間話 佐々木先輩の話 #2
遅れてすみません、ここから更新頻度を戻してまいります。
読経だけが響く葬式会場は閑散としていた
喪主を務めるのは坂田君の父親ではなく時折会っていたという彼の叔父で当の父親本人は葬式に参加すらしていなかった。
親族に金を無心し続けていた父親のせいで親類縁者からは縁を切られている様で叔父さん以外は親族は来ていなかった。
その代わりと言ってはなんだが友人を名乗る者はちらほらと来ていて、二、三人で肩を寄せ合っては涙を流しており、彼が友人関係は大切にしていたことが伺えた。
葬式の段取りがひと段落して待合室で一人で茶菓子とにらめっこしていると喪主をつとめていた彼の叔父さんが声をかけてきた
「喪主を務めさせていただいております遠野と申します。本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございました。たしか、会社の同僚の方だったかと記憶しておりますがお間違い無いでしょうか?」
彼のその言葉に私は慌てて立ち上がり挨拶をする
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません!おっしゃる通り、私は坂田君の同僚です。こちらこそ、わざわざ式の日取りをお教えいただいてありがとうございます」
そう答えると遠野さんはフッと優しい笑顔を浮かべて、私に椅子にかける様に手で示しながら自身も正面の椅子に腰掛けた。
「いや、俊朗から常々聞いていたんですよ。教えるのがうまくて親切な先輩の下につけたって。ですから、どんな方なんだろうと思っていたのですがこんなに素敵な女性だったとは思いませんでした。俊朗が私に自慢をするのも頷ける話です」
遠野さんの笑顔はどことなく坂田君に似ていて、あぁやっぱり血のつながった親族なのだなと再確認させられた。
それにしても、坂田君は自分を身内の人にそんな風に話してくれていたのかと思い少しはにかんで頷きながら髪をかき上げた
「しかし、あの子には可哀想なことをしました。私の弟…。つまり、俊朗の父である敦彦があの子に辛く当たっていたのは知っていました。何度も引き取ろうとしたのですが俊朗自身が大学に行くまでは育ててくれた恩を返すと言ってバイトをしてお金を入れてやってたみたいです」
そうだったのか、彼は確かに妙に律儀であったのは覚えている。しかし、ほぼネグレクト見たな状態だった彼にそんな恩があったのだろうか?
「これは、家族の贔屓目かもしれませんが敦彦も昔はあの様に横柄な人間ではなかったのです。ですが、俊朗の母が彼を産む際に帰らぬ人となってからは酒に浸かる様になりあの有様です。敦彦は結局、妻は愛せても子である俊朗のことは愛せなかったのでしょう。痛ましい話です」
その話を聞くと私は坂田家の不運に同情すると同時に怒りも湧いていた
どれだけ、妻を失った悲しみが深かろうと子に罪はない。それを忘れて子にキツく当たるのは理不尽というものだ。しかし、その怒りを遠野さんに向けるのもお門違いなので黙って話を聞いていた。
遠野さんはそんな坂田君の事を心配して度々様子を見に来ていたそうだ。大学への進学の援助をしたのも彼らしい。
「失礼ですが、遠野さんは何故そこまで坂田君にしてあげられるのですか?」
私が問うと彼は頭をポリポリとかいた
「他人から称賛を受けたいという邪な心があったのは否定しません。ですが、それ以上にあの子が理不尽な目に遭うのは一族の恥でもありました。亡き父、つまり俊朗の祖父が生きていてもやはり同じ事をしたでしょう。けれど、そんな我々の気持ちもお見通しだったのでしょうか。あの子は自力で独立して立派に社会人の仲間入りをしていきました。我々の助けなどいらないという様にね」
彼は寂しそうにため息をつくと私に会釈して寺の軒先まで出て行き、背を向けてハンカチで顔を拭っていた
それから少し他の参列者とも会話して棺の収められている部屋まで最後の挨拶に向かった。
そこには酒瓶を片手に棺に向かって胡座をかいて座っている敦彦がただ一人でいた。
また何か心無い事をしようとしているのかと、見張るつもり私は部屋の隅にこっそりと座った。
どうやら彼は酔っている様で私の存在には気づいていない様だった
「これからが稼ぎ時って時にどーして死んじまうかね。我が家のローンもお前の借りた奨学金の返済だってまだじゃねぇか」
そう言うと彼はクソッと悪態を吐き酒瓶をあおった
「酒代だって、これからは俺がちゃーんと稼がなきゃいけない。面倒この上ないことばっかり残しやがって」
そう言って彼はさらにもう一度酒瓶をあおった
しかし、酒瓶の中身はカラだった様で、どれだけ垂直にしても一滴も酒は出てこなかった。
「クソッ!」
彼は酒瓶を部屋の隅へ転がし腕を組んだ
そして次の瞬間に床にポタリと水滴が落ちた
私は最初彼の口の端からこぼれた酒かと思っていたがさらに速度を増す様にポタリポタリと水滴が畳の床に落ち彼はウッウッと言ってうずくまった
「どうして……。お前まで先に死ぬんだ。みどりが死んで今度はお前か……。あれだけ親戚に俺が金を無心して高校まで行かせてやったのに結局お前は死ぬのか!?おい!どうなんだ返事をしろよ!俊朗!」
そう叫ぶと彼は棺に手を伸ばした
「ダメ!」
思わず私は飛び出して彼の手を掴みグイとこちらへ引っ張った
「いてぇ!なんだテメェは!」
敦彦は肩を怒らせてコチラへと向き直った
「私は坂田君の会社の同僚です!やっと安らかに眠れた彼にまた乱暴するんですか!?」
私がそう怒鳴ると彼はたじろぐ様に数歩下がって息を吐いた
「安らかにだと!?家のことを何もしらねぇで首を突っ込んでくるな!このアマ!」
そう言って彼は私を突き飛ばしてドスドスと部屋を後にした
部屋には私だけが残された。
佐々木先輩を覚えていましたでしょうか?#1を出して一年経ってしまいましたが続きになります。
次回の更新は水曜or木曜の予定です




