第七十五話 協力
「そうして、わしは父が死んだ後残った800人を率いて戦った。しかし、多勢に無勢でな。さらに戦死者は増え400人まで数を減らした」
彼は息一つ吐くと過去の自分を悔いるように肩を落とすと言葉を続けた
「そうして、わしらは正面からの攻撃を避けて隊員を地下に潜らせて「モナドノック」を名乗って活動することにしたんじゃよ」
あまりの人員の激減に俺たちは絶句していた。
しかし、俺には軍を抜けたトリノの同期たちの気持ちもよくわかる。
俺とて祖国のために戦うと言うのはよくわかっていない。
育ててもらった恩こそあれどそれはフランツやマリー、サラへの感謝であり、国への感謝ではないのだ。
それだけに、国を取り戻すってなんなのかと考えずにはいられない。
俺たち、2世以降は自身の国を持たない。だから、国を持つと言う感覚もよくわからないだろう。俺はかろうじて前世で日本という国に所属していた帰属意識があるのでその気持ちはわかるが彼らはそうはいかないだろう
「しかし、それはそうとしてどうしてあんな森の奥に?」
俺が疑問を挟むと爺さんは声を潜めていう。
「実はな、武器集めにあそこを拠点にしていたんだがあの辺りが完全に帝国軍の占領地になっていて身動きが取れなんだ」
「なるほど、そこに僕らが来たってことなんだね」
ベル君が相槌を入れるとトリノは深く頷いた。
「うむ、それより前にパンドラの兵士が森を抜けるのを見たりしていたからな。遭難したお主らを見て街道沿いの帝国軍は混乱している可能性が高いと踏んで動いたんじゃよ」
そうだったのか、道理であの辺鄙な山小屋みたいなところに爺さんが1人でいたのか
「それでな、ここからが本題なんじゃが。お主らにはカナリア国内と国外の解放軍の橋渡しをお願いしたいんじゃよ」
「橋渡しって?」
ヘレナが訝しげに聞き返すと爺さんは頷いた
「現在、パンドラとカナリアの国境は厳重な警備で行き来をするのが非常に困難だ。わしらも何度か国内の解放軍へ使者を送ったのだが、誰1人として帰って来なくてなぁ」
「なるほど、そこで帝国軍の地位を持つ俺たちに白羽の矢が立つわけだ」
俺が納得して頷く
「そういうことだ。国内へ戻る可能性はあるか?」
「うーん、今の所わからない。俺たちは前線は向かう途中で森の中で襲撃されたんだ。だから方針が変わっていないなら俺たちの今の目的地は前線だ」
「ふーむ、そうかぁ。それでは難しいなぁ」
「あっ!そうだ!僕にいい考えがあるよ」
俺たちが頭を悩ませているとベル君が弾けるように声を上げた
「僕が生焼けの食事を誤って食べたことにして仮病になっちゃえばいいんだよ」
「なるほど、傷病扱いにして国内に戻るってことか」
ルイスが感心したとばかりに頷く
「でも、食あたりで傷病扱いになるの?」
ヘレナが少し腰を上げて声を上げる
「だけど、それで戦えない人間を連れて行ってもお荷物だから置いていくって判断にしてくれるだけでもいいんじゃないか?」
俺がヘレナに説明すると彼女は「それもそうかもね」と納得したように椅子の背もたれに腰をかけ直した
「なら、それで決まりだな。一先ず伝えたいことを口頭で伝える。持ち込む情報は文書化はできないからよく覚えてくれよ」
そう言ってトリノは国外の状況と国内との連携策について語りベル君は必死にその内容を反芻して暗記していた
俺の友人ということでフランツの隊に行けばすぐに話は通るだろう。
一通りの説明を終えたトリノはベル君の方へ体をまっすぐに向けた
「向こうからの返答は電信の周波数を合わせればやり取りできる。一先ず周波数の調整やわしらの存在を知らせることが大事だ。よろしく頼むぞ」
トリノの真剣な目に俺たちもやる気が増す。
「今日は泊まっていけ。要らぬいざこざを避けるためにこの建物からはあまり出ないように。わしが説明したとはいえお主らに不信感を持つものもまだ多い」
「わかった。今日はありがたく泊まらせてもらうよ」
彼の好意に甘え、俺たちはこの建物に一泊することにした。
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