112.試走回数X
海魔国に忍び込み、エビルが過激派を束ねる前に暗殺を試みた。
エビルを倒すことはできたけど――
結局、別の誰かが海魔神官の役割をこなすだけだった。
穏健派の手からメイを救いだそうとしたこともある。
その時はシャチ子と戦うことになった。
シャチ子を殺してしまった。やり直しだ。
もっと前に戻る。
エビルが過激派にならないよう、海魔国で少年のエビルと友達になってみた。
すると――
メイの監視役はシャチ子ではなくエビルになった。
良い先生だった。
まるで別人だ。
けど、エビルは別の過激派の手により命を落とした。
メイはショックから海魔王となって暴走。
ただ、世界中に散らばる闇の力の欠片で、クラゲ少女はまだ満たされていなかった。
最後はシャチ子の手で、メイの命にピリオドが打たれた。
失敗だ。やり直し。
・
・
・
少しずつ遡り、修正を加えて変化を見届ける。
何度挑戦してもメイを救えない。
メイを人間にすることもできない。
同時にそれぞれの時間軸で、神のスキル持ちを探してみた。
けど、たった一人、僕が訊いて回ったところで見つかるものでもなかった。
百年も前になれば、もう知る人は誰もいない。
そういえば、メイの両親の仲を取り持つようなこともしたっけ。
無事、メイが生まれてくれた時には本当に嬉しかった。涙が出た。生まれてきてくれてありがとうと思った。
けど――
その世界でもメイを救えなかった。
メイが生き残るパターンを引けば、必ず世界を滅ぼす海魔王化してしまう。
気づけば僕は……。
千年前にいた。
人間にスキルが与えられた「始まり」の時代にまで流れ着いていた。
そして理解する。
もう「戻せ」ないと。これより過去はスキルの概念が存在しないんだ。
時間の行き止まり。
終着地点で目が覚めると――
僕の記憶が始まるのは、水晶の棺の中からだ。
外に出る。
どことなく、エルに似た少女が跪いて祈りを捧げていた。
「大丈夫……ですか?」
「あなたは神様……ですか?」
「僕が神様?」
「違うのですか?」
お互いに疑問系を投げ合った。
「どうか人間を……この世界でもっとも弱き我々をお救いください」
僕の手の中には青く光る球体がある。
「お救いって言われても……」
「お願いします天使様」
どうやら僕は天の世界からこの地に降り立った「天使」らしい。
王家の書庫で見た伝承そのままに、僕は祈りの巫女に告げる。
「じゃあ、ええと……これ……どうぞ」
「これはなんですか? とても美しいですけれど」
「スキル……だと思います。人間を救う力で、貴女が世界に広めるはずのものです」
「わたしがですか?」
「子々孫々と受け継がれる人間の固有スキル……海魔族にも獣魔族にも負けません」
僕が球体を渡すと、フッと背中が軽くなった。
「天使様……翼が?」
「翼?」
「ええと……その……」
みれば少女の背中に光の翼のようなオーラが立ち上っている。
青白く清浄で息を呑む美しさだ。
「あ、ああ、ありがとうございます天使様! この力でわたしは……この闇に閉ざされた世界を照らしてごらんにみせます!」
エルとうり二つの少女が胸に手をあて宣誓する。
青い球体は少女の胸の中に吸い込まれ、翼のオーラが閉じて彼女の背に収まった。
伝承通りだ。
けど、相手が違う。
彼女が誓い契る相手は僕じゃなく、聖祖ルシフのはずなのに。
このまま王国が建国されなかったら、世界の歴史が大きく変わりすぎてしまう。
「どうかなさいましたか天使様?」
「ええと、ちょっと考え事をしてました」
「天使様はこれからどうなさるおつもりですか?」
放ってはおけない。
「君のお手伝いをしたい……かな」
「ありがとうございます! あの、天使様のお名前をうかがっても?」
「僕は……」
歴史通りにするなら――
「ルシフ……」
「ルシフ様ですね!」
こうして、王国の歴史が始まった。
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