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第七十三話 見捨てられて

トリノ爺さんの回想になります

 ウッツ・コルネイヤの息子であるトリノ・コルネイヤは父からパンドラ国内におけるカナリア解放軍の指揮を任された。


 彼はその日諸々の引き継ぎ作業のために解放軍の事務所へすっかり老いて車椅子無しでは動けなくなってしまったウッツと共に向かった


 この時、トリノは齢40。若い頃からカナリアを取り戻すために戦ってきた。

 カナリア解放は彼にとって父から受け継いだものであり、長年戦ってきたトリノにとってそれ以外の生きる意味はなかった。


 事務所の扉をくぐると中には同じく車椅子や杖の老人が机を囲んでおり、それぞれの息子がそばに控えている。

 俺は定位置に父を連れて行くと父は副官であった老人と会話を始めた。しかし、彼らはすっかり耳も遠くなっておりお互いに聞き返しているためあまり会話が弾んでいるようには見えなかった。


 俺は副官の老人の横に立っている同期に会釈をして横まで寄って行った

「よぉ、久しぶりだな」

「あぁ」

 俺が話しかけても同期は素っ気なく言葉を返すのみで目線を合わせようとしなかった


「俺達の父も歳でそろそろ代替わりだ。その時は副官として頼りにしている」

 俺がそういうと彼は冷ややかな目でため息を吐いた。

「なんだよ?」

 俺が問いかけると同期は俺の手を掴んで別室の扉の前まで引っ張ってきた

「お、おい?なんだ?」

 俺が困惑していると彼は顎で扉を開けて中に入るように示した


 俺が訝しげな顔をしながらも扉を開けるとそこには二世と呼ばれる初代解放軍の子供である若者達がズラッと並んでいた。


「お前達、揃いも揃ってどうした?」

 俺が困惑を隠せないままにあたりを見回していると

 バタンっと音がして扉が閉まった


 沈黙が場を支配し、しばらく誰も声を発しない時間が過ぎた




 その沈黙を破ったのは先ほどの同期だった。

「トリノ、あの父達には伝えてなかったんだが俺たちは解放軍を抜けるよ」


 は?っと俺はしばらくその意味が理解できなかった。

「抜ける?何をいっているんだ。俺たちの祖国はカナリアだ。それを抜けるなんて……。」

 俺の言葉に同期は首を振った


「俺たちの故郷はパンドラだ」

 その言葉に俺は困惑と共に怒りが湧いてきた


「何いってるんだ。俺たちの国は…戻るべき場所はカナリアだろうが!」

 そう叫ぶと彼はまた溜息をつき肩をすくめた


「じゃあ、聞くがお前は一度でもカナリアの土地を踏んだ事があるのか?」

「そ、それは……。」

 答えは否だった。パンドラで生まれ、故郷であるカナリアを奪還することこそ一生涯の命題であると教え続けられてきた。だが、カナリア土地を踏んだことはおろか風景すらも見たことがなかった。

 時折、父の話してくれたカナリアの話から想像する以外に触れたこともなければ見たこともない。それが自分たちにとってのカナリアという国だった。


「だが、それでも俺たちの国はカナリア共和国だろうが」

「ウッツおじさんからそう教わって来ただけだろう?」

 同期は俺の震えをまとった声をピシャリと跳ね除ける


「俺たちはな、このパンドラで生きて行くって、もう決めたんだ」

 俺は他の面々の表情を伺うようにその部屋に集まったもの達の顔を順番に見て行った


 あるものは気まずそうに顔を伏せ、あるものは文句でもあるのかと言わんばかりに睨み返し、あるものはどこか遠くを見て居た。


 どんな感情があるにせよ、彼らはこの組織から抜けようとしていることは間違いなかった。


「カナリア奪還は父達の夢だ。せめて父達が生きている限りはこの組織には残る。だが、彼らの大半が天寿をまっとうした時。俺たちもこの組織とは縁を切る」


 父達の寿命は長いものでも5年、俺の父ウッツに関しては病気を患っており今年が限界だと医者からも言われて居た。つまり、あと数年でこの組織は古株と若者の大多数を同時に失うことになる


「なぁ、考え直さないか?俺たちの使命はカナリアを解放することだ。そうだろう?」

 俺が各々にそう問いかけても彼らは静かに首を横に振るだけだった


「なぁ、トリノ、俺たちはこの組織そのものが悪だとはいってない。俺たちが抜けた後も続けてもらって構わない。ただ、俺たちはもうついていけないというだけだ」

 彼の言葉に二の句が告げないでいると若者の集団の中から声が上がった。


「僕は去年の戦いで右腕を失った。友達も何人も死んだ。脚を無くしていまこの場に来られなかったやつも大勢いる。そこまでして戦う価値が見出せないんだ」


 それを聞き俺はもう一度周囲を見回した。若者達の中には腕がないもの、指の本数が足りないもの、義足をはめているものと。五体満足な様子の人間を探すのが難しい状況だった。

 そんな彼らを見ていると無理に残ってくれとは、もう言えなかった。


「俺たちはこの期間でパンドラで職も得た。パンドラの人たちは優しいから同情して融通を利かせてくれた。恋人を作ったやつもいるし家族を養わなければならないやつもいる」

 彼は一呼吸おいて最後にこういった

「俺たちにとっての祖国はパンドラなんだよ」


 その言葉に俺は打ちのめされて茫然自失となり立ち尽くした。

「俺たちから言いたかったのはそれだけだ。お前も見切りをつけるなら早いほうがいいぞ」


 彼はそういって俺の肩をポンと叩きドアを開けて出て行った。

 それに釣られるように他の若者達もゾロゾロと部屋を後にして行く。


 彼らの背中に待ってくれと言葉をかける気力はもうなかった。

 体を引きずるように老人のいる会議室に戻ると父達は「カナリアを我らの手に!」っと血気盛んに叫んでいた


 ごめん、父さん。俺は父さんの後を継げそうにないよ。

 そう言いたくなる気持ちをグッと押し込んでその日の引き継ぎ作業を済ませた。


 ーーーーーー

 それから半年後、父ウッツが病気の悪化で起き上がることもままならなくなった。

 担当の医師には今日が山だと告げられた。

次回更新は明日の予定です。

もう少しトリノ爺さんの回想が続きます

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