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23.ぶらり途中下車(強制)の旅

【前回までのあらすじ】

メイを魔王の器と呼び、死を望む海魔神官長エビル。魔王復活を目論むエビルは、この先、メイが死ぬまで刺客が送り込まれると呪いの言葉を残して消えた。

今は進むしかないセツナたちだが……。

 列車は徐行運転で再開された。一等客車の車窓がゆっくりと流れていく。


 車掌や運転手から線路と車両を元に戻したことを猛烈に感謝されたし、けがをした人からも「ありがとうございます! 命の恩人です!」と言われたけれど――


 僕らがこの列車に乗ったから、巻き込まれてしまったんだ。


 襲撃はいつあるかもわからない。

 と、シャチ子から重要な情報がもたらされた。


 メイの持つ魔王の波動は、月の満ち欠けによって強さが変わる。

 満月が最高潮になるとのことだ。

 月の満ち欠けで危険度が変わると覚えておこう。


 シャチ子は言う。


「満月時は注意だが、王都まで行けば強硬派も簡単には動けぬ」

「どうしてですか? あのエビルという神官は手段を選ばない感じでしたけど」

「それはたしかにそうだ。あやつなら王国にケンカを売ってもおかしくはない。が、単純な話……王都には人間族の最高戦力が揃っている。海魔族が派手に動けば、暴れた分だけ相応のしっぺ返しがあるだろう」


 ひとまず王都まで行けば、今の危険な逃亡状態よりはいくらかマシになるのかもしれない。


 メイは「ごめんなさい……生きててごめんなさい……呼吸しててごめんなさい……バナナ大好きでごめんなさい……メイは貝になりたいのだった」としょんぼりした。


「メイは何も悪くないんだよ」

「皆様にご迷惑をおかけしました。メイは死んだ方がよろしいのでしょうか?」


 心細そうに満月みたいな瞳を少女は涙で潤ませる。

 二度とそんな悲しい言葉を口にしなくていいように、笑顔でいられるようにしてあげたい。


「そんなことは僕とシャチ子さんがさせない。メイがいなくなったら悲しい。そばにいてくれるから嬉しいんだ。一緒に人間になる方法を見つけよう。必ず……ね?」

「は、はい! メイはがんばって人間になりますとも! 神様もきっとご理解しろ!」


 最後が命令形だけど、なんだかメイっぽい言い回しでホッとした。


 荷物の中から地図を取り出し、引き出し式のテーブルに広げる。

 ゆっくりと進む列車内で三人、作戦会議をした。


 といっても、メイはなんだかわからないみたいで、地図の海岸線を指でなぞる謎の遊びに夢中だ。

 かわいいのでそっと見守ることにした。


 シャチ子との協議の結果――

 海路は全面NG。襲撃を受けたら逃げ場が無い。僕自身もよく知るところだ。


 陸路を使う。ただしこのまま列車を使うのは無しだ。


 次の停車駅で降りることにした。


 港町ほどじゃないけど、中規模の町だ。地図の紹介文を読むと、人間と獣魔族が住んでるらしい。


 獣魔族は森の民とも呼ばれていて、人間社会にも適応して町でも見かける種族だ。

 犬や猫に狼や兎といった獣の属性を持っていた。

 孤児院にも獣魔族の子がいたっけな。


 林業で栄えていて、近くには獣魔大森林という広大な山林が広がっている。

 奥地は獣魔族の領域とのことだった。


 車窓の流れがさらに緩やかになり、ゆっくりと止まる。

 アナウンスとともに客車を出る。


 メイと手をつないでホームに降りた。

 シャチ子はずっと周囲を警戒中。

 メイが不思議そうに触手ツインテールを「?」の形にする。


「ここが王都ですか? ちょっと思ってたのとちゃう」

「王都じゃないよ」

「じゃあどうして?」

「ここからは歩いて王都を目指すんだ」


 獣魔大森林には木材運搬用の林業道が走っている。王都方面にも抜けられるよう、森の一部を縦断してるらしかった。


「歩きかぁ」


 メイは少ししんどそうだ。シャチ子が胸を張る。


「でしたらメイ様は、私がおんぶをして差し上げましょう! いやむしろ、お馬さんごっこの方がよろしいでしょうか?」

「い、いやぁ! らめぇ! 先生に黒歴史開示しないでぇ! メイはね、歩きますよ? お散歩好きですからね! 港町ではお散歩名人と呼ばれるほどの実績ですから!」


 シャチ子の背中に乗ってハッスルする幼いメイを想像すると、なんだかほっこりした気持ちになる。


「野営用の装備をこの町で整えてから、すぐに出発しよう」


 メイの瞳がキラキラになった。


「キャンプ!? キャンプですか!? ファイアーですか!? 森を燃やしますか!?」

「燃やさないからね。火の取り扱いには気をつけないと」

「はい! そうですね先生!」


 少女はビシッと挙手する。

 まあ、野営無しで一晩中行軍もできるんだけど。疲労も「時間」スキルで戻せば無かったことにできるし。


 けど、さっきまでしょんぼりしていたメイがキャンプでテンション上がるなら、一晩アウトドアするのもいいかもしれない。


 町の雑貨店で大型の背負い袋を購入。必要なものを買いそろえた。

 犬の垂れ耳をした獣魔族の店主が言う。


「お客さん冒険者かい?」

「えっとまあ……そんなところです」

「ここら辺は初めてかな? だったら獣魔大森林には行かない方がいい」

「どうしてですか?」

「最近ちょっと様子がおかしくてな。ここ一年ほど、森住みの連中は気が立ってるっつーかさ」

「これから林業道を行こうと思うんですけど」

「なら道を外れちゃなんねぇよ。森の中は危ないんだ」

「ご忠告、ありがとうございます」


 店主と話している間にメイが上手く詰め込む。


「おやつのクッキーはいいですか? 先生! メイが持ちます故に!」

「一袋だけならね」

「あと、お水も水筒にたっぷりですね!」

「こまめに水分補給しないとね」

「ですともですとも!」


 メイ用に小さなザックも買って、彼女は自分のお気に入りを詰め込んだ。


「バナナはおやつですか?」

「うーん、一房だけならいいかな」


 市場でバナナも買ってクラゲ少女は上機嫌だ。


「シャチ子は御存じか? バナナとはこの世でもっとも美味しいのです。神様が生み出した芸術作品に他ならぬのだった」

「知りませんでした姫様。博識ですね」

「これもすべて先生に身をもって教わったことですから。シャチ子も先生に森羅万象を教えてもらうといいですよ」

「はい。では、よろしく頼むぞセツナ様。身をもって色々と教えてもらおうではないか」

「は、はぁ。善処します」


 この世の摂理めいたものなんて知らないんだけど。

 いったい何を教えればいいのか、むしろ誰か僕に教えてください。



 高い木々の合間を縫って林業道が伸びる。ある程度進むと、シャチ子が突然「しっ……静かに」と人差し指を立てて口元に寄せた。


「どうしたのか? お腹空いた? バナナ?」

「姫様、ひそひそ声にてお願いいたします」


 メイはうんと頷くと、囁き声で「どうしたのか?」と繰り返した。

 僕も声のトーンを落とす。


「追っ手ですか?」

「わからぬ。が、この道の先からただならぬ波動を感じる」


 海魔族特有の感覚なのかもしれない。

 僕らは息を潜めて森の茂みに隠れた。


 しばらくすると、ふよふよと浮くように空を泳ぐ一匹の黒い魚がやってくる。

 幸い、僕らに気づくことなく浮遊魚は通り過ぎていった。

 二人は知っているみたいだけど、僕としては驚きだ。


「空飛ぶ魚なんて初めて見たよ」


 メイが触手ツインテールで威嚇する。


「あんなの触手で捕まえてパクーですが?」

「食べちゃうの?」

「食物連鎖の頂点ですけんね」


 シャチ子が「手出しはいけませんメイ様」と止めた。


「やっぱり海魔族関係の魚なんですかシャチ子さん?」

「あれは偵察用だ。どうやらこのルートも張られていたな」

「なら……森の中を進みましょう」

「本気かセツナ様?」

「この森は獣魔族のテリトリーらしいからね」

「森の民が町に住む者たちと同じく友好的とは限らぬぞ」


 雑貨屋の店主の言葉を思い出す。けど――


「海魔族の刺客よりマシなんじゃないかな?」

「ふむ……仕方あるまい。これも姫様を守るためか……」


 舗装された道をそれて、僕らは獣魔大森林の奥へと続く小道に入った。

 薄暗い闇の森はどこか不気味で、あまり歓迎ムードって感じじゃないな。


 メイがその場で両腕をあげてツインテールをふにゃふにゃと揺らす。


「メイは急にどうしたんだい?」

「わかめの~ものまね~」


 シャチ子がその場でお腹を抱えて「似てます! 似すぎです姫様! あっはっは! あーっはっはっはは!」と、メイを指さして苦しそうに笑い転げた。


「あ、うん。ごめん。海魔族には鉄板のジョークなのかもしれないけど、僕にはちょっとレベルが高すぎてわからないかも」

「こ、昆布派ですか先生は!?」

「たぶんどっちの派閥でもないかな。けど、ありがとうねメイ」


 深刻になりがちな僕とシャチ子を気遣ってくれているんだと思う。

 メイは「それほどでもありますがぁ」と、はにかんだ笑みを浮かべた。


 三人ならきっと、暗い森も無事通り抜けられる。そう、思えた。

お読みいただき、ありがとうございます!


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