第三十一話 発見
夜になって俺たちは警備のため宿舎を抜け出した。
規定通りに巡回をするなら、倉庫を1番から8番まで見ていく手筈になっている
当たり前だが補給基地には街中にあるような街頭なんてないので各所にポツポツと豆電球のように小さな明かりを発するカンテラがあるだけでとても薄暗かった
俺たち3人も各々が燭台に蝋燭を乗せソレを持って見回っていく
「本当に、幽霊の出そうな暗さだな」
「や、やめてよ。そんなこと言って本当に出てきたら困るよ」
俺が少し脅かしてやろうとポツリと呟くとベル君は少し震えながら俺を少し睨む。
「大丈夫さ、その時はこのハンドガンで撃ち抜いてご覧に入れよう」
とルイスは強がっているが足が少し震えている
まぁ、今日は少し冷えるしな。うんうん、見なかったことにしといてやろう
そんなことより仕事だ。久々の仕事らしい仕事に前世の社畜魂が騒ぐぜ。
何気に10年ぐらい仕事らしい仕事から離れてたもんな
「さぁ、1番倉庫から見ていくぞ」
「了解」
「わかったよ」
3人一塊で一つずつ倉庫を隅から隅まで確認する
大佐の話が本当なら件のネズミは十中八九、人間で間違いない。
憲兵を殺しながらもそれより前にも後にも殺人事件が発生していない点を鑑みると敵国であるパンドラの迷い込んだ軍人である可能性も低そうだ
そんなことを考え、欠伸を噛み殺しながら俺たちは仕事を黙々と進めていた
流石に初日は不発かなと言う空気が三人の間に流れ始め少し弛緩した雰囲気になり始めた。
しかし、俺たちが4番倉庫を出た時、ルイスが足を止め、俺たちの方にそっと振り返った
「どうした?」
「血の匂いがする」
そう言われて俺も匂いに注意してみるが特に何も感じなかった
「そうか?幽霊を気にしすぎて緊張してるんじゃないのか?」
「いや、さっきはこんな匂いはしなかった」
しかし、ルイスが食い下がるので俺たちはもう一度、五感を研ぎ澄ませてみる
すると「ガッ!」と倉庫群の奥から男の声が聞こえた
俺たちは顔を見合わせると手に持つ武器を固く握りしめ声のした方へ走り出した
どうやら音は6番倉庫から聞こえたようだ。
今も何かが暴れる音と物の倒れる音がする
倉庫の横の入り口は空いていて灯りがもれでていた
俺とベル君はライフルを構え壁に張り付き、ルイスは取り回しの良いハンドガンに手をかけ、俺たちより先に恐る恐る室内に入っていく
その後ろをカバーするように俺とベル君がライフルを構えて進む
そうして全員が室内に入り、手元の明かりを消して、奥からの光のみを頼りに進んでいくと天井から吊り下がっているカンテラが振り子の原理でゆらゆらと揺れているのが見えた
そこからゆっくりと視線を落とすとそこには血のついたナイフを片手に持つ高校生くらいの背丈の女が立っていた。
さらに壁の方に視線を向けると血だらけの軍服姿の男が壁に寄りかかっていた
遠目に見ても彼の脈がもうあるようには見えない
そうして出くわし、お互いに目を丸くしたまま固まってしまった。
そんな空気をいの一番に破ったのはルイスだった
「武器を捨て大人しく投降しろ!さもなくば撃つ!」
そう叫ぶと逃げ道を塞ぐように右に展開したので俺も大急ぎで左に展開する
「ベル君はその場で構えてて!」
ベル君も動こうとしたので慌てて釘を刺す
そんな俺たちの動きを見て女は慌てずナイフを逆手に構え、囲いに隙ができるのを伺っているようだった
そんな彼女の油断のない構えに俺たちも迂闊には動けない状態が少しの間続いた
しかし、そんな状態が長く続くのは良くないと判断したのかルイスは早々に引き金を引いた
ズドンッと音が響き足元の床材が弾け飛ぶと同時に彼女はベル君に向かって駆け出した。
「え、えぇ、こっちにきたぁ」
ベル君が慌てた声を上げながらもライフルを横凪に持ち直し、接近戦の構えを取る
って、どこでそんな構え覚えたんだ?めちゃくちゃ様になってるけど
そんなふうに彼の構えを見つめていると
彼はライフルを棒の様に横に薙ぎ払うように振るう、すると女は体操選手と見間違うばかりの跳躍でライフルの柄を避け、入り口に向かって走り出す
うおっ!見てばかりだったけど、このままだと逃げられてしまう!
俺も慌ててライフルを構えようとするが、すでに女は俺たちが入ってきた扉の方へ、一直線に向かっている
俺は「ええいままよ」とばかりに火を消した燭台を投げつけた
燭台は綺麗に弧を描きヒュルヒュルと音でもなりそうなへなちょこ具合で逃走者の頭に『ゴンッ』と直撃した。
「うわー、痛そう」
とは、ルイスの言であるが、俺もそう思う
思いの外、重い燭台だったみたいだ
当のぶつけられた本人はといえば一瞬動きを止めたかと思うとそのまま後ろに倒れ込んでしまった
「やったの?」
やめるんだベル君、完全なフラグじゃないかそれ
第二形態に禍々しく変化して襲ってくるやつだからソレ
しかし、俺のそんな心配に反して女は起き上がることはなかった
「死んだのか?」
「脈を見てみるか」
そう言って俺たちは武器を構えながらゆっくりと近づき、様子をそっと伺ってみる
「暗くてよく見えん、ベル君灯りをくれ」
「う、うん。わかった」
ベル君が慌てて擦ったマッチで俺の視線の先を照らす
「よかった、息はあるみたいだ」
そう言うと場の緊張した空気が一気にホッとしたものに変わる
そして念の為、武器の類を取り上げていく
しかし、さっきは薄暗くてよく見えなかったが顔たちは幼さが残っていて前世でいうところの中高生ぐらいの年代だろうか?
おそらく俺とベル君より年上でルイスと同じくらいかな?
「ど、どうする?大佐は殺すか捕縛するかって言ってたけど……」
「ちょっと待ってくれ、コイツの持ち物にこんなものがあった」
ルイスが手に取ったものをみると一丁の拳銃があった
しかし、それはただの拳銃ではなく。旧カナリア共和国の紋章の刻まれた特注製の拳銃だった
「……!?まさか、旧カナリア共和国軍の?」
「あぁ、カナリア軍残党の子供とかじゃないか?」
「でも、盗んだ物品かも……?」
盗んだ物品にせよ彼女の持ち物にせよ、そうなってくると話は変わってくる。帝国軍人のところに連れていくよりも、俺たちで話を聞く方がよっぽど公正な判断ができるだろう
俺たちの中でそう結論づけると闇夜に紛れて三人がかりで女を抱えそそくさと宿舎まで戻ってきた




