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32.この町を諦めるなんてもったいない

【前回までのあらすじ】

鉱山と鍛冶職人の町にやってきた一行。

だが、どうにも人々に活気がない。

ひとまず酒場で王都行きのための情報収集をしたのだが……。

 酒場の店主は「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はゴルドン。見ての通り、寂れた町でつぶれかけの酒場のカウンターで、グラスを磨くだけの仕事をしてる」と名乗った。


 僕らも返す。


「セツナです」

「メイでーす」

「シャチ子……ではなく、我が名はオルカ・マ・イールカだ」


 改めて、自分たちは旅人で王都に調べ物に行く途中。と、教えたのはそれくらいだ。

 

 海魔族の神官エビルの言葉が脳裏をよぎる。


 誰かと親しくなれば、その誰かを巻き込むかもしれない。長居するつもりはないし、王都への経路を聞いてみよう。


「ゴルドンさん。ここから王都へはどうやって行けばいいですか?」

「昔は列車の運行があったんだがな、旅客も貨物も全線休止……つーかアレだ。廃線予定だ」


 メイが首を傾げる。


「どうして廃線しますか?」

「そりゃあお嬢ちゃんアレよアレ。鉱山から魔晶石も良質な鉱石も採れなくなっちまったからだよ」

「ええっ!? 一大事ですねお大事に!」

「放っときゃ治るわけでもないしなぁ。ま、気持ちだけはあんがとよ」


 シャチ子が火吹き酒で唇を湿らせる。


「クッ……強いな」

「シャチ子さん。飲み過ぎて動けないなんてことは勘弁してくださいね」

「安心しろセツナ様。いくら酔ってもセツナ様にかかれば秒でしらふだ」


 僕のスキルを酔い醒ましで当てにする前提なんだ。シャチ子は店主の顔を指さす。


せぬ。新しい坑道を掘れば良いのではないか?」

「乱開発したせいで下手に掘ると落盤するようになっちまってな。昔はいくらでも魔晶石が出るってんで、無理な採掘をしちまったんだ。山はスカスカのアリの巣。自業自得ってやつだぜ。はっはっは……はぁ」


 ゴルドンは寂しそうに肩を落とした。

 どうして廃鉱山の町に残ってるんだろう。


「それでもゴルドンさんは町を出なかったんですね」

「俺の仲間たちが落盤事故に巻き込まれてな。連中、この町をもう一度活気に溢れた職人たちの楽園にするって……無茶しやがって。採掘士はみんな気の良い奴ばかりだった。今は店の椅子もほとんどホコリを被っちまってるけど、最盛期にゃ連日、朝までどんちゃんやってたんだぜ?」


 この人も、僕と同じで「たった一人の生き残り」なんだと思った。

 仲間を事故で亡くして独りぼっちだ。


「落盤事故があったのはいつ頃ですか?」

「三年前だな」

「遺体は?」

「なんだよ急に」


 ゴルドンの口ぶりが少しだけ怖くなる。

 僕の聞き方が悪かった。


「ごめんなさい。あの……ちゃんととむらわれたのかなって思って」

「崩れた場所がそのまま採掘士連中の墓穴になっちまったよ。立ち入り禁止の看板が墓標代わりだ。なんとかしてやりてぇけど、堀り出そうとすりゃ二次被害もあるってんで……そもそも金も無くてよ」


 時間スキルで「戻し」て、遺体を回収。死者の状態を一つ前の……つまり生者に戻すことができたら――


 なんてことを考えてしまう。

 実際に出来るかどうかはわからない。試してないし、安易に試せるものでもない。


 生き返った人がその先、どう生きていくのか責任も取れなかった。

 戻ってきた人を迎える側の気持ちの整理だって……。


 けど、もしメイやシャチ子が死んだら、僕は二人を迷わず生き返らせると思う。


「ゴルドンさん、仲間に戻ってきて欲しい……ですか?」

「ああ、ひょっこり誰か帰ってきてよ。『よぉ大将! 地獄から舞い戻った俺に一杯おごってくれないか?』なんて言ってくれるんじゃないかってな。未練たらたらで気づけば三年……あんたらが最後の客だ。さっき大業物も見せてもらったし、この町を出る決心がついた」


 ゴルドンの目にうるっと涙が浮かんだ。心底悔しそうだった。

 シャチ子が火吹き酒を喉に流し込む。


「惰弱なッ!! 鍛冶職人の町が聞いて呆れる!」


 うわ、早くも出来上がっちゃってるし。


「いやあねさん。昔は本当にすごかったんだぜ。腕の立つ職人たちもごろごろいたんだ」

「工夫と情熱でなんとかしてみせよ!」

「打つ鉄も炉の燃料もないんだ。職人連中もほとんど町を出ちまった。残ってるのは俺と同じで、この町に未練たらたらなバカだけだよ」

「ほとんどということは残っている職人はいるのだな?」

「いるにはいるが……職人たちはここで採れる良質の鉄鉱石に惚れちまってな。自分で掘ってるやつもいる。けど今じゃカスみたいな鉱石しか出ないんで、カスみたいな剣しか打ててねぇ。腕もきっとなまっちまってるだろうよ。だから遅かれ早かれ……」

「うるさい! もう一杯だ! おかわりをよこせ!」


 メイの触手ツインテールがシャチ子の腕に巻き付いた。


「シャチ子、ダメです」

「ですがメイ様! この町の設備も規模もあまりにもったいない! 坑道の状況を調査し発掘計画の見直しと安全対策を徹底し、再開発に着手すべきかと!」

「メイにはそういう難しいのわかんないけど、みんながシャチ子みたいに強さMAXじゃないですけんね」


 シャチ子は「クッ……店主よ失礼した」と、頭を下げた。

 ゴルドンは髭を撫でる。


「いや、姐さんの言う通りだ。あの落盤事故でみんな諦めちまった。ただ、もう遅すぎたのかもしれん」


 しんみりした空気が充満する中――

 僕の服の袖を少女がくいくいと引っ張った。


「先生は人助けのプロフェッショナル。メイは知っていますね。わかりますとも」


 金色の瞳がじっと見つめてくる。

 いつ追っ手がかかるかもしれないけど――


「情けは人のためならず。かな」

「おお、先生は情け無用の容赦ない男!? メイはとても恐ろしいです」


 クラゲ少女は触手ツインテールをぷるぷるっと震えさせた。


「情けをかけるのはいずれ巡り巡って自分に返ってくるっていう意味だよ」

「ええ!? では因果応報ですか?」

「まあ、そうかもね。ゴルドンさん。この町の鉱山が開発され始めたのって何年前か御存じですか?」

「だいたい百年ってとこだ……つーか、お客さんらはただの旅人じゃないんかい?」

「ええと、僕はその……修復スキル持ちなんです。坑道の危険な部分の補修をして、落盤を防げるようにできるかもしれません」

「そんなことが……町の道路や壁を直すのとは訳が違うだろ? それに、鉱山丸々補強するなんて、いったいいくらかかるか。見ての通り、この町に残ってる人間の有り金全部集めても無理な話だっつーの」


 無料で受けても良かったけど、何か条件を出した方が逆にゴルドンは首を縦に振ってくれそうだと思った。


「鉱山が復旧して利益が出たら、これから百年間、その利益の1%を僕にください」

「そいつはええと……俺一人じゃ判断できんこったけど」

「では、町の代表者と僕らをつないでくれませんか?」


 ゴルドンの仲介で鉱山町の領主とすぐに面会が実現した。

 領主は首が回らず首つり自殺をしようとしていたところで、ある意味とんでもないタイミングで訪ねてしまった感じだった。


 僕が修復するという話をすると「それができるなら自殺をやめよう。ま、一介の旅人にできることじゃあないでしょうけどね」みたいなノリで返された。


 失敗したら訴えるなんて言い出している。病んじゃってるみたいだなこの領主。


 口でアレコレ説明するより実際に、やってみせた方が話も早い。


 領主の許可を得て、僕らは落盤事故の現場へと向かった。


 レベルがあがって、一年を一秒で戻せるようになったし、効果範囲の拡大もどれくらいかを確認したかった。


 失敗すれば王都で裁判。だから失敗はできないな。


 三年前の事故現場となった鉱山南側の入り口で、僕は時間を戻す。

 落盤で埋まった坑道入り口がみるまに元通り。範囲拡大効果がどれほどかわからないけど、全力を出せば半径百メートルくらいまでカバーできそうだ。


 前に崖崩れで列車橋が埋まった時には「戻す」のに消耗しきっちゃったけど、あれと同じ規模のことをやっても気絶するようなことがなくなった。


 埋まった部分を元通りにする。途中、四十七人の採掘士の遺体を発見した。


 帰ってきた彼らは後日、きちんと町の墓地に埋葬され弔われることになった。


 アリの巣のように広がった坑道はいつ崩れてもおかしくない不安定さだ。

 モンスターも徘徊していて危険な状態だった。


 シャチ子とメイに護衛してもらいながら、坑道の奥まで進む。

 ここから順番に修復……というていで、脇道の時間を戻して掘削前の状態にしていった。


 毛細血管の末端部分のような通路から時を戻し、百年続いた採掘の歴史を無かったことにする。


 枝葉の道はすべて埋める。中央の幹となる坑道だけが残った。


 ここからさらに奥へと採掘できるようにお膳立てして修復完了。


 無事、坑道から戻るとゴルドンが「仲間をきちんと埋葬できただけでも、この恩は返しきれねぇ。ありがとうなセツナさん! それにメイちゃんと姐さんも!」と、感謝の涙を流した。


 これで未練は綺麗になくなったと思うんだけど、ゴルドンは店を続けると方針転換。


 町を復興させるというのだ。今度はきちんと計画的に採掘をして、採掘士も募集し、少しずつでも町に活気を取り戻したい。


 シャチ子の愛刀月光のような、すばらしい剣をこの町からも輩出すると意気込んだ。


 領主も「鉱山があげた利益の1%を譲渡する」という契約書に一発サイン。

 夜は領主の屋敷で一泊した。


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