14.難しいから価値がある
【前回までのあらすじ】
「時間」スキルは壊れた物を直すだけではなかった。家庭菜園で植えたトマトの時間を「進め」ることができることに気づいたセツナ。
レベルがあがり「一秒=一日」で触れたものや範囲の時間を「戻す」も「進め」るも自由自在になるのだった。
修復士の仕事も順調で、趣味の家庭菜園は野菜を中心に、自分たちが食べる分だけ促成栽培することにした。
メイは「お野菜売ればお金になりますね!」と提案したけど、それはやめておく。
せいぜい作りすぎた分を酒場にお裾分けに行くくらいだ。
この町に野菜を卸している農家の人たちの仕事を奪いかねない。
もし作るなら、ここら辺では作られていない珍しい作物がいいと思った。
酒場にトマトを持って行ったついでに、ミランダに訊いてみると――
「あー、そうだねぇ。ここらの農家がやってないっていえば、霊薬の原料になるコーラルニンジンあたりかねぇ」
ミランダは快く教えてくれた。
「ところでこのトマト、どこで手に入れたんだい?」
「あっ……えっと」
「いいんだよ別に。あんたのことだし、近所の農家が困ってるのを助けてお礼されたんだろ?」
勝手に解釈してくれた。僕は修復士ってことになってるから、時間を進めて収穫したなんて思考経路がつながらないみたいだ。
メイは「もらったんじゃないです! 先生が育てました!」と、声を上げた。
しまった。口止めするのを忘れてた。
けど、ミランダはやれやれ顔だ。
「いいかいメイちゃん。いくらセツナがすごい修復士でも、トマトを一日二日で育てられたりはしないんだよ」
ホッと胸をなで下ろす。
メイにはそっと首を左右に振って「もういいから」とお願いした。
「ううぅ……先生はもっとすごいのに……やばい人なのに……」
やばい人は勘弁してほしい。
どうやら僕の評価が世間のそれとズレてると、メイは不満に感じるみたいだ。
そこは我慢してもらおう。
ともあれミランダからコーラルニンジンについて話も訊けたし、物流の盛んなこの港町なら種とか苗が見つかるかもしれない。
修復士として人助けでお金をもらいつつ、菜園も地元の迷惑にならないように活用しよう。
お金で買える安全もある。王都で何があってもいいように蓄えはしっかりしておきたかった。
なにより「時間」スキルは新しいことをするほど強化される。
時間を進めることでまた、進化するかもしれないんだ。
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コーラルニンジンの苗は見つからなかったけど、種は見つけられた。
テキトマトの種の値段と比べて三倍ほどの価格だった。
しかもトマトの種なら一つの苗で三十個は実るのに、コーラルニンジンは種一つで一本しか実をつけない。
三倍×三十個=九十倍の価値があるかというと、売価はさらに開いている。
コーラルニンジン一本で、トマトが二百個買える値段で取引されていた。
トマト一個がだいたい100ギリカ。コーラルニンジンは一本で20000ギリカになる。
これを量産できたらすごいことになりそうだ。
さっそく種を買って、庭の畑を拡張して植えてみる。
途中まではトマトと同じでいい感じに育っていった……んだけど。
「あわわわ! 先生大変です! 全部枯れましたが!?」
一本二万ギリカになるはずのコーラルニンジンは育成しきる前に全滅した。
「時間の進め方がまずかったのかな?」
メイがぶんぶんと首とツインテール触手を左右に振る。
「そもそも論です。土地のマナが足りません。ぐんぐん吸ってしまうからです。メイには見えました! コーラルニンジンはマナを食べちゃうんですね! わかりますか?」
なるほど……ちょっとだけわかった気がする。
「マナっていうのは魔力みたいなものかな?」
「はい。さすが霊薬原料。たくさん一気に植えたらいけません。それに今ので畑のマナ死んでます。次の満月くらいまで休ませないと」
土地には肥料を撒いて栄養を行き渡らせなきゃいけないけど、霊薬原料にはマナが必要ってこと?
なんでもやってみないとわからないものだと思う。
きっとコーラルニンジンに高値が付くのも、一度にたくさん植えられないのと大地のマナの回復時間が必要だからなんだ。
ん? 回復時間が……必要?
僕は枯れたコーラルニンジンを抜いてから、ニンジン畑を範囲指定して時間を「進め」る。二ヶ月ほど経過させて、一本だけコーラルニンジンを植えた。
さらに二ヶ月ほど時を加速させる。今度は枯れることなく芽出て苗になった。
ただ、ここからが長かった。
いくら時間を進めても進めて、なかなか育たない。
「先生! まだです! 畑のマナをこの一本に全部ぶちこみでかちこみですから!」
「わ、わかったよ」
僕が焦ってメイが落ち着かせるなんて珍しいけど、メイには人間には見えないマナの流れが見えてるっぽい。
十分ほど二人でじっとコーラルニンジンの苗を育て続けた。
経過日数にしておよそ六百日。
それだけのマナをコーラルニンジンが宿したところで――
「今です! ストップ先生!」
「う、うん!」
畑の時間加速を停止する。
メイがコーラルニンジンをすぽっと抜くと――
見事な珊瑚色のニンジンが出来上がっていた。
「お見事です先生! 完璧なるパーフェクトでした!」
「それだと意味が重複してるよ。それにお手柄なのはメイだって」
「メイですか? なぜ?」
「メイがマナのことを教えてくれて、止めるタイミングも指示してくれたから上手くいったんだ」
「でわわ! この功績は先生とメイの合わせ技ですね! 一本! 優勝!」
触手ツインテールでコーラルニンジンをお手玉しながらメイが嬉しそうに踊る。
「本当に珊瑚みたいな色なんだね」
「とても綺麗ですなぁ」
「最初の一本だし、夕飯のシチューに入れてみる?」
「そ、それは大胆すぎますよ! 先生! 大胆がすぎます!」
確かに一本20000ギリカなんて高級食材すぎる。
どんな味がするかはちょっと気になるけど、ひとまずガンドの青果店に持ち込んでみよう。
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「こりゃおったまげた! こんなに立派なコーラルニンジン見たことねぇ。王都で売ったら十万ギリカはくだらねぇぞ」
僕とメイの作ったコーラルニンジンは最高品質だったらしい。
「そんなにすごいんですか?」
「うちは普通の青果店だから置いてやれんが、交易商ならきっと喜んで買い取ってくれるだろうよ。しっかしどこでこんな上物を?」
「ええと……」
僕が言いよどむとメイが挙手した。
「はい! 秘密です!」
ガンドが破顔する。
「そっか秘密かぁ。じゃあ仕方ねぇな! がっはっは!」
メイに甘すぎる人で良かった。
ガンドは締めくくった。
「ま、お前さんのことだから、悪事にゃ手を染めてないんだろう。なら訊くだけ野暮ってもんだな。ちょうど今、沿岸商人の廻船が入港中だ。ガンドの紹介って言えば買いたたかれることもねぇだろうよ」
言われたとおりに交易商の元にコーラルニンジンを持っていくと、五万ギリカで買い取ってくれた。
個人が王都に売りに行く手間賃を考えたら妥当なところだ。
元手を考えれば儲けもの。ただ、一本を作るのにメイと二人、じっとコーラルニンジンの育成を見守らなきゃならないのが難点だな。
『スキルレベルが40になりました。さらなる範囲拡大が可能になりました。単位に月が追加されました』
あっ……。
難点ないなった。(僕の語彙もないなった)
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