105.会議は踊る
王城の大広間でエル女王主催の会議が催された。
出席者は僕とメイにシャチ子。
イレーナとフゥリィも同席した。
女船長は海運網の責任者として。
狐巫女は秘書ではなく巫女姿だ。獣魔大森林の代表だった。
砂の海から踊り子姿のサリア。鉱山都市の刀匠ゴルドンとドワーフギルド長。鉄道公社の重役の姿もあった。
港町から突然招待された酒場の女主人――ミランダは緊張しっぱなしだ。
他にも王都の有力者や重鎮が集められた。
もちろん、神殿都市から聖女プリムと護衛のチェーンも参加する。
なつかしい顔には再会を喜び合う挨拶をした。
知らない顔はエル女王から紹介される。
僕らがアビスを討伐した際に、すっかり有名人になってしまったので向こうは知ってる風だった。
女王の騎士の肩書きもあってか、マウントをとってくる大貴族様みたいな人物はいなかった。
むしろ僕に取り入ろうと露骨に態度を平伏させるような貴族がいるくらいだ。
そういった連中ともやっていかなきゃならない。
偉くなるとそれはそれで、厄介や面倒をため込むことになる。エル女王はこれからも、権謀術数と戦っていくのだろう。
本日の議題はただ一つ。
改めてエル女王が一同に通達した。
「フフン……以上の理由から海魔族穏健派を王国が支援し、和平協定を結ぶわ。異議申し立てはあるかしら?」
ざわめく貴族たちの中で、男が手を上げた。
新女王に対して否定的な一派も、会議の席に呼ばれている。
男はその代表。アビスの影に隠れてはいたものの、大貴族の一人だ。
「陛下はたった一人の少女を救うために、海魔族の半数と戦争をするとおっしゃるのですか?」
「王国を救った恩人よ」
「リスクはどうお考えです? 尊い犠牲がつきもの……と、強行なさるおつもりか?」
他方から手が上がった。
アビスによってスキル奴隷にされ、今やっと解放された冒険者たちだ。
「オレたちに見て見ぬふりして浪費しつづけた貴族様が何をいいやがる!」
「せやせや! おれは陛下の命なら海魔国に殴り込んで、そのエビルってやつのタマぁとったるで!」
「テメェだって既得権益侵されんのが怖ぇだけだろがい!」
エルが「やめよ……」と制して冒険者たちの騒ぎを止めた。
大貴族も図星を突かれて口を閉じる。
合わせて――
市井の代表者たちが、それぞれメイと僕とシャチ子の事を語った。
「メイちゃんは良い子だよ! なんとか助けてやれないのかい?」
「武器も防具もうちの町で増産中だ。セツナが残してくれた資金でやりくりして、蓄えだってできてるぜ! セツナの金だ! 使ってくれ!」
「砂の海に住まう者を代表して、今こそ恩義に報いたいと存じますわ」
反対派を抑え込む算段あっての会議だ。
フゥリィがふわりとした尻尾を揺らして立ち上がった。
「獣魔族としては海魔族と人間の王国が同盟を組むのは見過ごせぬ。ハブられてしまうからのぅ」
勢力の均衡の崩れは種族存亡の危機を招きかねない。フゥリィは続けた。
「だが……三人には族長ルプスの命を救われたという、返しきれぬ借りがあるのじゃ。たった一人のために命を賭けてくれたのじゃからな」
イレーナが海賊帽をかぶり直して狐巫女の隣に立つ。
「派手なドンパチなら任せてちょうだい。アタシ個人としても……海魔族には因縁あるし」
船長のスターティアラ号を沈めたのは海魔族だ。過激派か穏健派か、どちらに属しているのかはわからないものの、シャチ子曰く「海魔神官エビルに与する連中は、血の気が多い」という。
魔導列車を運行する公社の代表も同意した。
僕らが乗ったばっかりに蟹の海魔族によって大事故が起こってしまった。
けど、悪いのは襲撃した側だと公社代表は証言を重ねる。
エルが頷き聖女に視線を向けた。
「神託はどうかしら?」
プリムはふわふわの髪を左右に振った。
「ごめんねエルちゃん。なんだかとっても見通せないみたいなの。けどけど、個人的にはぁ……メイちゃんに幸せになって欲しいって思うよ!」
チェーンが椅子を鳴らして立ち上がる。
「おいテメェら重要な会議だろ! 聖女頼りにすんじゃねぇ! 頭ついてんのか? 脳みそかっぽじって考えやがれ!」
と、言いつつも、チェーンが神託を受けられなかったのは事実だ。
本当に何も見えなかったらしい。
だからこそ、人の手と意思で実行する。
メイが魔王の器として必要とされない世界――
すべての中心になるクラゲ少女は下を向いたままだ。
「メイは……みんなを困らせますか?」
僕はテーブルの下でメイの手を握る。
「メイが良い子にしていたから、力を貸してくれるんだよ」
「先生には……ご迷惑ではないですか?」
「一度だってそんな風に感じたことはないさ」
「メイは……本当に幸せな果報者です。けど……」
最後に一つ、決まっていないことがある。
エル皇女も眉尻を下げた。
「フフン……あとは誰が交渉の窓口となるか。大使を派遣しなきゃいけないわ」
貴族たちは沈黙した。大使の地位や実績功績よりも、危険を伴う海魔国行きを嫌ったみたいだ。
狐巫女が挙手した。
「となると、ここはわちきかのぅ。海魔国を見に行くのも一興じゃ。護衛に腕利きの冒険者を何人か所望するぞ」
シャチ子が立ち上がった。
「フゥリィよ気遣いには及ばぬ。私が話をつけてこよう」
「じゃが、お主はメイのそばにおらねばならんのじゃろう?」
「近くにいるばかりが忠誠ではない。穏健派の代表は我が父サカマタだ。私が説得してみせる」
貴族たちから「海魔族に交渉を任せるのか?」と声が上がった。
エル女王が口を開く。
「では貴方が大使を務めますか?」
「へ、陛下……お許しを……」
「フフン。決まりね」
この場に元アビス派の貴族を列席させたのも、反対意見を出させるためだ。
エルがすべてを掌握し、独断ではなく話し合いによって採決した形になった。
ただ一つ――
シャチ子が大使を務めることだけが、予定とは違っていた。
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