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第二十五話 汽車の中で

 俺は今、ベル君と一緒に前線に向かう他のむさ苦しい兵士たちとガタゴトと線路と車輪との擦れ合う嫌な音を響かせるうるさい汽車に揺られていた。


 車内は通勤電車のようになっていて両側に長いベンチが取り付けられ乗降口は車両の前と後ろにしかついていない。幅は非常に狭く、徴兵事務所で受け取った装備を床に置くと身じろぐのも一苦労な広さだった




「にしても本当にこのは汽車乗り心地が悪いな」

「うぅ……。ルーク君は前にも汽車に乗ったことがあるの?」


 あ、しまった。俺はこっちの世界では初めて汽車に乗るんだった。

 えっとこう言う時にどうやって誤魔化そうか…

 というか前世でも汽車とか乗ったことないわ

 通勤電車が関の山で趣味でどこか行くとかなかったもんなぁ。考えてみればホントにブラックだったなあの会社


「あ、あぁ、まぁな」

「でも、確かによく揺れるね……僕もさっきから目眩と吐き気が止まらないんだ」


 そう言うベル君の顔は確かに少し青ざめていて唇にも生気がなかった


 かく言う俺はと言うと前世も今世も乗り物酔いに強い。

 某スポーツセンターのロデオマシーンに10分近く乗っていられることが一種の自慢だったぐらいだ


「乗り物酔いか、俺はなったことないが結構辛いらしいな」


 するとベル君は信じられないものを見るような目で俺を見た後、ため息をついた


「ツラいどころじゃないよ、頭がガンガンして、いつこの苦痛から解放されるかだけ考えて過ごしてる」


 確かに頭痛と吐き気のコンボは辛い

 乗り物酔いになったことはないが恐らく感染症になった時のような苦痛なのだろう。



 さらに1時間ほど列車に揺られているとベル君がそっと俺の服の裾を掴んできた。

 時間が経てばどうにかなるかと思ったが

 ベル君の顔色は良くなるどころか悪化している

 少しでもどうにかしてあげたくて、アラスターから教えられたことをフル動員して考える


「そういえば、車に乗っている時に窓を開けて空気を入れ替えると酔いがマシになるってアラスターが言ってたな」


「え!?なんで、そんな大事なことを早く言ってくれないのさ!早く窓開けなきゃ」


 ベルはそう言って大急ぎで窓を開けようとする。


「あ、ちょっと……」

 ベル君の右隣に座っていた優男が慌てて止めようとするが一刻も早く乗り物酔いから覚めたいベル君は窓を全開にした


 普通なら隣の男も止めはしなかったのだろうが、その時運悪く汽車はトンネルに差し掛かっていた。

 その結果何が起こったかって?

 汽車の煙突から吐き出された煤の一部がモクモクと俺たちのいる車両に流れ込んできたのさ。

 当然窓を開けたベル君はもちろん、横にいた俺や静止しようとした男も周りの兵士たちも煤まみれになる


「ゲホッ、ゲホッ、どくんだ!」

 静止しようとした優男が立ち上がりベル君を押し退けて窓を慌てて閉める

 窓を閉めたことで中に入ってくる煤も止まり車内の空気も晴れていく


 汽車なんて前世でも乗ったことないから俺だってこんなハプニングは予想外だ


「す、すみません……」

 ちょっと男子〜、ほらベル君落ち込んじゃったじゃない。

 まぁ窓を開けるのを提案した俺が件の男子な訳だが。


 すると奥の方の席から額に傷のある明らかに柄の悪そうな男が通路に置かれた荷物の小さな隙間を縫う様にして歩いてきた

「おうおう、坊ちゃんたちよぉ、汽車に乗るのは初めてかぁ?」


「え、えぇ、そうです。初めてです」

 なんで、帝国軍人を名乗ってる奴は軒並みチンピラみたいな奴ばかりなんだ…


 もしかして海の向こうの帝国って実はマッドマ◯クスとか北◯の拳みたいなこモヒカンたちが跳梁跋扈する恐ろしい大陸なのではなかろうか

 そんなしょうもないことを考えている間に男は目と鼻の先まで来ていた


 俺が目を合わせると男は得心が言ったような顔でニヤリと笑うと車両中に聴かせるように叫んだ。

「あぁ?ハハッ!よく見ればお前ら帝国人じゃねぇな?カナリアの現地徴兵組かぁ」


 一瞬の静寂の後車内で大爆笑が起こった

「通りで田舎くさいわけだ!」

「噂には聞いてたが汽車にすら乗ったことないのかよ」

「前線に何しに来たんだ?俺らの弾除けかぁ?」


 その笑いは植民地人への嘲りであることは誰が聞いても明らかだったろう

 ベル君は顔を赤くして俯いていたが、俺は飄々としていられた。だからどうしたと言ったところだ


 しかし、友人が侮辱されているのを横で黙って見ていられるほど俺の器も広くない


「いい加減に……」

「まぁまぁ、やめようじゃないの、そういうのはさ」


 俺が男を諌めようとしたところでベル君の奥から声がした


「あぁ?なんか文句あんのか?」

 その声に男が凄み返す


「いやぁ、出身地がどうのとかやめようじゃないの、戦地で背中を預け合う仲間じゃないか。それに死んで骸になればみんな平等に地獄行きさ」

 俺が少し身を乗り出して声の主を探るとそこには先程、窓を開けようとするベル君を静止しようとした優男がいた。


「それに、君らの出身地だって本国じゃあ、ドの付く田舎者じゃないか」


明後日にまた更新予定です


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