37.安住の地
【前回までのあらすじ】
本来なら砂漠で干からびていたはずだが、セツナの「時間」スキルで常に身体の状態を一秒前に戻すという荒技で歩き続けて――
村を見つけた一行。だが、半分砂に埋もれた廃墟だった。
人々の暮らしがあったことに思いをはせながら、セツナは村の時間を巻き戻していく……。
砂漠のオアシスの村は平和だった。
住人がいなくて物寂しいけれど、時間を戻せば日用品も交易品もすべて使用前の状態に戻すことができる。
食料は時間を戻した市場から取り放題。
涸れた井戸も元通りだ。
オアシスの水も湧き続けて、水が蒸発することで気温も下がって過ごしやすい。
日がな一日水浴びしたり、周囲の緑地で野菜を育てたりした。
メイ曰く――
「バナナ以外の全部がある暮らしのレベルが高いおーるうぇいずが出ますねぇ」
シャチ子はといえば――
「この村には酒だけ足りない!」
実際に住むには不自由せず、どころかむしろ快適なくらいだった。
住めるぞここ。結構いい感じで。
女剣士も「絶対」とは言い切れないが、仮にこの村にいる状態でメイの波動を刺客が掴んだとしても、海魔族が広大な砂漠を渡ってくることは難しいという。
港村や獣魔大森林の里、鉱山町のような賑わいはないけれど、静かに暮らすにはうってつけだ。
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村で一番大きな屋敷に間借りして、数日が経った。
同じような毎日だ。昼間は村の中を探索したり、ナツメヤシを採ったり。
日が暮れるまで三人でかくれんぼなんかをして遊んだりもした。
村の中に何か「神様」に関して書かれた本でもないか、みんなで探したけど見つからない。
香辛料を使った料理のレシピ本があったので、その通りに料理を作ってみたりもした。
めちゃくちゃ辛くて、三人揃って鼻水でずるずるだ。
これからは辛いスパイスの量を半分にしよう。と、我が家のレシピ(?)が完成。
仕事が無いと手持ち無沙汰になる。
だんだんと、やれることがなくなっていく。
それでも平和だ。
今日も夜が訪れる。
知らなかったけど、砂漠の夜は冷える。
水辺でたき火を囲んで鍋を掛け、特製スープを温めた。
調理はメイの胆道だ。シャチ子はメイがあまりに家事が出来ることに感動しっぱなしだった。
時々、歌うように海魔族の言葉で二人は話していた。
『メイ様はいつでも花嫁になれますね』
『先生の幸せそうな顔をずっと見ていたいですから』
なんだか穏やかな感じだ。会話の内容が気にならない……とは言い切れないけど、聞きだそうとも思わなかった。
メイが言う。
「シャチ子は暮らしの役立たずなのでメイががんばりますね!」
「クッ……メイ様。あまりにご無体な」
僕は女剣士に掛ける言葉が見つからなかった。なんとか「あっ……ええと、これからメイを先生にして上手になればいいと思います」とフォローした。
シャチ子が手伝うと料理も掃除も大惨事になる。消し炭になった肉を戻したり、内部から半壊した家を修復したり。
平和なこの村にいる間、シャチ子の出番はあまりなさそうだ。
スープと小麦粉を練って焼いただけのパンを食べる。
食事を終えるとシャチ子はあくび交じりに「先に休む。おやすみなさいメイ様、セツナ様」と、仮住まいに戻っていった。
メイと二人きりだ。オアシスの水面に欠けた月が揺れる。
クラゲ少女は座ったまま僕に肩を寄せた。
「ロマンチックとは、今まさにこの瞬間なのです」
「ええと、そう……だね」
「チューとかしますか?」
「うん……」
特に何も考えずに頷いてしまった。不意に少女のプルプルな唇が僕の頬に触れる。
とっても柔らかい。
メイは顔どころか、半透明な触手ツインテールの先端まで真っ赤になった。
「キャー! しちゃった! やってやったZE!」
口調でムードとかもろもろが吹っ飛んでしまうも、メイらしい。
「今度は先生! 先生がお返しにチューですね! はいどうぞ! こちらの左ほっぺちゃんがおすすめですが?」
たき火の音がパチパチはぜて、炎が揺らめく。
僕の方からメイの頬に口づけした。
メイはますます赤くなり、俯くと少しだけ口を尖らせる。
「幸せってなんだろなぁ」
「僕は今、幸せだよ」
「め、メイもですが!?」
「ずっとこのまま、三人でこの村に住むのもいいかもしれないね」
神様探しなんて途方も無いことをするよりも、いいかもしれない。
まだ王都にすらたどり着けていない。
砂漠の外に出れば、いつまた海魔族の刺客に襲われるかもしれない不安でいっぱいになる。
メイは金色の瞳でじっと僕の顔をのぞき込んだ。
「メイは……メイはね……」
と、その時――
「ぎょわああああああああああああああああああああああああああ!」
っと、家の方からシャチ子の絶叫が響いた。
「な、なんですとー!」
「様子を見に行こうメイ!」
立ち上がるとクラゲ少女の手を取った。
屋敷に向かう。
一階玄関ホールでシャチ子が床にハマっていた。
胸がつっかえて落ちなかった……は言いすぎだけど、床板を踏み抜いたっぽい。
「大丈夫ですかシャチ子さん?」
「むぅ、このような情けない姿を見られるとは不覚ッ!!」
メイがしゃがみこんでシャチ子の胸の上のあたりを指でツンツンする。
「おっぱい大きくて助かりましたね。メイなら即死でした」
「メイ様! ちゃんと腕でも身体を支えております。しかし、家の中にこのようなトラップがあるとは……」
僕は首を傾げた。
「玄関ホールの真ん中に罠っていうのもおかしいですよね。僕らは普通に行き来できてましたし」
メイが頷く。
「シャチ子デブ?」
「メイ様、ドストレートはおやめください! ふ、太ってなどおりませぬ……ただ……床の下に空間めいたものを私の感覚が認知したので、地下倉庫などあるかと思い、少し勢いよく床を踏んでみただけなのです!」
つまり女剣士は自分で踏み抜いて落ちたということらしい。
僕が修復できるからって、遠慮がなさ過ぎる。
けど、シャチ子の下半身が収まるくらいの空間が屋敷の下にあるってことだ。
メイが言う。
「このままそっとしておきましょう先生!」
「そうはいかないよ」
「シャチ子は困ってないから先生が助けずともなんとか自力でがんばれます。シャチ子は強い子ですから!」
女剣士は涙目だ。
「助けてくださいメイ様、セツナ様」
「シャチ子ざっこ」
メイって時々、容赦がないな。敵に対してはもちろんだけど、シャチ子に厳しいところがあるかも。
僕とメイで大きなカブでも抜くみたいに、シャチ子の両手をそれぞれ掴んでぐいっと引っ張り上げた。
「で、地下に倉庫があるとして、何を探してたんですか?」
「さ……酒があるやもしれぬと」
ああ、シャチ子って結構ダメな人なのかもしれない。
女剣士の抜けた穴をのぞき込むと――
石造りの隠し階段が地下深くまで続いていた。
メイが瞳を輝かせる。
「冒険! 冒険の匂いです!」
イキイキしてるな。数日の平和はもしかしたらメイには退屈だったのかもしれない。
神様探しは……続行しよう。
その前に、まずはこの地下へと続く隠し階段からだな。
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