第五十三話 交渉
「わたくし達を雇うですって?何かの罠であるとしか思えませんね」
ノイツェは腕を組み首を捻って思案を始めた
「いや、罠ではない。コチラとしては進軍の邪魔をされたくないだけだ」
「なるほどねぇ」
お、これは割とすぐ頷きそうだ。まぁ、傭兵団なんて古今東西どこにいたって考えていることは大抵二つだ。
一つは勝ち馬に乗ること。二つ目は金払いのいい方につくことだ。
「ノイツェ閣下!そんなことは断じてあり得ぬことですな?貴殿の部族は我らパンドラに味方すると明言なさいましたな?」
ノイツェが首を捻っているとボロい軍服を着た兵士が声をあげた
「いやいや、無条件に味方するとは言っていない。あくまで金を払っていて、我らに利益があるうちだけだ」
「なんですと!?」
ノイツェは肩をすくめてその男の方を向く
「貴様!裏切ると言うのか!そうであれば敵兵力が増える前にここで撃ち殺す!」
男がそう宣言するとライフル兵達が各々の近くにいるフーザイト兵に銃口を向けた
しかし、あまりにも悪手すぎる。まだノイツェは思案をしている最中に趨勢を決させるようなことを無理にするのは早計だろう
「まだ、何も言ってないんですがね。ただ、どちらにつくにしてもここまでボンクラな奴らは獅子身中の虫か」
自分で獅子とか言っちゃうのね。割と自尊心がある方なのか?
俺がそんなことを考えているとノイツェが静かに部下達に指示を出した
「殺してよし」
その声はやけに底冷えのする声でその瞬間、場の空気が凍りついたような錯覚を覚えた。
その次の瞬間にフーザイト兵は気味の悪い笑みを浮かべると同時に銃口を向けてくるパンドラ兵達をそれぞれが一刀の元に切り伏せてしまった。
驚愕や怯えの表情を貼り付けたパンドラ兵がバタバタと倒れ、先ほど声をあげたパンドラ兵が唯一斬撃をかわして驚いたように辺りを見回した
「お、おい!?嘘だろ。ホントに斬りやがった」
その声を聞いてノイツェが呆れたように剣の切先をその兵士に突きつけた
「当たり前ですよ。先に銃口を向けたのはそちらです。想像力が足りないようですが……。」
そこまで言い切るとノイツェの腕がブレた。その瞬間に困惑した顔のパンドラ兵の片腕が飛び、さらに数瞬の後、胸を剣が貫いていた。
それを見届けたノイツェは静かな所作で納刀するとさっきと変わらぬ貼り付けたような笑顔でコチラに向き直った。
「さて、これで後戻りはできなくなった。本当に、我が部族の捕虜を返してくれるんだろうね」
俺は少しの間呆気に取られていたが、気を取り直すと深く頷いた。
「では、交渉成立だ。あー、返して欲しいのはわたくし達の部族だけ、ですから残りのパンドラ兵捕虜は適当に殺しておいてください」
まさかこうもトントン拍子に進むなんて……。
「俺ってやっぱり営業職向いてたのか」
「今のは交渉っていうか目の前で内輪揉めが起こったばかりだけどね」
俺がボソッと呟くとヘレナが俺の頭をポカッと叩きながら呆れた声を上げた
「ただし、わたくし達が安全を保証するのはこの森を抜けるまでです。捕虜を返していただく程度の報酬でしたらそこまでです。それ以降に再び雇い直すもよし。放逐するのもありです」
む、流石にそう上手くはいかないか。
「了解した。概ねその内容で構わない。捕虜の返還に関してだが、森を抜け次第フーザイト兵のみを街道にて事情を伝えて開放する」
「いや、ダメだ。我が部族の兵を捕虜待遇で一日でも過ごさせたくはない。即時解放を要求する」
しまった、捕虜解放のタイミングがネックか。
参ったな。完全にアイツらを信用するわけにはいかない。傭兵なんてのはさっきも見た通り根無草で忠誠や義理とは無縁の存在だ。昨日までの味方を簡単に裏切る連中だからな。
「なら、一般兵を即時に解放して、幹部級の捕虜を人質待遇で大切に扱うってのはどうっすか?」
俺が悩んでいるとヤウンがひょいと顔を出して提案をしてきた
「ふむ、それならいいでしょう。幹部級といえばトゥンが捕縛されていたかな。彼を残してわたくしの兵を解放するなら承知しましょう」
おいおい、承知させちゃったよ。
伊達に近衛師団出身じゃないってか?というか、近衛師団ってそんななんでもできるわけ?
「では、わたくし達は部族を回収して撤収します。くれぐれも約束を違えないように。では」
そう言うと彼は身を翻して森の中に消えていった。辺りを見回すとフーザイト兵も沈み込むように森の中に消えていった
「奴ら、俺らを襲ってきた山賊連中とは練度が違うぞ!」
「あぁ、多分親衛隊的な立ち位置なんだろうな」
ドグが険しい顔をして怒鳴るとルイスがやれやれと言った風でいつのまにか抜いていた拳銃をホルスターに戻している
「一先ず、全部終わったな。バラト大佐にはいい報告ができそうだ」
俺たちは来た時の緊張感とは異なってやいのやいのと騒がしくもと来た道を戻って行った。
後二話ほどで休止期間に入らせていただきます!




