17.そうだ王都へ行こう
【前回までのあらすじ】
イチャモンをつけてきた酔っ払いすらも救ってしまうセツナ。もはやこの港町は二人には狭すぎる?
資金も十分。旅の追い風が吹き始めた。
自宅のリビングダイニングでメイと朝食を食べながら切り出す。
「今日あたり旅に出ようか?」
「と、突然の衝撃!? メイはまだ心の準備というものが……で、できました! 今、覚悟を完了したのだった」
驚いて触手ツインテールを「!?」の形にしながらも、メイはすぐに頷いた。
が、そのまま首を傾げる。
「けど、どうして今日ですか?」
「思い立ったが吉日っていうからね」
「なるほど、勉強になりますねぇ」
むむっとした顔で少女はうんうん頷く。
「で、どこに行くのです?」
「前にも少し相談したけど、王都がいいかなって」
「王都ですか!? 温泉は!? 硫黄の香り染みこんでむせるのでは!?」
「温泉はまた今度にしようね」
「はぁい。約束ですよ?」
「うん、約束する」
透明触手と指切りげんまんした。
けど、メイは口をとがらせてちょっぴり残念そうだ。
旅行はやるべきことをやってからにしよう。
王都なら大図書館と王国の教会を取り仕切る法王庁がある。
神について調べるのにうってつけだ。
港町から王都行きの魔導列車も出ているし、困難な旅って感じじゃない。
それに大都市にはすごいスキル持ちの人もたくさんいるだろうから、きちんと自重すれば僕やメイが悪目立ちすることもないだろうし。
お金の稼ぎ方はこの港町で覚えたから、王都でもなんとかやっていけるはずだ。
メイが触手をピコピコ揺らす。
「明日にはおうちに帰ってきます?」
「どうだろうね。一ヶ月か半年か。さすがに一年はかからないと思うけど」
「そ、そんなに。この城がダメになってしまわないか、メイは心を砕くのであった」
「じゃあ僕らが留守の間、誰か他の人に住んでもらおう。あと、出発前にガンドさんやミランダさん、それに町の人たちにも挨拶しないとね」
少女がうんと首を縦に振る。
「メイは先生と一緒なら、たとえ冷たく暗い深海の底でも幸せなのです」
「王都はそんな世界の果てみたいなところじゃないと思うけど」
「た、たとえ話ですから! 比喩的表現でしたから!」
ちょっと目が本気っぽいんだけど。
そういえば、海魔族の国ってどこにあるんだろう。やっぱり海の中なのかな?
「人間の僕じゃ海魔族の国には行けないかな?」
「い、行かなくてもいいんですあんなドくそ田舎地獄!」
「えっと、ほらその……人間は水の中じゃ呼吸ができないからさ」
「あ~! そっち系? そっち系のお話でありんすか? ちゃんと泡界に包まれてて息イキイキですが?」
想像が付かないからメイに詳しく説明してもらった。
海魔族は海中でも呼吸できるけど、普段の生活は海の中に作った巨大な泡の中で暮らしていて、地上とそんなに変わらないらしい。
亡命(?)してきたんだし、あんまり戻りたくなさそうだよな。
メイの生まれ育った場所を見てみたい気持ちもあるけど――
やっぱりちょっと怖いかも。メイが特別なだけで、海魔族は恐ろしいというイメージしかなかった。
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僕らの家の管理人には修復スキル持ちのナオスルが手を上げた。
メイは「あり得ぬ」って難色を示したけど「いつ帰ってきてもいいよう、家の補修は任せてくれ! 今よりもピッカピカの新品みたいにすっからよ!」とかなんとか。
決め手は町の道が残らず綺麗になったことだ。
畑の管理も任せることにしてナオスルに家の鍵を預けた。
今日の午後の魔導列車で出発するつもりだ。
旅支度というほどじゃないけど、町人服から冒険者風の装いを整えた。
大きめの鞄に旅で役立ちそうなものを買いそろえて詰め込み、僕は……小剣を買った。
この先、何があるかもわからない。
僕よりもメイの方が強そうだけど、それでも――
この剣は彼女を守るためのものだ。
市場でガンドや他の店の人たちに挨拶した。僕とメイの旅立ちの噂はあっという間に町中に広まる。
最後に、ミランダの酒場に出向いた。
「そりゃまたずいぶん急な話だね。出発の日取りがわかってりゃ盛大に送別会を催したのに」
「そんなことされちゃうと、ますますこの町にいたくなっちゃいますから」
「また戻ってくるんだろ?」
「王都で調べ物が一段落したら」
「わかった。けど、一段落なんてしなくてもたまには遊びに戻っておいでよ」
メイが触手ツインテールと両手を万歳させる。
「必ずや戻ってまいりましょうぞ!」
ミランダは眉尻を下げて「ほんとメイちゃんは人間語がうまくなったねぇ」と困り顔だ。
「ま、少しの間でもセツナが町を空けた方がいいかとは、あたしも思ってたんだよ。最近はみんな頼りっきりだったしねぇ。だからゆっくり羽を伸ばしてきなって」
「はい! 後のことはよろしくお願いします」
「二人とも無事に帰ってくるんだよ」
酒場で最後の挨拶を済ませたけど、魔導列車の発車までまだ時間があった。
「メイは出発前にどこか寄りたいところはある?」
「でしたらメイはこの町を見たいです」
町を一望できる小高い丘を少女は指さした。
「そうだね。時間はまだあるし行ってみよっか」
「はいなのです!」
メイは僕の手を握ってつなぐと歩き出す。
緑の丘を登って振り返れば、港に倉庫街に市場や町。遠くに僕らの家も見えた。
「そこまでだ少年」
不意に背後から呼ばれた。
晴天が広がっているのに、嵐の匂いがした。
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