27.命の炎
【前回までのあらすじ】
試練の洞窟内は穢れによって腐敗したゾンビがうようよ。
焼き払うフゥリィの巫術! 本来は回数制限があるのだが……。
時間を「戻し」て無限連打。やっぱりこのスキル、チートすぎる。
腐敗したモンスターばかりが襲ってくる。
シャチ子が切り裂き、メイも触手ツインテールで転ばせるなどして足止めをする。
僕も小剣でメイを守りながら戦い、トドメはフゥリィの大火力。
一戦ごとに護符をフルチャージできるのでサクサク進んだ。
火球を乱射してフゥリィがうっとり顔になる。
「穢れをすべて焼き払えるのじゃあああああああああああああああああああああ!! セツナは神か!? 神なのか!? 同胞たちの魂は今、解放されつつあるのじゃ!」
「ぶっぶーちがいますー先生は神超えてますがー?」
もうやめて。僕の羞恥心のライフはゼロだから。
シャチ子が真顔で僕に言う。
「神かどうかはわからぬが、すばらしいぞセツナ様」
「あんまり持ち上げないでください。僕は戦力にはなれませんから」
ふと思ってフゥリィに訊く。
「僕の力で汚染された人を救えないかな? 時間を戻せば元の姿にだって……」
「なんじゃ……優しいのぅセツナは。じゃが、無用じゃ」
「仲間の人たちを取り戻せるかもしれないですよ?」
「すでに皆の葬儀は終えておる。わちきも含め、死ぬつもりで挑んだ者たちだ」
フゥリィの尻尾がしょんぼりうなだれた。
「みな、わちきを生かそうとして……庇って……穢れに呑まれてしまった。わちきだけが生き残ったのじゃ。恥ずかしい話じゃ」
彼女も僕と同じ経験をしてるんだ。
僕は今、救えなかったあの女の子の代わりに、誰かを救おうとしている。
フゥリィも同じような思いでルプスを救おうとしていたんだ。
「恥ずかしいことなんてないよ」
狐少女の頬が赤らむ。
「主様にはこっぴどく叱られた。けど、良く無事で帰ってきてくれた……と。皆を死なせたわちきのために、主様は泣いてくれたのじゃ」
「ルプスさんは優しいんだね」
「じゃからみな、命を賭けた。もし、生き返ったと知れば恥と知って自害しかねぬ」
「恥?」
「プライドや面子が丸つぶれじゃからの。誰かのために戦い死んだ者たちは英雄として祀られるのじゃ」
獣魔族には獣魔族の価値観や文化があるみたいだ。よそ者の僕がとやかく言うのは良くないかもしれない。
「そういうものなんだね」
「気持ちだけ受け取っておくのじゃ。心遣いに感謝するぞセツナ。それに、そもそもどの亡者が仲間かはもはや判別がつかぬ。みな同じ腐敗臭しかせぬからな。数百年前の同胞が混ざっておるやもしれぬ」
僕が戻すために触れている時間=僕が隙をさらす時間だった。
百年単位はさすがに長いな。今の僕が一秒で戻せるのは一ヶ月だし。
「その当時の者が今、生き返れたとしても……孤独じゃ」
だから「焼いてこの世から解き放ち、新たに生まれ直すのを祈るのじゃよ」と狐巫女は悲しげに微笑んだ。
ふと見ると、シャチ子に後ろから抱っこされたメイが宙で手足と触手ツインテールをじたばたさせている。
抱き上げられた小動物みたいだな。
手足じたばたは僕とフゥリィの距離が近いという抗議っぽい。
シャチ子が「真面目なお話の時くらいは見守ってあげましょうメイ様」と、言い含める。
フゥリィもそれを見て「すまぬな剣士」と会釈をした。
続けて狐巫女は言う。
「この通路を抜けた先が群生地……だった場所じゃ。おそらく穢れの根源もおる。皆の者、気を引き締めるのじゃぞ」
メイが抱き上げられたまま手を上げた。
「はい! 質問ですが?」
「なんじゃクラゲ娘」
「メイちゃんって呼べ!」
「呼ばぬわ! それが訊きたいことか?」
「作戦会議ですよ! ボス倒すならほら、あるでしょ? 攻略とか」
フゥリィは狐耳をピクピクっとさせた。
「良いかクラゲ娘。決めていた作戦というのは、もくろみが外れた時にはもろいものじゃ。これまで通り、お主はできる範囲でやれることをすれば良い。攻撃はわちきと剣士で。守備とサポートはセツナに任せるのじゃ」
「行き当たりばったりですね! わかります!」
メイに言われて「やれやれじゃの。その通りじゃ」とフゥリィは眉尻を下げた。
ここまでほぼアドリブで上手くやれてきたし、大きな役割分担を決めて各々がベストを尽くす。
即席冒険者パーティーの僕らには、それでいいのかもしれない。
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じめっとした洞窟を降りていく。
すり鉢状の盆地みたいになった空間に出た。
そこかしこに発光する結晶石が設置され、薄暗いながらも広さがわかる。
フゥリィが懐から護符を十枚取り出して宙に放った。
「巫術蛍火!」
明るく照らされた盆地の中心に――
腐敗した竜がいた。
黒色の鱗は所々腐れ落ち、肉が剥き出しで骨もはみ出ている。
瞳は暗く、これまで倒してきたゾンビ化モンスターと同じで知性はまるで感じられない。
翼は漆黒のマントのようだ。
その巨体の節々で、黒い触手がうねうねと蠢く。
意思を持たないドラゴンを操るかのように。
あのうねる触手がフゥリィの言う「穢れ」なんだ。
「奴を倒すためにここまでやってきたのじゃ」
言うなり狐巫女はこちらに振り返ると護符を取り出した。
「巫術影縛ッ!」
黒い針のようなものが僕らの影に刺さる。と、身動きが取れなくなった。
刀を抜く直前で止められてシャチ子が吠える。
「き、貴様、何をするッ!?」
「安心せい。三分ほどで動けるようになる。お主らはここで見届けてくれれば良いのじゃ。近づいてはならぬぞ。巻き込みとうない」
フゥリィが懐からさらに一枚、護符を取り出す。札そのものが金色で、これまでのものよりも細かく文字が書き込まれていた。
「あとのことは頼む……セツナ。主様によろしく伝えてほしいのじゃ」
「急にどうしたの? まるで死にに行くみたいに見えるけど」
「いかにも。この護符には我が命を吹き込んである。今より放つは命の一撃。さしものセツナもこれを戻すことはかなうまい」
フゥリィはボスがいるのに細かな戦い方を決めなかった。
最初から自分一人で決着をつけるつもりでいたんだ。
身動きを封じられたら、手で触れる必要がある僕のスキルは役に立たない。
「では、達者でな」
「待ってフゥリィ! みんなで戦おう!」
狐巫女は首を左右に振って前を向く。
「同胞たちよ……待っておれ。今、会いに逝く。あちらで詫びさせてもらうのじゃ」
窪地の中心目がけてフゥリイは駆け下りていった。
腐敗竜が鎌首をもたげる。侵入者に反応するように、全身から無数の黒い触手の矢を放った。
フゥリィは竹林を縫って進むように、触手の雨を避ける。
地面に突き刺さった触手の周囲から、次々と死骸が這い出てゾンビとなった。
シャチ子が下唇を噛む。
「あれでは逃げられん! どうにかできぬのかセツナ様!」
「ごめん……」
他に言葉が出ない。右手さえ動けば時間を進めて拘束を解けるのに。
見る間にフゥリィは腐敗竜の懐に飛び込むと叫んだ。
「巫術命炎!」
白い炎が狐巫女を中心に渦巻き広がる。
無数の触手を消し炭に変え、ゾンビ化モンスターたちもなぎ払う。
僕らが近くにいたら、到底使えるような技じゃない。
そして、炎は彼女自身の体をも焦がしていった。
命を燃やし尽くすように。
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