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第二十二話 侍女として

 〈マリー視点〉

 アラスターがハンドガンの引き金をしぼり始めたとき悟った


 あぁ、私はここで死ぬのか。

 だけどそれも仕方がないんじゃなかろうか


 そんな諦めというか贖罪のような感覚が心の中にはあった


 この数十年間、帝国は好き勝手にこの土地から搾取し続けてきた

 その手先として困窮していくカナリアの人々のことを見て見ぬふりをして、生き抜く為と己を殺してここまでやってきた。



 元々私は生粋の帝国人ではない

 というのも、カナリア国民であった母と帝国軍人の父との間に出来た……。

 いいや、「出来てしまった」のが私だ


 母は水商売で身体を売って生計を立ててきた。性格に関して周りからの評判はそこまで良くなかったが美人な人ではあったらしい

 そんな中で占領軍の少将だった父との間に私がお腹に宿ってしまった。



 普通の被占領地の人間なら、なんで憎き帝国軍人の子なんかを、と嘆いて、自ら死を選んだりしてしまうのだろうが私の母は強かだった。

 彼女は子供が出来たことを父に伝え、自分を正式な愛人にするようと迫った。さもなければ強姦紛いの方法で子を作らされたと軍に掛け合うと父を脅したそうだ



 しかし、普通の下士官級ならそんなこと軍の中では暗黙の了解だと封殺できたのだろうがこの男の場合そうはいかなかった。

 本国軍の将校と政治的な対立をしていた彼はここでどれだけ小さくとも弱みを作り出すわけにはいかなかった。


 そこで彼は母の愛人的な立場を認めざるを得なかった。母はそれからその特権的な立場を利用し贅沢三昧の生活を散々楽しんだあと、私を産んだ5年後に乱れた食生活と癌であっさり死んだ。


 贅沢をするのも上手い下手があるらしいと、その話を聞いた当時の私は思ったモノだ



 父はやっと厄介払いができるとばかりに帝国軍情報局の友人に私を押し付けて早々に縁を切った。


 そして幼い私は諜報員としてのノウハウを叩き込まれ。現地徴兵組のまとめ役として台頭してきたバックハウス家に侍女として送り込まれることになる


 思い出してみるとロクな人生じゃなかったけれど生きててよかったと思えたことがたった一つだけある


 帝国人を殊のほか嫌っていた先代のバックハウス家の当主が亡くなりフランツに代が変わってから生活は一変した。

 先代は私をまるでその場にいないかのように扱い、私が外出することも禁じてまともな食事もさせてくれなかった。


 しかし、フランツは私を家族のように扱ってくれたのだ。今まで冷めた食事しか食べることを許されなかったのに食卓を囲み温かい食事を共に食べてくれた。

 後に結婚なさって、いらっしゃった奥方様も私を邪険に扱うことはなく家族の一員の様に話して下さった。あの二人が仲睦まじく過ごしている様を見守るのが私にとっての幸福だった



 それに御子息のルーク様を預けてくれるまでに私を信用してくれたことが何より嬉しかった。


 ーーーーーだから、慢心したのだろうか。


 そんなことを考えるとあの三人の顔が浮かんできてしまう。

 いやだ!まだ死にたくなんてない!


 もう今更足掻いたって無駄だってわかっているのに。まだ生きたいと思ってしまった

 あぁ、なんて残酷な走馬灯なんだろうか……。


 そう思ってなんの抵抗にもならないのに目をぎゅっとつむった










 そのまま死が訪れるはずだった

 だが、耳の横をつむじ風が吹いたかと思った次の瞬間、後ろの壁から


 ドン!と音が響いた


 弾丸は私の顔をほんの少しだけ掠めて後ろの壁にめり込んで止まっていた

 私の顔からは弾が掠ったのか血が頬を伝う様に少しだけ垂れたがそんなことは気にならなかった。

 固く閉じていた瞼を恐る恐る開けるとそこには底冷えする様な目でドアの方を睨むアラスターと物を投擲した体勢で荒い息を吐く坊ちゃんがいた


 ーーーーーーーーーーーー


 〈ルーク視点〉


 あ、危なかった……


 外で二人の逢引でも聞いて本でも書いてやろうか、とメモを取ろうとして耳をすませていたら会話がどんどん不穏になっていきアラスターの声が聞いたこともない様なものに変わったので慌ててドアを開けると、片手で拳銃を構えマリーに向けて引き金を引こうとしているアラスターが目に入ったので手に持っていたメモ帳を彼の拳銃を持つ手に投げつけた。


 日頃の戦闘訓練のおかげか見事、彼の拳銃を構える手に命中!

 弾道はギリギリ逸れてマリーの顔の横を掠めていった。


 あそこでドアを開けて正解だった。そうじゃなきゃマリーが死んでいたかも知れない。そう思い至り、冷や汗が止まらなくなり呼吸が荒くなる


 少しずつこちらに顔を向けてくるアラスターの顔は狂気で染まっていた


「なに、やってるんですか……」

「なぜ邪魔をした!奴は死んで然るべきだ!さもなければいつか君も君のお父さんも殺されてしまうかも知れないんだぞ!」


 そんな話は初耳だ、真意を確かめようとマリーを見るが彼女は震えて動けない様だった。

「でも、いつでも僕を害することができたはずなのにマリーはこの四年間何もしなかった!あなただってわかってるはずだ!」


 そう反論するとアラスターは憎らしげに目を細め頷いた後に静かに口を開いた


「あぁ、そうかもな。だがもう間も無く作戦が始まる。コイツを生かしておくとどこにどう伝わるか分からん。懸念点は確実に無くすべきだと思わないか」


 レジスタンス側から見れば確かにそこに一理はあるのだろうが、俺からすればどうでもいい。そんなことより一緒に過ごしてきた人間が殺されてしまう方が嫌だ


「思いません。そこまで見越せていたのなら、殺す以外にもいくらだってあなたにやりようはあったはずです。こんな安直な方法はあなたらしくない」


「そうか、そうかもな」

 そう言いながらゆっくりとこちらに歩いてくる。

 うーん、何かまずい気がする


「はぁ、君ならわかってくれると思ってたのに」


 おいおい、目がガンギまってるよこの人

 ヤンデレみたいな顔になってるって!男のヤンデレとかマジで需要ないから!しかもこんなおっさんのなんて……。最悪だ。


 俺が絶望している間にもアラスターはどんどん近づいてくる。

 怖すぎる!これは詰んだかも

 昔友人の家でやらせてもらったギャルゲーでヒロイン全員ヤンデレエンドとか言う絶望的なエンディングを見た俺でもこれはキツいぞ


 そうして少しずつ後退りしていくとすぐに壁に当たってしまった。

 あーこれ、本当にどうしよう。走って逃げるか?でもマリーはまだ部屋の端でへたり込んでるし


 そんな風にウダウダと考えているといつのまにか目の前にアラスターが立っていた。


「はぁ、判断が遅すぎるな」


 と、どこぞの天狗のお面でもつけた師匠の様なことを言うと右手の拳銃を振りかぶって銃床を打ち付けようとする


 あれ、流石に生徒に暴力振るうなんてありえないからネタかと思ってたんだけど割とガチだ。


 あ、スッー死んだかこれ

 そう思った時少し離れたところから聞き慣れた男の声が聞こえた


「おい!少しばかりやりすぎだ」


 その声の方を向くとなんとフランツが立っていた

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