33.24時間酔いどれますか?
【前回までのあらすじ】
枯渇した鉱山に落盤事故。衰退必至の町に颯爽と現れた救世主――その名はセツナ・グロリアス。
彼の手により鉱山は蘇り人々に活気が戻ろうとしていた!?
翌朝――
僕らは鍛冶職人街を訪れた。
職人ギルドに足を運ぶ。
所在なさげに昼間から酒をあおるギルド長のドワーフに事情を説明すると――
「ういーひっく! しおうお@あほはおほいは!!」
だめだこの人、酔っ払ってる。シャチ子が腕組みして「酔っ払いはこれだからたちが悪い」とため息をついた。
お前が言うなって言葉が脳裏をよぎったけど、口には出さないでおこう。
メイも困り顔で、両手と触手をひらひらとさせてワカメのモノマネをしている。
「どうですか? メイは?」
「ひっく! ああああああ! おいsど@@jfpこpw!!」
会話にならない。
僕は酒瓶を取り上げるふりをして、ギルド長の手の甲に触れて時間を戻した。
一時間戻したけど酔っ払ったままだ。
二時間……三時間……あれ? この人何時間酔っ払ってたんだ?
二十四時間戻してもまだ酔っ払ったままだ。
「ひっく! うぃあああああp@いあp:kぽs!」
しょうがない。三年くらいもどそう。ドワーフの男性は全員のきなみ老け顔だから、若返ってもそんなに変わらないだろうし。
時間を戻すと突然ギルド長の背筋がシャキッとなった。
「ムムッ……旅人よここは鍛冶職人ギルドのギルド長執務室だ。用件はなにかね?」
急にまともになった――ッ!?
この人、落盤事故があった三年前からずっと酔っ払い続けてたのか?
お酒に強いイメージがドワーフにはあるけど、よく死ななかったなって思う。
シャチ子が僕に代わってギルド長(正気)に、もろもろ説明してくれた。その間、メイはワカメのモノマネで揺れっぱなしだ。
事情を把握したギルド長がメイをじっと見る。
ちょっとおふざけしてるように見られちゃったかな。
ギルド長が眉間に皺を寄せた。
「ワシは昆布派だ」
「な、なぬー!? 違いのわかる男ですね」
「それくらいでなければギルド長は務まらん」
「なるほどーわからん」
「その指先のしなやかな動きと繊細さは、昆布派のワシにも伝わる素晴らしい所作だ。技前おみごと」
「どういたしまして! それほどでもありますが!」
敵ながらあっぱれみたいなことになってる。
もしかしてメイのモノマネって、僕が知らないだけで世間一般では認知されてるのかな。
ギルド長は腕組みをすると復興について所感を述べた。
やることが山積みで、実行可能にはほど遠い。
問題はやはり金銭だ。
保線されていない坑道行きのトロッコレールや鉱石を運ぶ貨車。
鉱石を精製する炉のメンテナンス。熱源は魔晶石式なので、専門の技師を王都から招聘しないといけない。
王都に商品を流通させるため、魔導列車の再運行を王都の鉄道公社に申し出る必要も出てきた。
「それなら僕が修復しますね」
「な、なん……だと……」
ここでうだうだやって時間をかけて、海魔族の刺客が町にやってくるよりはサクッと終わらせた方がいいという判断だ。
重要な設備や施設はすべて、新品状態に戻してしまおう。
ギルド長は「まあ、あの伝説の職人ゴルドンの推薦だ。それに鉱山をまるごと修復したというのなら、その言葉を信じよう」と、僕の提案に頷いてくれた。
シャチ子が首を傾げる。
「ゴルドンは酒場の店主だろうに?」
「あの男の元には自然と良い採掘士が集まる。酒場はそういった連中をもてなすために始めた副業だ。奴の本職は鍛冶職人だからな」
僕らに隠してた……ってわけじゃないんだろうけど、意外だった。
方針をある程度固めたところで、鉄道公社への嘆願は魔導通信で僕も交渉の席に参加した。
最初はなしのつぶてで廃鉱山に回す列車は無いの一点張り。
三年間音沙汰無しじゃしょうがない。と、ギルド長も諦めかけたけど。
「ちょっと待ってください」
公社の担当は僕の名前を聞くなり『少々お待ちください。上の者と相談いたします』と手のひらを返した。
港町での鉄道橋復旧に、崖崩れする場所の対策案の提示。
海魔族の襲撃による未曾有の大事故から乗客の命を守り、列車を線路も修復したこと。
修復士セツナ・グロリアスの名前は鉄道公社でも有名だった。
そのセツナが鉱山町の復興の手助けをする。
それならば……と、列車を回してもらえる手はずになった。
通信を終えて鍛冶ギルド長はゆっくり息を吐くと、僕たちに深々と頭を下げた。
「ワシらはみな腐っておった。目を覚ませてくれてありがとう」
「まだ修復を始めてもいないのに、頭を上げてくださいギルド長さん」
顔を上げドワーフは首を傾げる。
「しかし、なぜそこまでしてくれるのだ?」
「メイの望みでもありますし、なにより……」
「なにより?」
「困った時はお互い様ですから」
「そうか。セツナ殿。恐れ入った。その友愛、誠に痛み入る」
もう一度、ギルド長は頭を下げた。
と、すぐに姿勢を正して続ける。
「だが、問題はまだ残っているのだ」
シャチ子が「ふむ」と先回りして言う。
「職人たちだな? ギルド長の貴様がその様子では、まともに腕を磨いていた者もおらぬだろう」
「お恥ずかしい限りだ」
職人にはリハビリが必要ってことみたいだ。
なら――
「すみません。これまでに作った剣とか防具の在庫はありますか?」
「まあ、あるにはあるが……」
「失敗作や低級品なんかがあれば、ありったけ集めてください」
「ジャンクをか? いったい何をするというんだセツナ殿?」
「ちょっとやってみたいことがあるんです」
詳しい説明を求められるかと思ったけど、僕がじっとギルド長の目を見ると「……わかった。セツナ殿に任せた方が良さそうだ」と、信じてくれた。
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ギルド会館を出ると、メイがぽつりと呟いた。
「この鉱山が空っぽになったら、先生はまた元通りにしますか?」
「どうだろうね。その時になってみないとわからないけど……向こう百年くらいはまた掘削できるみたいだし、全部を掘り尽くす前に僕の寿命も尽きてるんじゃないかな?」
「せ、先生死んじゃいやああああ! 死なないでえええ!」
「大丈夫だよ。それまでにはちゃんとメイを人間にするから」
「そうしたら……ぴこーん! ひらめきましたね。メイも先生のおそばで添い遂げられるという寸法ですな」
「うん。だからメイを独りぼっちにはしないよ」
「これは……ありがたい」
メイはポッとほっぺたを赤らめて僕の腕にぎゅっと抱きついた。
一生一緒宣言をしてしまったけど、悪い気はしない。
こうして――
手始めに町中のありとあらゆる施設を修復した。
炉の中に残っていた使用済みの魔晶石を、一つ前の状態に「戻し」て新品の魔力満タン状態にする。
町中からかき集められた在庫やジャンクの剣も加工前の状態――素材にした。
その素材を腕の鈍った職人たちに再分配。
自由に加工してもらって、失敗作は普及レベル程度の品は全部「戻し」て作り直させた。
最高品質のモノは販売する。
まずは獣魔大森林へ。
僕の名前を出すと、そこそこの額で買い取ってくれた。
武器の品質は素晴らしい。獣魔大森林に住む武器マニアの間でオークションになるほどだ。
シャチ子が言う。
「ふむ。修行と金策。セツナ様がいなくなってもいいよう、町の運営が軌道に乗るまでのサポートとしてはぴったりだな」
「採掘士が集まって、採掘が再会。僕らが町を離れても大丈夫な状況にしておきたいからね」
「さすがと言わせてもらうぞセツナ様」
ドワーフたちはこれまでの鬱憤を晴らすように、二十四時間休みなしで武器や防具を作り続けた。
『スキルレベルが60になりました。範囲がさらに拡大しました。単位に10年が追加されました』
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