第七十六話 前と後ろ
昨日は忙しくてですね…はい。
俺たちはトリノの言葉で一泊してから元のシャードの森の出口へと戻るため村落の門で装具の確認をしていた。
そんな俺たちに門番の一人が声をかけてきた。
「なぁ、あんたらパンドラ兵を助けてくれたんだって?」
「あぁ、まぁ助けたな」
よく見ると昨日俺たちを殺そうと息巻いていた若者の一人だった。
流石に、「騙されそうになったので返り討ちにした奴」を届けたなんて言えないので適当に言葉を濁しておく。
すると門番は片膝をついて嗚咽を漏らしながら叫んだ
「感謝する……!そして昨日の非礼を許してほしい!トリノさんに言われて気がついた。我々は虐げられるあまり、排他的になり共に被害を受けたもの同士しか信用できなくなっていた!だが、アンタらはそんな俺達の仲間を助けてくれた。感謝しても仕切れない!」
あまりの昨日との急変ぶりにギョッとしているとベル君が一歩前に出て泣き崩れる彼の前に立った。
「大丈夫、気にしないで。僕たちがした事はただ彼をここに届けただけなんだ。だから、これから彼を救うのは君たちだから」
「そうだよ。謝罪は受け取っておくけど、感謝は要らないわよ。たくさんの人たちを助けてる自分にもっと胸を張りなよ」
ベル君の言葉にヘレナも頷いて追随する。
「……ッハァ。わかった。俺はスナクって言うんだ。まだ、一兵卒に過ぎない非力な身だがお前達がもし危険な目にあう時は必ず助けに行こう!来るべき時まで俺も力を蓄える!」
「わかった。お互いにまた生きて会おう」
俺達は順にスナクと握手をするとお互いの無事を祈って別れた。
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そのまま俺たちは初め野営地としていた森の出口が見えるところまで戻ってきた。
「おい、あそこに見えるのってバラト大佐の部隊じゃないか?」
ルイスが指を指す先を見ると丁度、帝国の旗を翻した装甲車が森を抜けて出てくるところだった。
「そうか、意外と早かったな。ベル君、悪いが体調の悪い演技を頼む」
「うん、わかった」
そして俺たちは村落から貰ってきた木の板にベル君を寝かせて俺とルイスで担架のように持ち上げた。
「ヘレナ、悪いけど一足先にバラト大佐に会う約束をしてきてくれ」
「はいよ」
ヘレナに先行させ俺たちは揺らさないようにゆっくりとベル君を乗せた板を運んだ。
俺たちが野営地に着く頃には大半の隊員が到着していて各々で休息のために水を飲んだり装備の点検をしていた。
俺たちが板を運んでいると大半の兵士たちが心配そうに俺たちを見送る。
奥まで歩いていくと途中でサーベルを腰から吊ったヌーベル伍長が部下たちとこちらへ歩いてきた。
「やぁ、ルーク殿久しい……その担架はどうした?」
驚きながら俺たちに駆け足で近寄り、横たわるベル君をみて絶句した
「ベ、ベル殿!?何があっだというのだ!?戦闘があったのか」
「いや、そういう訳では無いんだが、バラト大佐の所に傷病兵の報告へ行かないといけないんだ」
「なるほど、心得た!」
ヌーベルは後ろからついてきた部下達の方へ振り返って叫んだ
「各々!道案内だ!道を開けさせなさい!」
「「おう!」」
そう叫ぶや否や彼の部下達は駆け出しごった返す兵士達に身振り手振りで道を開けさせる。ヌーベルは部下達の作った道が閉じる前に叫びながら俺たちの前を先行して歩く。
俺はベル君はピンピンしてるので「なんだか悪いなぁ」とボソッと呟きながらも厚意は受け取っておこうと足を早めて彼らの開けた道を走った。
そこへ、中隊長のコリン少佐が騒ぎを聞きつけて俺たちのところへ走ってきた。
「なんの騒ぎだ?」
「実は傷病者が出まして」
俺が彼に声をかけると彼は訝しげな顔をした。
「ここは戦場だぞ?たかだか傷病者で騒ぎすぎだ」
まぁ、俺もそう思う。しかし、ヌーベルはその言葉に気がつくとコリンに叫び返した。
「命の恩人の一人ですぞ!ここで助けずにいつ助けるのです!」
「あぁ、お前達あの時の分隊か。バラト大佐が指揮車両でお待ちだ。急げよ」
どうやらこの騒ぎは見て見ぬ振りしてくれるらしい。彼なりの親切心だろうか
俺たちはヌーベル隊の先導でバラト大佐の居るところまで来れた
指揮車両の横にはヘレナが手持ち無沙汰そうに立っていた
「あ、遅かったね」
「あぁ、ちょっと色々あってな。バラト大佐!ルーク伍長です!」
俺が名乗ると扉が開いてバラト大佐が出てきた。
「おぉ!ルークか!食あたり起こしたやつがいるって?そいつはどこだ」
俺は板に寝かせてあるベル君を手で示した
「ほーん、ベルだったか?おーい!大丈夫か?」
「イ、イタイ。オナカガイタイヨー」
とんでもない棒演技に俺たちは思わず頭を抱えたくなった。
この子、演技できない子だったか……。
「そうかぁ、腹いてぇのか。じゃあ仕方ねぇ。少し後ろの貨物駅にに紹介状書いてやるからそっち行くといい。後方へ下がる負傷兵の一団があるからそれについてけ」
「「「え?」」」
思わず俺たち3人は声を漏らした
「他の3人は大丈夫なのか?」
「は、はい。問題ないです」
「ならよし。お前達はこのまま頑張れ。話は以上か?」
「え、えぇ。そうです」
俺が答えるとバラト大佐は満足そうに深く頷くと窮屈そうに指揮車両の中に戻って行った。
「えっと、じゃあ。ベル君を届けて俺たちは前に行くよ」
「うん、僕だけ戦場を離脱しちゃってごめんね」
俺は首を振って彼の顔を見て行った
「正直、ベル君の任務は戦地にいるより厳しい。多くの人の命がかかってるからな」
そういうと、ベル君も口を真一文字に結んでコクリと頷いた。
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