11.暴風雨
【前回までのあらすじ】
メイとの種族を超えた二人暮らしの甘々な新生活。「神様探し」を忘れてしまうほどの幸せが続くのだが――
嵐がやってきた。
郊外にぽつんと一軒家なもんで、僕らの住まいはそれはもう酷い目にあった。
屋根が吹き飛び窓ガラスは割れて、ドアもガタガタだ。
一晩中、時間を戻して修理しまくる。
なにせ家と認識できなくなったら、戻せるモノも元通りにならないのだから。
途中で服がびしょ濡れになったため、メイは水着姿だ。
徹夜でなんとか朝まで持ちこたえる。
「やはり水着! 水着は正義なのです!」
「はいはい。時間を戻して乾かすからね」
曇天の広がる灰色の空だけど、僕はメイの水着や服を乾かした。
自分の服も同じように時間を戻す。
町の方は大丈夫だろうか。
そう思ったところで――
『スキルレベルが20になりました。範囲拡大が可能になりました。単位に時が追加されました』
透き通った声が頭の中で言う。
メイが不思議そうに僕の顔をのぞき込んだ。
「どうなさった先生?」
「一晩中スキルを使いっぱなしだったからかな。レベルが上がったみたい」
「わーお! 嵐は悪いことばかりではありませんなぁ」
「ちょっと外の様子も確認しよう」
「はいです!」
二人して家から出ると農具入れの納屋がぺしゃんこになっていた。
触れて「戻れ」と念じる。
五秒で元通りだ。まだ納屋と認識できていたけど、結構ギリギリだったかもしれない。
「うん……やっぱりだ」
「なにがやっぱりました?」
「今までよりも、もっと早く時間を戻せるようになったみたい」
「おお~! さすが先生! 常にその進化は止まらないッ!!」
「あと、建物まるごと時間を戻せるようになったかも」
「おっきいのも大丈夫なんですか!? これはもう無敵ですね!」
無敵って……いったい何と戦おうとしてるんだメイは。
ともあれ――
五秒で五時間戻すことができた。
しかも、納屋みたいなちょっとした建物サイズが対象でも問題なしだ。
今までは品物を直すのがメインだったけど、これならもっと大きな仕事ができるかもしれない。
「よし。メイ! ミランダさんの酒場に行ってみよう」
「きっと嵐で困った人いっぱいですね。先生なら皆を救い導けますとも!」
導くってどこへ――ッ!?
けど、助けになることはできると思う。
僕たちは支度を調えて町の中心街に向かった。
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天井に穴が空き、ミランダの酒場の屋根裏部屋が水浸しだ。
範囲指定して数秒で元通りにした。
「あんたいいのかい!? こんな大がかりな修復してもらってタダなんてさ」
「困った時はお互い様です。それにメイと一ヶ月過ごした思い出もありますから」
「ありがとうねぇ。ほんと、立派な人間だよセツナは」
続いて市場へ向かう。
テントが嵐で飛ばされて、木箱やら品物やらも散乱していた。
青果店のガンドの店から順番に修復する。
目の前でみるみるうちに戻っていくのを見て、ガンドが驚きながら笑う。
「ぶったまげたぜ! お前さんの仕事ぶりはちょくちょく耳に挟んでたけど、また助けられちまった」
メイが「がはは!」と笑って告げる。
「バナナの美味しさを教えてくれた報いを受けるがいい!」
因果応報だけど、言い方が不穏すぎる件。
だが、ガンドは気にする素振りもみせない。
「相変わらず飛ばしてるな嬢ちゃん! 二人は恩人だ! 困った事があったらなんでも相談してくれ!」
「他のお店も修復したいんですけどいいですか?」
「やってくれるか。本当にありがてぇよ。涙が出てくらぁ。謝礼は改めて、まとめて市場関係者一同から出すから頼むぜセツナ!」
一件ずつ店を「戻して」いく。各店舗の店主たちから感謝の雨あられだ。
それが一段落つくと、町の至る所で僕とメイは復旧作業を手伝った。
「ありがとう修復屋さん!」
「おーい兄ちゃんたち! こっちも手を貸してくれぇ! このままじゃ商品が台無しになっちまう!」
「すげぇ……一瞬で家が元通りじゃんか! あんた神様かなんかなのかい!?」
「おにーちゃんありがと! ペロのおうちも直してくれて!」
「鐘楼がこんなに早く元通りになるなんて、感謝のしようもありません」
民家から犬小屋から倉庫に教会まで、手当たり次第に戻していく。
嵐の起こす災害の凄惨さに驚きながら、困ってる人や立ち尽くしている人を助け続けた。
一日で町はほとんど元通りだ。
もちろん、僕の手が回らないところもあるけど、町の人間みんなで困難に立ち向かった。
最後の仕上げは――
魔導列車駅だ。
立派な身なりの制服姿の男性は、片眼鏡をしていた。
王都の鉄道公社から派遣された、この港町駅の駅長だ。
「君が修復士のセツナ君だね。町のみんなから話を訊いているよ。ランクAクラスの修復スキル持ちだそうじゃないか」
「買いかぶらないでください。そんなにすごいものじゃないですから」
「折り入って頼みがある。どうやら隣町に続く鉄道橋に崖崩れがあったらしくてね。復旧の見込みが立たないんだ。もし、可能なら修復してもらえないだろうか?」
列車の運行が止まると困る人も多い。
メイがキラキラした目で僕を見る。
「わかりました。やってみます」
「ありがとう。魔導トロッコを用意した。スタッフが事故現場まで送るから、橋の状態だけでも見てきてくれると助かる」
駅長さんは本物の紳士っぽい雰囲気だ。
僕とメイは鉄道公社の人に連れられて、魔導トロッコに乗った。
保線用のトロッコだが結構な速度が出て、あっという間に現場に到着する。
渓谷が眼下に広がった。
辛うじて鉄道橋は落ちてなかったけど、土砂に埋まってしまっている。
公社の人も「ああ、これは復旧まで早くて三ヶ月はかかりそうだ」と落胆した。
メイが僕の右手を両手でキュッと包むように握る。
「先生のお力なら、きっとなんとかなりますとも!」
「できるかわからないけど、やってみるよ。メイは下がってて」
公社の人は「おい君! さすがに無理なんじゃないか!」と言うけど、僕は構わず崩れた土砂に触れた。
時間を戻す。
心臓がドクンと跳ねた。
このスキルを使って初めて感じる重圧感。
だけど――
僕を信じたメイの期待を裏切りたくない。
僕らを受け入れてくれた港町を救いたい。
「戻れ……戻れ戻れ戻れ戻れ……戻れええええええええッ!!」
打ち寄せた波が引くように、大量の土砂が崖の上へと登っていく。
公社の人はその場で腰を抜かして尻餅をついた。
メイは両手と触手ツインテールを万歳させる。
「あっがれー! あっがれー!」
彼女の応援で僕はやりきることができた。
線路は綺麗に開通し、嵐の前の姿を取り戻す。
肩で息をしながら僕は公社の人に言う。
「次に嵐が来たら、きっと同じような土砂崩れが起きます」
「わ、わかった! 対策を講じるよう駅長と一緒に本局に掛け合うよ! それにしても君、本当にすごいんだね!」
公社の人は立ち上がるとズボンで手のひらを拭いて、僕に握手を求めてきた。
「上手くできて……よかった……です」
手を握り返そうとしたところで、目の前が急に真っ暗になった。
ちょっと無茶しすぎたみたいだ。
僕の意識は闇に落ちた。
途切れる間際に透き通った声が言う。
『スキルレベルが30になりました。さらなる範囲拡大が可能になりました。単位に日が追加されました』
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