36.熱砂に追い詰められて
【前回までのあらすじ】
海魔族の神官エビルが差し向けた追っ手から逃れるため、三人は吊り橋を渡った。橋を落としてなんとか事なきを得たかに思えたが、自ら退路を断ったも同然。
先に広がるのはフライパンを熱したような砂漠地帯だった……。
退路が無い今、僕のスキルが命綱だった。
メイと手をつなぎ、メイが反対の手でシャチ子の手を握る。
三人並んで黄色い砂の海に一歩踏み出した。
スキルの範囲指定は僕自身の肉体とメイ、それにシャチ子。
喉の渇きも乾燥も一秒前に「戻し」続ける。
メイの触手ツインテールがぴょこぴょこ動いた。
「こ、これは……暑いけど……し、死なないのでは!?」
シャチ子も「ふむ。この状況も想定していたのか。セツナ様のアイディアにはいつも感心する」と、頷いた。
広大な流砂の海が視界いっぱい。揺らめく大気。蜃気楼なんか見られそうだ。
太陽が南中に上がり、本来なら流れ落ちる汗すら蒸発してあっという間に干からびていたところだけど――
僕らは散歩でもするように歩き続けた。
疲労も一定以上は感じない。喉の渇きもだ。
足取りだけは慣れない砂にとられて重い。
丘陵みたいな砂の山は避けて、谷底のようになっているところを進む。
日が傾き空が真っ赤に染まった。
すると――
メイの触手ツインテールが右前方遠くを指し示し言う。
「先生あちら! あちらをご覧ください! 右手に見えるのは村! 村でございま~す!」
砂の海の真ん中に建物らしきものが見えた。肩を寄り添い合うように、小さな石造りの家が密集している。
けど、近づいてみればそこは廃墟だった。
三人手をつないだまま落胆する。
ナツメヤシの木も枯れて、家々も砂の浸食を受けて風化しつつあった。
きっと昔はオアシスだったのだろう、窪地もある。
シャチ子が言った。
「ここをキャンプ地としようにも、キャンプ道具は先ほど逃げる際に捨ててしまった。このまま先に進むべきではないかセツナ様?」
メイも「が、がんばります! メイは先生にどこまでもついていくと誓ったのだった!」と、触手ツインテールで力こぶ(?)を作ってみせた。
確かに進み続けることはできる。
肉体的には一秒前に戻し続けて疲労も消耗も無効化してきたけど、二人の精神はきっとくたくただ。
「この村のご厄介になろう」
「先生はくるってますか? 誰もいない! ここは死んでる!」
「確かに村の人たちはオアシスが枯れて移住したみたいだね」
僕はメイから手を放すと地面に触れた。
範囲を村とオアシスに限定して時間を戻す。
十年……二十年……。
みるまに巻き戻り復興していく村。
オアシスは美しい水をたたえ周囲が緑に溢れる。
枯れたナツメヤシの木は実をつけていった。
村の家財道具やら食料なんかまで全部元通りだ。
廃村は一つ前の状態――村に戻った。
住人だけが不在だ。
メイが驚く。
「おおおおおおおお! 先生は化け物ですか!?」
「えっと、褒め言葉だと思っておくね」
シャチ子が正面から僕を抱きしめて、胸を顔にぐいぐい押しつける。
「素晴らしいぞセツナ様! ここに一生住めるではないか!?」
ちょっと汗ばんでるけど、シャチ子のもちっとした柔肌に挟まれて……正直どうしていいかわからない。
メイが声を上げた。
「め、メイも先生を熱く抱擁しますからぁ! もー! シャチ子のおっぱい海魔族めー!」
二人に抱きしめられて蒸し焼きになりそうだ。
ともあれ――
死んだ村を即席で生き返らせることには成功した。
ずっと歩き通しだったし、文字通りこの村が僕らのオアシスになりそうだ。
二人は僕の頭を撫で終えて離れた。
クラゲ少女がばんざいする。
「メイはざぶーんしたいです! 先生のお許しをください!」
「ざぶーんって?」
触手ツインテールがオアシスを指し示した。
「あっ……うん。いいよ」
シャチ子が頬を赤らめる。
「セツナ様……あの、か、可能であれば私もだな……」
「二人とも行ってらっしゃい。僕はその間に村を調べてみるよ」
メイの触手が僕を拘束する。
「先生もご一緒に!」
「え?」
シャチ子もうんうん頷く。
「遠慮はいらぬぞセツナ様」
あっという間に僕はパンツ一枚にひんむかれるとオアシスに投げ込まれた。
冷たッ! けど、それが猛烈に気持ちいい。水の上にぷかーっと浮かんで見上げた空に、一番星が煌めいていた。
二人もさっと拭くを脱ぐ。
シャチ子は薄い布面積の下着姿。メイは白い水着になって、ざぶーんする。
このあと三人でお腹が空くまでオアシスの水を全身で堪能した。
追っ手をかけられて息が詰まりそうだったけど、やっとリラックスできそうだ。
まさか砂漠の廃村を復活させて逃げ込んでるだなんて、敵も思ってはいないだろう。
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