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4.夢の話をしよう

【前回までのあらすじ】

漂着物の樽の中から謎の美少女を救い出した結果――

「わああ! あなたは救いの神様ですか? 感激いたしますが!」

セツナは神扱いされてしまうのだった。さてさてどうなるのやら。

 金の瞳が不安そうに僕を見つめる。


「どういたしまして?」

「そこは『どうかしましたか?』だね」

「おお。なるほど。大変ためになりますなぁ」


 口調がいきなりオッサンだ。


「メイさんは留学っていうからには、どこかの学校に入る予定だったのかな?」


 海魔族を受け入れている学校があるかは知らないけど。


「まだ進路は決めかねていまして。お金もないですから。逃げてきたも同然なのだった」


 行き当たりばったりな人みたいだ。

 メイがハッと目を満月みたいに丸くする。


「先生! セツナ先生が良いとメイは思いますが!?」

「え? 先生って……」

「どうかメイの人間語の先生に就任なさって。どうぞ」

「ちょっと待った。もしかして僕についてきたりしないよね?」

「この命、救われました。先生のために生きていく。これ、恩返しなり。であるならば、おそばにおいたらいいのでは?」


 心の中で頭を抱えた。

 どうやら開けちゃいけない樽だったみたいだ。

 僕一人、生きていけるかも怪しいのに。


 メイはぴたっと抱きついてきた。

 柔らかくてぷにっとした感触で、ちょっぴりひんやりしている。


 それに、震えていた。怯えるように。心細そうに。


「どうかよしなに」

「なんでメイさんは樽に入ってたのかな?」

「亡命に手段は選ばないのです」


 語学留学どこいった。

 語彙ごいは豊富なのに使い方が無茶苦茶だ。

 

「亡命ってなんだかすごいね」

「メイはですね、神様を探しています。セツナ先生がその神様かと思いましたが、たぶんちゃうな」


 語尾がいきなり西方言葉になった件。


「たぶんじゃないよ。僕は神様じゃないからね」

「まさしく。ですからメイは本物の神様に会わねばなりません。仮に面会謝絶だとしても!」


 微妙に偽物扱いされた感。


「会ってどうするのかな?」

「救いを求めて! お願いをするのです!」


 教会で祈った神は僕を救ってくれなかった。


 本当に存在するかも疑わしい。実在するなら奴隷なんて存在しないし、みんなが幸せに暮らせているはずだ。

 けど、信じている子に言うのは無粋だよな。


「そっか。メイさんは神様に何をお願いするんだい?」

「人間の神様に会って、メイを人間にしてもらいます。それがメイの夢ですから」

「人間に……なりたい?」

「はい! だから言葉を学びました! なりたさを十段階で言えば、百億千万ですね! わかります」


 わかりません。けど、わかる部分だけまとめるなら――


 メイは海魔族の国から亡命して、人間の言葉を学んだ。神を見つけて願いを伝えるために。


 そして、人間になりたいと思ってる。


 誰も神を見たことがないのに、それが実在して願いを叶えてくれると彼女は信じている。


 関わり合いにならない方がいいかも。と、今までの自分なら思ってたところだ。

 けど――


 僕の命は救われた。

 奴隷船で死んでいたはずなのに、この白い浜辺に立っている。

 たった一人、生き残ったことに本当は意味なんてないのかもしれない。


 メイを放っておいたらきっと、三日ともたないと思う。

 僕にはこれからしたいことなんて思いつかない。


 なら、メイの先生になるのもいいかもしれない。


「じゃあ僕が神様探しを手伝ってあげるよ」

「真実ですか!?」

「うん。メイさん一人じゃ大変だろうしね」

「しかしながら、メイはその……そうだ! セツナ先生のやりたいことをメイにお伝えください! お礼をサービスしますので!」


 なんだかいかがわしい感じになりそうだ。彼女が水着の肩紐に指を掛けて、するりと脱ぎ出す光景が浮かんでしまった。


 しっかりしろ僕。


 自分のやりたいこと。


 教会の孤児院は遠い海の向こう。頼れるのはシスターだけだけど、僕が戻ったら迷惑をかけるかもしれない。


 僕は今頃、王都でスキル鑑定を受けて、それに見合った仕事をしているはずなんだから。


 かといって「あの男は詐欺師で奴隷として売られそうになりました」なんて報告をしたら、シスターは自責の念に潰されちゃうと思う。


 孤児院には戻れない。


 ならせめて――


「僕は平和で人間らしい暮らしがしたい……かな」

「な、なんですって!? メイと同じ夢を描く者よ! 人間になりたいメイとお揃いでお似合いではありませんか?」


 メイはさらにぎゅっと抱きつく。というか、ひっついてきた。

 そのままぴょんぴょん楽しげに跳ねる。


 と、少女の動きがぴたりと止まった。そっと僕から離れて、お腹のあたりをさする。


 ぐぎゅるうううううううううううううううううう!


 野生の獣のうなり声のような音が、メイから発せられた。


「ぺこぺこです。死にます」

「死なないでメイさん」

「あ! あとですね! こればかりは言っておきたい! 先生! メイさんとはなんですか? 他人行儀な! 同じ目的をシェアしてるんでしょう?」


 出会ったばかりの人間と海魔族。なのに他人行儀のなにが気に入らないんだか。

 少女は腰に手を当てぺったんな胸を張る。


「メイさんはダメですね。メイちゃまとかメイちゃんとか、もっとかわいく! もしくはメイと呼び捨てなさって! どうぞ!」

「どうしてもダメなの?」

「でなければ先生を神に昇格させますが?」

「わかったわかった。じゃあ……メイでいいかな?」

「よかよー!」


 こうして――

 僕は白砂の浜辺で海魔族の女の子を拾ってしまった。

 もしかしたら拾われたのは僕の方だったのかもしれない。

 彼女に出会わなければ、自分の未来を考えることさえしなかったのだから。

お読みいただき、ありがとうございます!


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