39.うねうねしたアレ
【前回までのあらすじ】
地下に隠された砂上船を得て、いざ安住の地を捨て危険な砂漠に乗り出すセツナたち。
無事、この灼熱地獄を抜けることができるのか?
夜明けとともに――
風を切って砂上船が砂の海を走り出す。
進路を北西にとった。
オアシスがあっというまに小さくなった。
誰も居ない町にメイが手を振る。
「またね~! また来るからね~! あいるびーばーっく!」
三人だけの平和な世界。手放してしまったようでもったいなく思ったし、寂しい感じもする。
二時間ほど進む。
熱風を頬にうけて、僕は帆を操作し続けた。
海魔族の二人はデッキでこまめに水分補給だ。
オアシスの町の井戸で、水はたっぷりつんできた。
「先生もお水飲みますか?」
「大丈夫だよ」
「手が離せないですか? じゃ、じゃあメイが口移しで……」
スッとシャチ子が操舵を僕から代わった。帆を半分畳んで速度を抑えめにする。
「しばらく私が担当する。この先はやや起伏のある地形で操船も難しい。セツナ様は休んで欲しい」
「あ、ありがとうございます。けどシャチ子さんこそ無理しないでくださいね。二人とも乾燥には特に弱いんですから」
「承知している」
「メイもお水で常にお腹ちゃぷちゃぷです!」
こまめな水分補給は海魔族にとって文字通り生命線だ。
僕は水瓶の時間を戻した。二人が飲んだ分が元通り。井戸からくみ上げたばかりの冷水に早変わりだ。
メイが瞳を潤ませて、両手と触手ツインテールを胸元で組んで僕を拝む。
「ありがたや~ありがたや~」
「よ、よしてよメイ」
「命の水を甦らせる先生は神様を超えたなにかそれっぽいアレですね! わかります!」
「それっぽいアレッ!?」
ふわっと褒められた……気がする。
真昼の砂漠を船は行く。砂漠といっても山あり谷ありみたいな複雑さだ。
もし、オアシスの村から歩いていたら何日かかっても砂漠を抜けられなかったと思う。
と、丘を越えたところで高低差のない真っ平らな砂漠に出た。
地平線の向こうまでまっすぐだ。
見通しがすごく良い。町のようなものは見られず絶望的だ。
シャチ子が汗だくなので操舵を代わった。
「この先は平坦だし僕が操船します」
「ふむ。そうだな」
メイが触手ツインテールをピコピコさせた。
「メイもやりたいかもしれないが?」
「じゃあ、一緒にやろうか」
メイに舵を握らせて、僕は後ろで手取り足取り。
シャチ子に教わったようにした。
「わーお! もっと速くなりますか?」
「じゃあ、そこのレバーをぐるぐる回して帆を全部出してみて」
「あいあいさー!」
メイは舵を手にしたまま触手で帆の開閉レバーを器用に操作した。
風を推力に変える最適な角度を常に見つけて、細かく操作しながら操舵する。
正直、僕よりずっと上手い。
水分補給で艶々に戻ったシャチ子も目を丸くした。
「メイ様にこのような特技があるとは……恐れ入りました」
「ふっふっふ。やはり天才でしたか」
自分で天才って言い切っちゃうんだ。とはいえ、本来なら二人で分担してやるか、一度舵から手を放して操作しなきゃいけないところを、メイは一人で全部こなすことができた。
触手ツインテールはかなり器用だ。
今までよりも上手く風を捉まえて船は行く。
波一つ立たない凪みたいな砂の平野を快調に滑っていった。
と、その時――
ドグシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
まるで地面が爆発して砂の間欠泉が吹き上がるように、僕らの目の前で巨大な砂柱が立ち上がった。
直径十五メートルを優に超える、巨大なミミズが姿を現した。
「急速回頭! 逃げるが勝ちなのだがあああああ!」
メイのとっさの操船で、ミミズの起こした砂の波をうまく回避した。
ミミズはのたうつ。それだけで地面が揺れてるみたいだ。
シャチ子に訊く。
「なんですかアレは!?」
「私がなんでも知っていると思うなよセツナ様! こっちが訊きたいところだが……概ね、この砂の平野を縄張りとする超巨大サンドワームといったところだろう」
たぶん正解なんだと思う。
迂回したものの、サンドワームは僕らを追ってきた。
速力が足りずこのままじゃ追いつかれそうだ。
「荷物を捨てよう! メイはそのまま操船をして!」
「ええ!? 命の水もですか!?」
「メイ様。このままでは危険です!」
サンドワームが口を開いた。
細かいギザギザの牙はまるでトンネル掘削用の巨大な魔導具みたいだ。
あんなのに吸い込まれたら、船も僕らもひとたまりも無い。
水と食料以外のものを捨てると、サンドワームはそれに反応して進路を変えた。
やっぱり僕らを餌だと思ってるみたいだ。
少し時間が稼げたけど、すぐに追いつかれそうになる。
食料の入った木箱も投げ捨てた。
最後に水瓶を手にしてシャチ子が「ぐぬぬ」と眉間に皺を寄せる。
人間の僕でも苦しいのに、もし逃げられたとしても水抜きじゃ二人は……。
操舵するメイが叫ぶ。
「捨てて! シャチ子!」
「わ、私がここで船を下ります。水瓶さえ残ればメイ様は生き延びることができましょう」
僕はシャチ子の腕をぎゅっと握って瞳をのぞき込む。
「そんなの……ダメだよ」
誰かを犠牲にすれば生き延びられるかもしれない。
そんなのはまっぴらだ。
僕は――
水瓶を剣で削った。欠けた一部を手にして残りを船から蹴り落とす。
余計なモノを捨てきって船の速度はあがった。
追いつかれないギリギリだ。
けど、サンドワームは追従してくる。
振り切れない。
シャチ子が月光を抜いて構えた。
「クッ……やはりここまでか。ならば我が一太刀受けてもらうぞ!」
「早まらないでシャチ子さん!」
「私が降りれば奴をぶっちぎれるではないか!!」
このままだと女剣士が飛び降りかねない。
説得の材料が見つからない。
もうダメか――
そう、思った時。
空を巨大な矢が走り、数発がサンドワームに命中した。
ギャピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!
その図体からは考えられないような高周波の悲鳴を発してサンドワームがのたうつ。
続けて三連射。矢の大きさはまるで巨人が放ったかのようだ。
攻城兵器のバリスタってやつかもしれない。
サンドワームは地中に潜った。
まだ油断はできないけど――
視線を進行方向に向けると、砂上船が浮かんでいた。
矢はこの船から放たれたものだ。
「お助けですか?」
「そう……みたいだね」
船を近づけると見上げるほどの大きさだった。
船のへさきに誰かが立っていた。
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