13.休日の過ごし方
【前回までのあらすじ】
たった独りで鉄道橋を修復し、鉄道局から乗り放題のプラチナチケットを進呈されたセツナ。
町の人々からの謝礼として家と土地も贈られた。帰る場所を見つけたセツナは改めて、メイの神様探しに意欲を見せた。彼女の望みを叶えて、この家に戻ると心に決めて。
修復士セツナの名前は港町の誰もが知るほどになった。
けど、僕らの暮らしは変わらない。
修復する対象が大きいときは特別料金をもらうけど、今まで通りの営業だ。
時間スキルの単位も一秒接触で一日戻せるようになったから、最初に掲げた通り「今日、壊れた物ならなんでも直します」の看板通りになった。
本当は三日前とか一週間前にも遡れるけど、それは秘密にすることにした。
町のみんなには悪いけど、仕事のしすぎで倒れちゃ元も子もない。
それにメイと過ごす時間も大切にしたかった。
だから修復士の仕事も休業日を設けた。火事だとか人の命に関わるような大事故なら別だけど。
今日はメイも酒場のウエイトレスのお仕事をお休みして、二人で庭の菜園に手をつけた。
荒れ地だった畑に鍬を入れる。町の農家の人に教えてもらったやり方で耕して、畝を作った。
メイはバナナを植えたいって言ってたけど、もっと南の方じゃないと育成しないみたい。
しかもバナナは種がない……というか、人間が食べるように改良したから、新芽を育てて苗を植えて増やす――とは、青果店のガンドの言葉だ。
バナナの苗はさすがに入荷していなかった。
メイが農家の人に分けて貰った種袋を掲げる。
「トゥメイトゥを植えまーす!」
「発音がいいね」
テキトマトという品種で、素人が放っておいても実る入門者向け作物だった。
茎がしっかりしているので支柱もいらない。
とある農家のAランクスキル持ちが、品種改良して広まったんだとか。
そんなトマトの種を植えていく。メイはツインテール触手も使って、僕の倍の速度で作業していった。
優しく土をかぶせて少女は「美味しくなーれ」と語りかける。
作業を終えても、メイはしゃがみ込んだままだ。
「どうしたんだいメイ?」
「早く食べたいですよ! トマトは今日中になんとかなりますか?」
「どうだろうね。うーん……ならないんじゃないかな」
「あうぅ! 大きくなーれ! 大きくなーれ!!」
少女は立ち上がるとその場で踊り始めた。
「さすがに無理じゃないかな」
「明日は!? 明日ならどうでしょう!?」
「二ヶ月くらいかかるみたいだよ」
「あーもう! これだから大自然は!」
けしからんと言いたいのかな。
僕のスキルで時間を進めることができたらいいのに。
…………。
やってみる?
思えばずっと「戻す」ことしかしてこなかったけど、僕のスキルは「時間」だ。
「メイ、ちょっと下がってて」
「は、はい! 仰せのままに!」
メイを畑から遠ざける。何も起こらないかもしれないけど、何が起こるかもわからないし念のため、距離をとってもらった。
僕は畑の畝に手を添えて念じる。
時よ「進め」と。加速しろと。
メイが驚きの声を上げた。
「おおおおおおおおおわああああああ! 芽が出ました! 伸びてます! ぐんぐんと! ムクムクしてるぅ! 青い実が! 鈴なり! すごいすごい! 先生はやっぱり神かと!?」
一分ほどで六十日が経過した。全部の苗に実が付いたところで、手を止めメイに告げる。
「今夜はトマトを使った料理だね。とりあえずこの苗の分だけでいいかな?」
「十分すぎますのです!」
一本だけ苗を選んで摘果して、果実が色づくまで時間を進める。
トマトが三十個ほど実った。
ちょっと採れすぎかも。あとで酒場にお裾分けに行こう。
「先生! 食べていい?」
「僕も一つ味見したいな」
二人で一個ずつトマトをもぐと、井戸水で洗ってかぶりついた。
「「うんまあああああああい!!」」
もぎたてのトマトって、こんなにみずみずしくて美味しかったんだ。
二人で感動を味わって分かち合った。
メイは困り顔になる。
「料理しない方がいいかも」
「そのままも美味しいけど、メイの手料理が楽しみだな」
「この赤く実ったトゥメイトゥども! メイが料理してくれるわ! がっはっは! これが人間らしい暮らし! 素晴らしいのです! ああ! 世界は美しい!」
彼女の笑顔にドキッとなる。僕の顔までトマトみたいになりそうだった。
それにしても――
この町に流れついた時にバナナ一本を「戻して」食べたのが嘘みたいだ。
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