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101.天空へと至る道

 意識を取り戻してもまだ夜だ。


 そびえ立つ金字塔。中へと続く入り口のようなものが見当たらない。

 ただ、頂上まで続く階段があった。

 

 登り切る。星々に近づいたような不思議な感覚だ。

 周囲はどこまでも続く砂の地平線。

 空は青く暗く、天の世界がどこまでも広がる。


 王家の霊廟で見た祭壇が頂上にあった。


 ここで王国初代女王が祈りを捧げたんだ。


 壇上に鎮座していたのは――


 半透明の水晶柱だった。何かを支えるために立てられたというでもなく、避雷針にしては太すぎる。


 シャチ子が警戒しながら、愛刀を手に柱に近づく。


「ふむ……これはいったい……」


 瞬間――


「再認証。接続ヲ確認シマシタ」


 柱から抑揚の無い声が響く。と、柱の中心が開いた。

 中に人が収まるくらいの空間がある。


 イレーナが自身のお尻を撫でながら言う。


「まるで棺桶ね。縁起が悪いんじゃない?」


 メイが目をぱちくりさせた。


「どうして棺がここにありますか? 意味がワカメですが?」


 素直な感想だけど、僕も同じ事を考えた。


 加えてこの水晶柱は、僕らに反応して勝手に開いたのだ。


「誰かを待ってた……ってことなのかな?」


 メイがブルリと震える。


「メイを閉じ込めて埋葬するんですか!? い、いやです! ごめんくださって!」

「そんなことしないよ」


 僕は水晶柱の元に近づく。シャチ子が「うかつに近づくな」と警告したけど、調べないことには始まらない。


 柱に触れると――


「ステーションニ帰還シマスカ?」

「ステーションって?」

「認証者ノ質問ヲ確認。チュートリアルヲ起動シマス」


 瞬間――


 頭の中に直接情報が流れ込む。

 言葉にすれば文字通りなんだけど……。


 僕はこの棺の使い方を「思い出した」みたいだ。


「これは棺じゃなくて、天の箱船だよ」


 メイが触手ツインテールでクエスチョンマークを作る。


「天の? 運ぶね?」

「運ぶって意味じゃだいたい合ってるかな。これに乗れば天の世界に行けるっぽい」

「ほ、本当ですか先生!? 先生はなんでも物知り博士ですね! わかります!」


 クラゲ少女が両腕とツインテールを万歳させる。


 イレーナは箱船にベタベタ指紋をつけながら「こんな形の船なんて、あるわけないでしょ? セッくんさっきぶっ倒れておかしくなっちゃったの?」と、怪訝顔だ。


 シャチ子はあごに手を当て「ふむ、どう見ても一人乗りだな。船というよりもボートといったところか」と感慨深げだ。


 メイが颯爽と乗り込む。


「さあ! メイを空に運んで天の神に合わせてください! ちゃんと会えるじゃないですか! プリムちゃんの予言は今、運命が反転して覆りました! 人間に……メイは人間になれますね!」


 興奮するメイだけど、箱船はうんともすんとも言わなかった。

 無反応な箱船にメイはふくれっ面だ。


「んもー! どうして! なぜだ! なぜ動かぬ!」


 イレーナがため息をつく。


「よくわかんないけどぉ……セッくんだけなんじゃない? どうみても明らかに反応してたし。アタシが触ってもな~んも起こらないし」


 メイはぴょいっと箱船から出ると、僕にぎゅっと密着した。


「先生となら行けますね! どこまでもいつまでも、ご一緒ですから」

「どうだろうね」


 箱船に触れて問いかける。

 情報が直接頭に流れ込んできた。


 たぶん、僕とメイくらいなら大丈夫だ。


 船長と女剣士に向き直る。


「二人で行ってくるよ」


 イレーナは「合法的に密着とかズルいんだけどぉ……ま、アタシの胸とお尻じゃ大きすぎて入んないか。よかったわねメイメイはぺったん娘で」と口を尖らせる。


「な、なにお~! むむむ……事実陳列罪ッ!! けど、今回ばかりは言い返せないのです!」


 僕にさらにぎゅっぎゅと抱きつきメイはイレーナを睨む。


 一方で――


「私は反対です。メイ様……ここはセツナ様だけを行かせてください」


 シャチ子が立ちはだかった。腰の月光の柄に手を添える。

 女剣士は本気だ。


 クラゲ少女が哀しげに叫ぶ。


「どうして!? シャチ子はメイが人間になるのの邪魔をしますか?」

「なれるとは限りません。仮に天の世界に行ったとして……メイ様をお守りできないではありませんか?」

「ならシャチ子も一緒にくればいいです」

「お二人の間に私が入る余白は……」

「ぐぬぬ……これだから乳胸デカ族は……ぐぬぬ!」


 たぶんサイズ無関係で、三人は無理だと思う。


 シャチ子を安心させないといけない。


「大丈夫です。僕がメイを護りますから」

「わかっている。が……魔王の器を持つ者を見守り続けるのが、イールカ家に生まれし者の使命。天の世界などにいかれては……この手が届かぬではないか?」


 メイが鼻を鳴らした。


「フフン……シャチ子はそろそろメイ離れの時期ですね」


 エル女王の癖まで学んでしまったみたいだ。

 女剣士は食い下がる。


「し、しかし! ですが!」

「大丈夫ですシャチ子よ。天の世界からメイがシャチ子を見守っていますからね」

「そういう問題ではないのです!」


 見守るといえば聞こえは良いけど、監視がシャチ子の使命だ。

 前に少しだけ僕に話してくれた。


 シャチ子の家系は王に仕える。けど、その王がもし、暴走した時には止めるのが使命なんだ。


 時々、メイから垣間見える海魔王の「器」の力。

 旅を続ける間に、闇がメイを満たしつつある。


 いつ、器からこぼれ落ちるかもしれない。

 だからシャチ子はこんなにもかたくななんだ。


「シャチ子さん。もし僕らが戻らなかった時には、シャチ子さんの使命を僕が果たしたと思ってください」

「セツナ様……その言葉の意味、わかっているのか?」

「僕はメイと最後まで一緒にいられれば幸せです」


 メイがぎゅうっと僕に密着する。


「メイは今が一番幸せですね! こうして先生と一緒にいられてとってもとっても嬉しいですから! 天の世界でもきっと大丈夫ですし!」


 女剣士は刀の柄から手を離し肩を落とす。

 イレーナが背中をポンッと軽く叩いた。


「行かせてあげたら?」

「うむ……信じるぞセツナ様。メイ様をどうか……頼む」


 守って欲しい。そして、何かあればメイを止めて欲しい。


 二つの意味が一つの言葉に集約されている気がした。


 イレーナが僕とメイに手を振る。


「いってらっしゃい。まさか天の世界なんてものがあるなんて、海の広さも深さもわかってないのに……ちゃんと帰ってきて、教えてちょうだいね」

「はいです! もちろんですとも! メイが先生になる番でしたね!」


 シャチ子は下を向いたままだ。


「どうかご無事で」

「うむ! よきにはからえ」


 エヘン顔のメイに代わって僕が告げる。


「できるだけ早く戻ります。けど、船の資材をみて場合によっては一度、近くの村まで戻ってください」

「了解した。が、水はオアシスで潤沢だし、ナツメヤシも生えている。イレーナが我慢できれば一週間は持つだろう」


 船長が「アタシだって余裕よ余裕! むしろ海魔族のアンタの方がダウンしちゃうんじゃない?」とドヤって返した。


 僕はメイの手をとって箱船に導く。


「じゃあ、行こうか……」

「はい。先生と密着なら……樽の中みたいですね。けど、今はもう怖くない……です」


 透明な棺に少女を抱いて収まると、扉が独りでにしまった。

 シャチ子とイレーナが何かを言っているけど、声は届かない。


『帰還シマス』


 密閉された棺の中に声が響いた。

 メイが腕の中でそわそわする。


「誰ですか!? 何者だ!!」

「大丈夫だよ」

「せ、先生がそうおっしゃるならば」


 箱船が微振動したかと思うと、ゆっくりと浮き上がった。

 加速の重圧を感じる。


 あっという間に足下の二人が小さくなった。


「あは~! 飛んでる! メイはクラゲちゃんなのにお空を飛んでいますよ!? あそこ見てください! 砂の海の大きな町ですし! あっ! あっちは鉱山の町ですよ!? おっきな森に光がありますね!」

「獣魔大森林の集落だろうね。見てメイ。山の方を」

「きっとプリムちゃんの町です。その先のおっきな光は……王都だ!」

「そうだね。点在する灯りは魔導列車の駅かな?」

「地上も星の世界みたいに、とっても賑やかなんですね」

「あの光の一つ一つに、誰かの暮らしがあるんだ」

「先生! 海際!」

「砂浜だね」

「メイと先生が運命の出会いをしたのは、あの湾になってるとこでしょうとも!」

「じゃあ、その先にあるのが港町かな?」

「早く人間になって、おうちに帰りたいですね! シャチ子も一緒に三人で暮らすのですよ」

「うん。がんばろうメイ」


 足下の世界は広がり、果ては新大陸の輪郭まで見え始めた。

 僕が育った孤児院がどこらへんかは見当も付かない。


 箱船はさらに天へと昇る。

 僕らの住む大地は……球体だった。


「ふえぇ! これがメイたちの世界なのですか!?」

「すごいね。星の世界だ」

「お月様がありますよ!? 結構空まできたけど、まだ遠くですね!」

「月が丸いように、僕らの世界も丸かったんだね」

「ですよですよ! ああ! 知的好奇心が満たされるぅ! メイはまた物知りになっちゃいました」


 月と僕らの世界の中間地点に、不思議な円筒形の物体が浮かんでいた。

 箱船はそこに向かっている。


 あれが僕らの目指す神の居場所――

 天の世界なんだろうか……。

お読みいただき、ありがとうございます!


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