18.強襲! シャチ子さん
【前回までのあらすじ】
旅立ちを決めたら即実行。
立つ鳥跡を濁さず二人は準備する。目指すは王都。神様の情報を求めて!
聞き慣れない女の人の声だ。どこか冷たくて、かすかに怒気を感じた。
振り返ると――
「シャチ子! シャチ子ではありませんか!?」
メイが手をパーにして口元を覆うと、目を丸くする。
シャチ子と呼ばれた女性は、牛柄みたいな白黒のフード付きマント姿だった。
「はい。姫様」
フードを外せば背中までありそうな綺麗な銀髪がさらさらと流れた。
ルビー色の瞳をしている。
背は僕よりも頭一つ高い。
戦女神像のような美しさと凜々しさを感じた。
彼女はメイの前にひざまずく。
「姿を現さなかったことをお許しください」
「シャチ子も亡命でしたか?」
「いえ、私はメイ様を影ながらお守りさせていただいておりました。が、それも今日までのこと」
シャチ子は立ち上がる。
マントの下から剣を抜いた。東方の刀っていうやつだ。
服も東方風の着流しで、胸元は少しはだけ気味に開いていた。
おっきい。なにもかもが。胸にメロンがふたつくっついている。あふれんばかりだった。
「先生!? なにを見とれてしまっているのですか! シャチ子! 先生に失礼です! お胸をしまいなさい! ばかー! んもー! ばかばかおっぱい魔!」
「僭越ながらメイ様。これ以上胸を締め付けるような服ですと、私の戦闘力が低下する恐れがあります」
つまり戦うって……こと?
「ちょっと待ってくださいシャチ子さん」
「その名で呼んで良いのはメイ様だけだ。我が名はオルカ・マ・イールカ。海魔王親衛隊長にして誇り高きイールカ家の嫡子なり」
海魔……王? それにメイのことを姫様って……。
「その親衛隊の方が僕らになんの用事なんですか?」
「まだ目の届くこの港町にいるうちは大目にみてやったが、町を出ることは私が許さない」
メイが触手をびゅんびゅんと鞭のようにしならせる。
「シャチ子はあたまでかちんですね!」
「メイ様。どうか国にお戻りください」
メイの金色の瞳に涙がぶわっと広がった。
「嫌です! だって……またメイをひとりぼっちにしますよね!?」
「それは……そうするしかないのです」
「メイは封印なんかされたくないから! 先生とずっと一緒だから! 温泉にも行くって約束なんですから!」
約束した。
メイの先生になると。
一緒に神を探すと。
相手は海魔族のエリートだ。きっと僕なんかが勝てる相手じゃない。
それでも――
僕は買ったばかりの小剣を抜いた。
「メイから自由を奪うというのなら、お相手します」
「ほぅ……覚悟だけは認めてやろう。だが止した方がいい。死ぬぞ少年」
「僕の心配をしてくれるなんて優しいんですね」
シャチ子の切っ先がスッと僕に向けられた。
「姫様が水揚げ……もとい、地上で暮らすようになってから……見違えるほどイキイキとし始めた。だから殺したくはない」
「だったら僕らを見逃してください」
「出来ぬ相談だ。貴様さえいなければメイ様は……自由などという幻想に囚われなかった」
声も表情もなにもかもが悲しげだ。
あれ、もしかしてこの人、本当はメイを捕らえたくないんじゃないか?
シャチ子は続けた。
「私は貴様を評価している。これほどまでに魅力的な姫様に手を出さず我慢した自制心をな。それに免じて、このまま黙って立ち去れば命ばかりはとるまい」
メイが吠えた。
「だーからー! せ、先生とはそういうご関係じゃ……まだ……ありませんからね!」
まだ!?
シャチ子が吠え返す。
「では! 今後はどうなさるおつもりか!」
「わかりません! けど、メイは先生が大好きなのです!」
「もう答えが出ているではありませんか姫様……」
シャチ子がキッと僕を睨む。
「姫様を自由というまやかしで絡め取り、その心まで奪うとは……しかたない。貴様にはここで消えてもらうより他ない」
シャチ子の体が沈み込む。
次の瞬間――
僕は構えた小剣ごと胸を真一文字に切り裂かれていた。
あまりの速さにメイも動くことができない。
切られた僕も、それに気づかないほどだ。
ああ、死ぬのかな。このまま……。
赤い血しぶきの向こう側でメイが泣いている。
半透明な触手ツインテールが黒く染まった。
なんだかとっても禍々しい。
金色の瞳から光が失せて、虚無だ。
メイは幼い子供みたいに泣いている……。
感情を失ったまま涙をこぼし続ける。
泣かないで。
僕が――
守るから――
途切れそうな意識の中、右手を自分の胸に当てる。
時よ「戻れ」と。
そう、祈った。
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