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102.無機質な世界

 暗い天の世界を埋め尽くす星々は、瞬かなかった。

 地上で見る時と違って、揺らめかず煌々としている。


 僕らを乗せた箱船が近づくと、円筒形が口を開いた。導くような光の帯に座標を合わせる。


 船が入港するように、静かに内部へ。吸い込まれると何重にも扉が閉鎖した。


 箱船が接岸するように降り立つ。


 棺の内部に抑揚の無い声が響いた。


『環境確認。エアロックニ問題ナシ。着艦完了』


 プシューと音を立てて、箱船がひとりでに開いた。


 殺風景な場所だ。

 王城の広間ほどの広さに、僕らと箱船しかない。

 光源がどこにあるのかわからないけど、不思議と明るかった。


 壁には継ぎ目がなくて、灰色だ。


 メイが僕の腕に掴まるように身を寄せた。


「先生……なんだかお墓みたいですね……メイはちょっぴり心細いです」

「大丈夫だよ。僕がそばにいるから」

「は、はい! なんと心強い!」


 水晶の棺が納まる場所が、天の世界のお墓か。

 僕らはまだ死んでないけど。


 床に触れてみる。

 ちり一つなく綺麗だ。


 なんとなくだけど、王都の城の地下空間を思い出した。


 メイがお墓と言ったのも、この場所が霊廟と似ていたからかもしれない。


 奥に扉があった。ひとまず、先に進もう。


「行こうメイ」


 触手をたらんとさせて、少女はコクコク頷いた。


 歩くと音が響く。モノがなくて空間が広いから。それに異様なほど静かすぎて、足音すら目立つ感じだ。


 メイが恐る恐る訊く。


「どなたか~……神様の方はいらっしゃいますかぁ?」


 反応はない。

 そのまま進んで扉の前に立つ。

 ノブも取っ手も見当たらない。


「これじゃあ行き止まりですが!? 破壊ですか? ドンドンドン! 開けろ! お客様ですが!?」


 メイが触手ツインテールでノックする。けど、ペチペチ言うだけだ。


「とてもじゃないけど壊せそうにないね」

「あうぅ……詰んだ。もう終わりなんだぁ」

「困った時はスキル頼みかな」


 これが扉なら開閉はしているはずだ。時間を戻せば開いてるタイミングだってあるに違いない。

 一気に戻しすぎると見逃しちゃうだろうな。


「先生お願いします」

「任せて。メイは僕の後ろに」

「はい……先生の背中を見て育ちますから」


 扉に触れる。戻れと念じると――


 部屋が赤い光で染まった。明滅するのに合わせて耳障りな警報が鳴る。


『登録外アクセスヲ確認。排除シマス』


 扉が左右にスライドして開く。

 その先には――


 床一面を埋め尽くす円盤たちの群れがいた。

 給仕係が使うシルバートレーほどの大きさだ。

 厚みは二十センチほど。


 十数体が一斉に僕らに向かってくる。


「先生ッ!? どうしますか!?」

「メイは下がって!」

「いいえ戦いますとも! 先生はメイになにかったら『戻し』てください!」


 メイが触手ツインテールで円盤を弾く。

 瞬間――


 触れられた円盤が爆発した。

 触手の先端が炭化する。


「いったああああああいい! けどぉ……メイは我慢できますからぁ! 先生! 治して!」


 言われるままメイを戻す。僕らの基本戦術だ。生き残るためにずっと、この方法を選んできた。


「けど……これじゃあメイがつらいだけだよ」

「二人で先に進むためです。先生……適材適所ですから! 先生だっていつもそうだった! 自分を犠牲にしてきたっ! だからメイも……ッ!!」


 足下に波のように押し寄せる黒円盤たち。

 メイが触手で追い払う。

 傷つきながら。

 これじゃあどっちが守っているのかわからない。


 メイを癒やすほど痛みを与えているようなものだ。


「やっぱりダメだよこんなの」


 僕はメイの前に出ると円盤を持ち上げた。

 時をコントロールして時間の進みを限りなくゼロに近づける。


 メイの苦しみを少しでも取り除きたい。


 だから――


 止まれ! 止まれ! 止まれ! 止まれッ!!


 僕の願いを「時間」スキルは……受け止めた。


 黒円盤が動かなくなる。一時停止じゃない。凍り付いたみたいな静謐さだ。


 爆発を「止めて」から、他の円盤目がけて投げつける。


 僕の手を離れた円盤は仲間の元で爆発し、連鎖的に誘爆を起こした。


 メイが目を丸くする。


「先生ッ!? 計算ですか!? なんというテクニカル!!」

「偶然だけど上手くいったね」


 黒い残骸が床に散らばり、動く円盤はもう無い。

 傷ついたメイを戻しながら、先へと続く通路を見据えた。


 僕らを迎え入れたのに、進むことを拒むなんて……。

 天の世界のことわりが、人間の僕にはさっぱりわからなかった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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