31.鉱山の町に紅い風が吹く
【前回までのあらすじ】
族長ルプスと狐巫女フゥリィに見送られ、獣魔の森をあっという間に縦断する。
抜けた先は紅い荒野。
三人の王都を目指す旅は続くのだった。
紅い谷にある鉱山町は静かだった。
鉱石運搬の貨物駅には閉鎖の立て札。工房らしき建物の煙突も煙を吐き出していない。
昼前だというのに人通りはほとんど無し。
町の中心にある広場はがらんとしていた。
たまにドワーフ族の姿が見られる。酒瓶片手になんだか所在なさげだ。
ドワーフは毛深くて背が低く、腕力自慢なのに手先が器用な種族だった。冶金技術に優れている……とは、シャチ子の言葉だ。
教会があるけど、鐘楼の鐘がさび付いている。
メイがぽつり。
「寂しくて寂しくて、錆び錆びですか?」
「なんだか静かな町だね」
シャチ子が鼻をひくつかせた。
「ふむ。炉が止まっているような気配だな。これほど活気が無いとは驚きだ」
街中に敷かれたトロッコのレールもすっかりさび付いていた。
「ひとまずどこかお店に入って、王都までのルートを考えよっか」
僕の提案に二人はうなずき、酒場に入った。
と――
「きゃ、客だああああああ!」
カウンターで白髭がもみあげと一体化しているドワーフ店主が声を上げた。
頭だけつるつるだ。
「お客様ですがああああ!」
対抗してメイが声を上げる。
変な空気になりそうだな。
「メイまでそんなに大きな声を出さなくてもいいんだよ」
「なぬ!? そういうお作法ではありませんか?」
「いや、僕もドワーフの町は初めてだからわからないんだけど。そういう風習があるんですか店主さん?」
白髭のドワーフは、はげ上がった頭をペチンと平手で叩いた。カウンターの向こうから出てくる。
「んなこたぁないけど、ひっさしぶりに町の外から人が来て軽くびびってんだ。旅人さんたちいったいどっから湧いて出た? 見ての通り列車は運行中止だし」
「林業の町から獣魔大森林経由で来ました」
「な!? あの森は獣魔族のテリトリーだろ? やつら侵入者にゃ容赦がねぇ。族長ルプスが目を光らせて、見つけ次第八つ裂きにするっていうし……モンスターだって森にゃうようよいんのに、良く無事で抜けてこられたな?」
「え、ええまあ」
族長のルプスの背中に乗って送ってもらった……なんて言い出しにくいな。
メイが触手ツインテールと両腕を万歳させた。
「あのねあのね、メイは大きな狼さんに乗ってきましたよ? ハゲはどうしてびっくりですか?」
「こら! ダメだよメイ。すみません店主さん」
ドワーフは「わはは」と笑って頭皮をぺちぺちする。
「別に気にしちゃおらんて。しかしまあ、嬢ちゃんここらへんじゃ珍しい海魔族の子かい?」
「はい! あの! ハゲって言ってごめんください」
メイはちょこんと頭を下げた。ドワーフは「変わった子だなぁ」と目を細める。
シャチ子が一歩前に出た。
「我々は王都に向かう。長居はしない。軽い食事はできるだろうか?」
「おっと、へいへい。そういやうちは飲食店だったけな。カッチカチの干し肉と口から火を吹くくらい度数が高い酒しかねぇけど」
メニューがシンプルすぎる。港町のミランダの酒場とは大違いだ。
「すごく静かですね。夜はもっと賑わうんですよね?」
「うんにゃ。常連が二~三人ってとこだな。そろそろうちも辞め時かもしれん」
「お店を閉めちゃうんですか?」
「この町はとっくの昔に死んだんだよ。残ってる連中はただの物好きなジジイだけだ。ワシ含めてな。わははは……はぁ」
カラッとした笑い声が最後に湿ったため息に変わる。
シャチ子が首を傾げた。
「死んだとはどういうことだ?」
「昔はもっと賑やかで、情熱に溢れてて、夜中になっても炉の火は落ちず煙突の煙が途切れたこともなかった……ってな」
なにかが原因で町は衰退してるみたいだ。
ところで、と付け加えて店主がシャチ子に言う。
「あんたずいぶんと良い物をもっとるな」
「ふふふ。わかるかスケベドワーフよ。自慢の胸だ。セツナ様も気に入っているぞ」
シャチ子がぐいっと谷間を寄せて見せる。
「って、僕は別にその……気に入るとかじゃないですってば!」
嫌いじゃないけど否定しておきたい。
メイが腕組みして頷く。
「シャチ子の胸はメイのもの。メイのすべては先生のもの。つまりシャチ子も先生のもの。Q.E.D証明終了なのだった」
「そうはならないよねメイ」
「なりますとも! ねーシャチ子?」
クラゲ少女は自信満々だ。シャチ子は「お、仰せのままに」と眉尻を下げた。
ドワーフの店主は「俺は姐さんの腰の方が気になるんでな。そいつをちらりと見せてくれんか」と、興味津々だ。
胸より腰派……ではなく。
「月光をか? 良いだろう。抜いて確認するがいい」
シャチ子は鞘ごと刀を店主に渡す。
ドワーフの表情が引き締まった。
先ほどまでのとぼけた雰囲気が吹き飛び、別人みたいだ。
「鞘の細工も一流。手に馴染む。こいつは……極上の仕上がりだな」
「うむ。我が家に伝わる名刀だ」
白刃をスッと抜き払う。波を描く美しい刀身に「ほぅ」とドワーフは小さく声を上げた。
「見事。こりゃ大業物と同格だ。月光という銘は聞いたことがないが、さぞや腕の立つ名工の仕事と見受けた。町に未練でしがみついていたのも、こいつを見るためだったかもしれん。ようやく諦められそうだ。町の職人からこの刀ほどの業物が出なかったのは残念だけどよ」
刀を鞘に戻してドワーフはシャチ子に返却した。
愛刀をべた褒めされて女剣士もまんざらではなさそうだ。
この町に何があったんだろう。
「どうして町は寂れてしまったんですか?」
「まあ立ち話もなんだし、良い物を見せてもらったお礼に一杯おごらせてくれ。食い物は釘も打てる干し肉しかないけどな。わはは」
「バナナはありませんか?」
「ごめんな嬢ちゃん。うちは干し肉専門なんだ」
「専門店の味ですねわかります!」
言い方次第で印象って結構変わるんだな。と――
僕らはテーブル席に案内された。
シャチ子には火を吹くような蒸留酒。メイと僕には鉱泉炭酸水というシュワシュワする水が出される。
井戸の底で冷やしていたみたいにキンキンだ。
「うちの保冷庫は氷も作れるくらい冷やせるからな。まあ、魔晶石が切れるんで、そろそろただの箱になっちまうけどよ」
「魔晶石って魔道具に使うものですよね?」
ふと思い出す。前に港町に入港した商船で、ワインの保存のために船の貨物室の温度と湿度を一定に保つ目的で魔道具が使われてるって、ワイン商人が言ってたっけ。
「この町は鉄鋼業や鍛冶に冶金。それに魔晶石採掘でも栄えてた。鉱石はどれも質が高いし魔晶石も高純度結晶が採掘できてたんだ」
店主は頷きながら白髭を撫でる。
過去形で語るということは、今はもう違うってことなんだろうな。
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