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19.「時間」スキル×諦めない心=????

【前回までのあらすじ】

出発の日。丘の上で港町を見る二人の前に現れた謎の女剣士――

彼女はセツナとメイを引き離そうとする。

抵抗すれば命は無い。そんな女剣士に少年は全身全霊で立ち向かおうとしていた……。

 僕は生き返った。

 胸の傷も痛みも「時間」を操作して無かったことにする。

 小剣も再生。元通りだ。


 シャチ子が戦慄した。


「ば、バカな!? 修復士ではなかったのか!?」


 どうやら僕のスキルが「時間」だとは気づいてないらしい。

 メイが間に立つ。

 シャチ子に触手を向けて威嚇した。


「シャチ子よ! 魔王たる我に牙を剥くか!?」

「まさか姫様が覚醒をッ!?」


 僕は後ろからメイをぎゅっと抱きしめた。


「ありがとうメイ。僕のために怒ってくれて。でも大丈夫だよ。一緒にシャチ子さんを説得しよう」


 メイは背中越しに振り返って僕を見る。

 金色の瞳に光が戻る。

 黒ずんだツインテール触手の先端も、綺麗な半透明に早変わりした。


「先生ぇ……うちのものが……なんたるご無礼でしょう」

「いいんだメイ。遅かれ早かれ、こういうことが起こったんだと思う。僕が強くならなくちゃ、メイの先生を続けられない」


 だから――


「先生ぇ?」

「メイは下がってて。シャチ子さんが強くても、僕なら何度でも何十回でも何百回でもやり直せるから。挑んで挑んで挑み続ければいい」


 困難に打ち勝てるようにならなきゃいけない。

 何度斬り殺されても。


 斬られた部分に触れることだけを考えろ。

 他はもうがむしゃらだ。

 小剣を左手に構えてシャチ子に突撃する。


「あなたが首を縦に振るまで、僕は何度斬られても構わない!!」

「クッ……その言葉、後悔させてやる」


 僕は剣で斬りかかる。簡単に払われて胸を刺された。

 普通なら死んでる。

 けど、傷口近くに手を当てて時間を「戻し」た。

 痛みで意識が吹き飛びそうだ。頭の中が灼ける感じがした。

 それでも左手の小剣を振るう。


 シャチ子は驚きの表情で刀を引き抜き飛び退いた。


「バカな……貴様、本当に人間か!?」

「人間だよ。正真正銘。僕は……僕らは自由を求めるただの人間だ!!」


 斬り合う……というか、僕が一方的に斬られ続ける展開だけど、だんだんとシャチ子の攻撃パターンが見えてきた。


 いつの間にか相手の動きが先読みできるようになり、ついに小剣でパリィに成功する。


 数秒先が見えたような、不思議な感覚だった。


「なん……だとッ!?」


 シャチ子の体勢が崩れたところで首筋目がけて突きを放ち――


 寸止めした。


「クッ……殺せ」


 女剣士は視線を背ける。ふわふわとメイの透明触手が剣を持つ僕の左手に巻き付いた。


「先生……どうかシャチ子をお許しくださいまして」

「うん。心配しないで」


 シャチ子の赤い瞳がじっと僕を見据える。


「敵にとどめを刺さねばいつ復讐されるかわからぬぞ少年」

「シャチ子さんはそんなことしない人だと思うよ」

「なぜだ? 貴様を何度となく斬り殺した私を、どうして信じられる?」

「やろうと思えばメイが独りの時に誘拐できたのにしなかった。僕を暗殺もしなかった。シャチ子さんだって、本当はメイに自由で幸せになって欲しいんじゃないかな……って」


 剣を収めると僕は手を差し伸べた。


「僕も同じだから。メイには幸せでいてほしい」

「できぬ相談だ。もし私が国を裏切れば、メイ様を連れ戻すために他の者が送り込まれる。強硬派の連中を止められなくなるのだぞ」

「強硬派ってなんですか?」

「メイ様を手に入れ婚姻を結び、王位継承権を得ようという輩だ」


 メイは「王位は誰かにあげますと言いました。Free王位です」と呟いた。

 シャチ子がそっと首を左右に振る。そういうわけにはいかない事情があるみたいだ。

 女剣士は続ける。


「もし、この町を出れば戻ることはできぬ。それどころか、いつどこで海魔族の刺客に襲われることになるか……。誰かと親しくなれば、その誰かを巻き込み傷つけるやもしれぬ。生涯、安住の地もなく逃げ続ける。それに貴様は耐えられるのか?」


 今日までの平和はシャチ子が陰から守ってくれていた。

 町を出ればそれができなくなる。

 町を出なければメイの夢は永遠に叶わない。


「シャチ子さん……いつまでも時間稼ぎはできないんですよね」

「ああ。貴様の言う通りだ。遅かれ早かれ、姫様は連れ戻さねばならなかった」

「なら迷うことなんて何一つありません。僕はメイと一緒に生きていきます。彼女の夢を叶えるために」


 ――瞬間、メイの触手の先端が優しい光を発した。まるでホタルイカや夜光虫みたいな幻想的な色だった。


 メイは不思議な音を奏でる。歌みたいだけど、言葉のようにも思えた。


『わたしは先生のお嫁さんになります。魔王の位は先生のものです』


 シャチ子が驚きの表情で返す。歌声のような言語で。何を話しているのか僕にはわからない。二人の表情で察するしかなさそうだ。


 メイは真剣な顔つきで、シャチ子は動揺しっぱなしだった。


『なっ――!? この男を……失礼しました。この方を伴侶となさるのですか?』

『先生はわたしの家族ですから、これ以上の無礼は許しません。まだこの事は先生には秘密です。わたしの心の準備ができた時に、わたしから伝えます。いいですね?』

『お、仰せのままに』


 シャチ子がひざまずいてメイにこうべを垂れる。

 どうやらメイがシャチ子を説得してくれたみたいだ。


 クラゲ少女は満足げに微笑むと、頭をくらっとさせた。

 倒れそうになるメイを僕はとっさに支える。


「だ、大丈夫メイ!?」

「ちょっと……疲れ……もうした」


 そのまま目を閉じて少女はすやすやと寝息を立てた。

 僕とシャチ子が取り残される。

 ちょっと……いや、だいぶ気まずい。


「あ、あのシャチ子さん?」

「少年。名はなんという?」

「セツナ・グロリアスです」

「そうか。今後、私は貴様を……セツナ様とお呼びせねばならぬ事情ができた」

「え!? な、なんでですか?」

「これ以上は訊いてくれるな。そして……私も覚悟を決めた。僭越ながら、メイ様は私にとって大切な妹のような存在だ。たとえ祖国を敵に回しても、お守りする」

「つまりどういうことですか?」

「共に行こう。セツナ様」


 シャチ子は銀髪を揺らして頷いた。


「出発するなら早いほうがいい。私の裏切りが露呈し追っ手を差し向けられる前にな」


 シャチ子から手を差し伸べてくれた。

 今度こそ握手を交わす。

 ちょうど眼下の町の駅に、王都方面行きの魔導列車が乗り入れるところだ。

 シャチ子が眠ったメイを背負い、僕らは駅へと急いだ。

お読みいただき、ありがとうございます!


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