表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/115

第八十七話 脆弱

 再度、詰所に向かおうとすると詰所の方角から大きな爆発が起きた


 戦闘が収束に向かっていたはずだが……。

 アラスターは不安に駆られ急ぎ現場に走ると街道からコチラに向かって来ていた帝国軍と戦闘が勃発していた。しかも、暗くて正確な数字はわからないが灯りの数から軍の規模は2個大隊規模であろう。我々が今回の作戦に投入した兵力と同数が詰所を抑えた一個中隊に襲いかかっていた。


 彼らは必死に応戦しているがこのままでは長くは持たない

 目の届く範囲だけでも数十人の解放軍の兵が倒れ伏している

「総員!目的は間も無く達する!ここからは生き残ることを最優先とせよ!」

「「ハッ!」」

 ここで下手に殿として兵を残せば一個中隊の崩壊をきっかけに全てが崩壊するだろう。彼らは地方解放軍を名乗ってはいるが要は民兵集団だ。死をとした遅滞戦闘など命じても遅かれ早かれ瓦解するならなりふり構わず逃がしてしまった方がいい

 まだ倒れている者の中にも生きている者もいるだろう、だが彼らには悪いが大勢を逃すのが先決だ。見捨てることになるが致し方ない


 初戦で重要なのは作戦の成功ではなく生還者を増やして経験を積ませ、戦死者が少ないことを誇る事だ。成功失敗など後からいくらでもそれらしい理由をつけられるが死者は戻らない。そこだけは徹底せねば


 彼の号令一過、兵はライフルを背負い、重い荷物を放り出して船の方へと走り出した

「灯りは詰所に全て置いていけ!艦船の明かりを目印に一心不乱に駆けよ!」


 灯りを詰所に置いておけば敵はまだ兵がいると思って慎重に制圧をするだろう。その間に距離を取れるはずだ。

 俺たちは必死に船へ向かって走る。他の詰所に向かった中隊も伝令を出したので各所から次々と桟橋へと駆けてきていた


 だがその後ろから帝国兵の姿もチラホラと見える

「第一中隊!味方が船に乗り込むまでの時間を稼ぐ!反転迎撃!」

 第一中隊250名は背中のライフルを構えてこちらへと向かってくる帝国兵を迎撃する

 しかし、帝国兵の練度は高く数も多いことから第一中隊の兵は次々と削られていった

 アラスターの横で指揮をとっていた第一中隊長も一兵でも兵が必要ということで前線へ向かっていった


 その間に次々と他の兵は船へと乗り込んでいく。

「アラスター様!兵員の9割が乗船完了しました!敵もコチラが確保していない軽巡洋艦やトーチカに兵を入れ始めました!そろそろ船を出さねば港を出たところで捕捉されてしまいます!」

 副官が慌てた様に報告してくるのをアラスターは片手間に聞きながら第一中隊の戦況を見守っていた

 第一中隊はすでに半数以上が打ち減らされており身動きが取れなくなっていた

 そこへ第一中隊長が足を引き摺りながらコチラへ向かってきた

 よく見れば彼の左肩から先は無くなっており呼吸も荒かった

「ここは我々に任せてお逃げください!私以外の指揮官は皆死にました!最後に私がここで時間を稼ぎ、死ねば首謀者の名前は帝国には伝わりません!」


「し、しかし……。」

 アラスターは思わず言い淀んだ。この中隊長は彼にとっては教え子でもある。軽々しく見捨てられないほどには情がわいていた

 そんなアラスターの肩を中隊長は残った右腕で小突いた


「何を躊躇っておるのです!これは大義のため!その為なら手段を選ぶなと常々おっしゃっていたのは先生!貴方ですよ!」

 彼の喝にアラスターは迷いを振り払って頷いた


「左様だ、あとは頼んだ。死んでも時間を稼げよ……。」

 アラスターは肩を落として歯噛みした

 そんな様子の彼を見ながら中隊長は満面の笑みで頷いた

「そう!それでこそ先生です!それでは失礼いたします!」

 そう言って中隊長は右手にハンドガンを握りしめて戦線へ戻っていった


「クソッ!帝国の即応部隊がこうも速いとは」

「アラスター様!参りますぞ!」

 副官に促されてアラスターは奪取した重巡洋艦へと乗り込んだ


 アラスターが乗り込んだのを確認した他の船も出港を開始した


 アラスターは甲板からいまだに粘って時間を稼いでいる第一中隊を見ていた

 既に桟橋に10人ほどしか残っておらず弾も尽きたのか全員が剣を持って対峙している

 半円状に組んだ彼らの中心には先ほどの中隊長がいた

 次々と他の兵が包み込まれて殺されていく中、彼は右手に持ったハンドガンをこめかみに当て息を一つ吸うと引き金を引いた。彼の体はビクンッと一度波打つと全身から力が抜けた様に空を仰ぎ見る様に桟橋の上に大の字に倒れ込んだ


 アラスターは彼の最後を見届けると静かに瞑目した

 しかし、そんな彼のしんみりとした感情は長くは続けられなかった

 トーチカや軽巡洋艦から次々と砲撃が始まり最後尾を走る駆逐艦が直撃弾を喰らった

 機関部からは煙が立ち上りドンドンと速度が落ちて行く。船員は慌てて甲板から飛び降りてもう一隻の駆逐艦の方へと向かい、被弾した駆逐艦は後尾から沈んでいく。

 アラスターの乗る重巡洋艦にも兵が泳いできており慌てて甲板の兵たちはロープを海へ投げ込んで行った


 しかし、そうやってチンタラと救出活動をしていては軽巡洋艦が追いかけてきてしまう。海賊も操船を教える暇はあっても砲撃のやり方まで素人に教えている余裕はなかった為逃げることしかできない。

 だが、港へ近づかない様に砲撃は続けているが追ってくる事はなかった


「なんとか、船は奪取できたが勇敢な兵を亡くした。この痛手は大きいな……。」

 アラスターは甲板から船内に入りため息をついた






 後にこの作戦の結果が報告された

 帝国兵はおよそ4個大隊が向かってきていた様で逃げるという判断は間違っていなかった様だ

 しかし、コチラの損失は第一中隊250名の壊滅に加え各所での戦闘で脱落者が相次いだ事で戦死者は膨れ上がり、戦死400名。負傷者200名と厳しい結果となった

 民兵だと言えばそれまでだがアラスターが想定していた以上に兵が脆かった

 今後の作戦の下方修正を迫られたアラスターはそれからしばらく頭を悩ませることになる

次回更新は少し時間をいただいて日曜とさせていただきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ