする。
「船長落ち着いて。事情を訊いてからでも遅くはないでしょう」
「う、うっさい! うっさいうっさいうっさーい! どうみてもどう転んでもこいつらは海魔族! 敵! 敵なのよ!」
ダンサーがこちらにそっと会釈した。
「デザートムーン号の船長イレーナ様は極度の海魔族嫌いなのです」
メイが触手ツインテールを鞭のようにしならせた。
「な、なにを~! 許せん!」
二人がにらみ合い視線の火花が散る。
間に割って入った。もちろんシャチ子も「どうどう」と制しつつ。
「僕らを助けたのはなんでです?」
「砂上船の帆に砂漠の民の紋様が描かれてからに決まってんじゃない!」
「つまり、自分たちの仲間が襲われていると思ったからですか?」
イレーナ船長はゆっくり頷いた。
「そうよ! アタシたちはサンドワームに各地のオアシスが滅ぼされて、ちりぢりになっちゃった砂漠の民たちをこうして助けてあげてんの。なのにどうして海魔族がいるわけ? ここ砂漠よ? アチアチでしょ?」
メイが誇らしげに言う。
「本来であれば死んでますが、こちらにおわす先生の手にかかれば魚も空を飛び獅子が背泳ぎするのですよ。わかります?」
「はあ? わけわかんないですけどー。ますます怪しいわね。みんな、準備はいいかしら?」
このままだと死人が出る。主にあちら側に。
シャチ子に本気を出されたらひとたまりもなさそうだ。
考えている時間は無い。
女剣士の前に飛び込むようにして、船長との間に割って入る。
「待ってください。僕らはただの旅人です。ここまで僕のスキルでなんとか旅を続けてきました」
先ほど、サンドワームに追われた際に捨てた水瓶……の、一部を取り出した。
現在は陶片だけど、一時間前の状態に戻す。
破片はみるまに元の水瓶に姿を変えた。水も満タンだ。
男たちは僕のスキルを見るやざわついた。
イレーナも目を丸くする。
「ど、ど、どうなってんのよ?」
「修復スキル……みたいなものです」
ベリーダンサーが水瓶に触れて確認した。
「この水瓶の模様は、オアシスの枯れたアゼリア村のものですわね。彼らが乗ってきた砂上船の帆もアゼリアの紋章でしたし」
ちびっ子船長はキッと僕を睨む。
「滅んだ村から? いったいどういうことかしら? 詳しく話を訊かせてもらおうじゃない」
ホッと胸をなで下ろす。ひとまず、いきなり刃傷沙汰にはならなさそうだ。
砂漠の男たちも剣の柄から手を離しシャチ子も警戒を解く。
ベリーダンサーが改めて、舞うように一礼した。
「私は砂漠の民をまとめる踊り手のサリヤ。こちらは当船デザートムーン号の船長を務めるイレーナと申します」
「セツナです」
「メイでーす」
「我が名はオルカ……」
自己紹介の途中なのにメイは「こっちのおっぱい剣士はシャチ子と言います」と、本名を言わせなかった。
口元を隠しているサリヤだが、目元がにこりと微笑む。
一方、女船長は不服そうだ。
「胸が大きいだけじゃなくて、身長まであるなんて生意気ね海魔族」
「なんだと小娘」
今度はシャチ子とイレーナが視線をバチバチさせた。
どうにも海魔族嫌いというのは筋金入りみたいだ。
ひとまず自己紹介も終えたところで、僕らは旅の目的と、これまでのいきさつを船長と踊り手に語った。
もちろん、当たり障りの無い範囲内で。
イレーナの眼帯をしていない方の目はずっと懐疑的だ。
「口じゃなんとでも言えるじゃない。海魔族から逃げてるなんて信じられないわ」
踊り手がくるりとターンした。
「けれどイレーナ船長。海を愛する貴女だって、今はこうして砂上船に乗っているのですし」
「う、うっさいわね! アンタっていつも一言多くて余計なお世話なのよ!」
信じてもらえないか。けど、僕らは先に進まなきゃいけない。
「あの、僕らの船を返してもらえませんか?」
イレーナが口を「へ」の字にした。
「ハァ? 何言ってんの? その船は盗品でしょ? 砂漠の民に返すのが筋ってもんじゃない? サンドワームから命を救ってもらっただけじゃ飽き足らず、彼らの財産まで奪うわけ?」
シャチ子が刀の柄に手をかけそうになった。
手で制する。なんでも物理的に解決しようとするのは、シャチ子のよくないところだ。
女剣士は言う。
「あの船はオアシスの枯れた廃墟で発見したものを、このセツナ様が復元したものだ。放置されたものを使えるようにして利用したにすぎぬ」
「な、なによそれ? へりくつじゃない!」
にらみ合う二人の間を、サリヤがステップを踏んでスッと割る。
そのまま僕の前で一礼した。
「あれを差し上げることはできません。元々、我ら砂漠の民の財産ですから」
「そう……ですよね」
「けれどこの砂の海にいる間は、どうぞご自由にお使いください。きっと元の持ち主も喜ぶでしょう」
「いいんですか?」
「ええ。よろしいですよねイレーナ船長?」
「アンタが言うなら……べ、別に認めてやらなくもないけど」
お墨付きをいただいた。
ひとまず砂漠を抜けるまでは、船を使わせてもらえるっぽい。
サリヤが北西を指さす。
「まずは補給もかねて町に向かいましょう。船長、ご指示を」
「進路そのまま! 全速前進よ!」
巨大船は風を帆に受けて快調に走り続け、遠くにオアシスが見えてきた。
ほどなくして――
この砂の海のちょうど真ん中にあって栄える砂上船交易ターミナルの町――砂海宮の大型船港にデザートムーン号は入港した。
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