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111.「運命」との再会

 波が静止し音も無い。

 時間を……止めたのか?


「……心配しないで。これが私のスキル。今、私たちは世界から隔離されているの」

「すごいスキルなんだね」

「……まだ本質じゃない」


 止まった世界が再び動き出す。


 けど、色は無い。


 僕がこの船で再び目覚めた瞬間まで風景が巻き戻った。


 ただ、僕のスキルとは違う。


 巻き戻った世界に、僕がいる。


「君も時間を戻せるのかい?」


 少女はふるふると首を左右に振る。


「……私のスキルは『運命』……可能性を視る力」

「可能性を……視る?」

「……そう。この力があったから……あなたは帰ってくるって……わかってた」


 お互いに名乗ってもいないのに、ずっと昔から彼女を知っているような気がする。


「僕が帰ってきた……って」

「……視て……」


 巻き戻されたモノクロームの世界が動き出す。


 僕がまだ時間スキルを使いこなせていなかった時の再現だ。


 奴隷船は海魔族の襲撃を受け、海中から伸びる巨大な触手に沈められた。


 僕は小舟に乗せられて、彼女によって逃がされる。


「……だから……あなたを逃がした。あなたのためじゃない……私のため」

「僕を助けたら、時間を越えてくると解ってたの?」


 少女はコクリと頷いた。


「……この先の世界の『運命』……知りたい?」


 聖女の神託よりも、さらにとんでもない未来予知。

 知ってしまえば同じ失敗は繰り返さない。

 ただ、知ってしまうことでする失敗もあるはずだ。


 未来を垣間見る怖さよりも、メイを救うための最善手が欲しい。


「見せてもらえるかい?」

「……うん……やってみる」


 世界が巻き戻り、僕が力を使いこなせる今に繋がる。


 その地点から僕を中心に未来の光景が広がった。


 僕は――


 港町で奴隷船を降りると、漂流湾の白い砂浜を目指した。


 メイの入った樽は見つからなかった。


 メイを探して各地を巡ったけど、彼女には出会えなかった。


「メイがいないなんて……。いったいどういうことなの?」

「……私には解らない。メイが誰かも……けど……『運命』のボタンは掛け違えれば、同じにはならないから……」

「じゃあ、僕はもうメイには会えないのかな?」

「……すべての可能性を試して……それでも……会えないかもしれない」

「君を救って……メイも救う道は?」

「……わからない。ただ……」


 運命の少女はさらに未来へと進める。


 砂の海で僕らはサンドワーム……ではない何かと戦っていた。


 巨大なクラゲの化け物だ。


 人々はそれを海魔王と呼ぶ。


 腐敗の毒をまき散らし、王国を蹂躙した。


 沿岸部に津波を起こし、港町を壊滅させた。


 獣魔大森林は黒い炎に焼き尽くされて、死屍累々だ。


 海は汚染され、暮らしは奪われ、生きとし生けるものを皆殺しにしながら……人々の最後の戦力が砂漠に終結していた。


 海魔王には誰の声も届かない。


 あれがきっと……メイだ。


「……この先は……誰の『運命』も存在しない……きっと、すべてが滅んだんだと思う」

「今のままだと史上最悪の事態になるっていうんだね?」


 メイが消えてしまった世界では、世界はそのまま存続している。


 最後にメイが、闇の力を自らに封じた結果が……僕が否定した平和な世界だった。


 メイがいない世界か、メイしかいない世界。


 選ぶことができない二者択一を迫られた格好だ。


「全部、君が見せた幻だったらよかったのに」

「……私のこと……信じる?」

「君を助けて世界が滅ぶ。そんなものを普通は見せないでしょ?」

「……そう?」

「だって、君を助けることを躊躇してしまうかもしれない。現に今だって……」


 僕の手を握ったまま、少女はふるふると首を左右に振った。


「……ここまで戻ってきてくれた人だから……どうしても伝えたかった……私は私のために……選んだから」

「伝えて……君は僕に何をしてほしいんだい?」

「……あなたの思うままに。ただ……」

「ただ?」

「……誰かを赦せるなら、あなた自身も赦して……愛して。自分ばかりが傷つく道を選び続けて生きるのは……きっと、自分がすり減って消えてしまうくらい過酷だから」

「自分自身を大切にする……か」


 困った時はお互い様――


 僕がメイの入った樽を開けたのも、この子に救われたからだ。

 

 誰かを助けるのも、彼女に生かされたから。


 そう……思ってたけど。


「たぶん、僕の性分だったんだと思う。困ってる人を助けようとするのって。普通なら、そんなことはできないんだけど……」


 不可能を可能にする「時間」スキルがあったから、出来てしまった。

 ただ、それだけ。


 女の子は小さく頷いた。


「……私にできるのは……ここまで」

「ありがとう。見せてくれて」

「……こちらこそ」

「君を助けられないのかな」

「……今のまま時が進めば、誰にも明日は訪れないから……」


 心細そうな眼差しだ。

 世界を守るために、自ら消えることを選んだメイと同じじゃないか。


 なら――


「今のままがだめなら、もっと昔に戻ってみるよ」

「……戻る?」

「僕のスキルにはルールがある。僕自身をスキル発現前の状態に戻すことはできないけど、今の僕を僕のままに、世界の時間を跳び越えることは可能なんだ」


 そうやって戻ってきた。経験も知識も技能もスキルも成長したまま、世界だけを巻き戻したんだ。

 少女は不思議そうに首を傾げる。


「……?」

「十年でも百年でも……千年前にでも戻って、君もメイも世界も存続できる可能性を探るよ」

「……けど」


 ほぼ無限に近い選択肢の中から、正解があるかもわからないルートを選ぶ。

 莫大な時間と試行回数。

 誰だって尻込みする。躊躇する。


「君とここで出会うのも、過去に戻ろうとするのも『運命』の導きなんじゃないかな?」

「……本当に……いいの? 私はこの地点より過去から始まる可能性は視られない……。手伝えない。あなたは何度も……人生を繰り返すことになる」

「それでも逢いたい人なんだ……メイは」


 少女は一度目を伏せると呼吸を整えてから――


「……ここに戻ってくれたら……また『運命』で観測するから」


 笑顔で僕を送り出すように、握った手を離した。


「……いって……らっしゃい」


 途端に世界に色が戻る。風が吹き波に揉まれる奴隷船の甲板の上だ。


「いってきます」


 再び「時間」スキルを起動させた。

 もっと過去に戻るんだ。


 未来に起こる事象の原因――海魔神官エビルを倒す。

 過去でエビルさえどうにかできれば、未来は大きく変わるに違いないのだから。

お読みいただき、ありがとうございます!


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[一言] バタフライエフェクトとタイムマシーン思い出した。
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