第百二話 鎌の穂先
「つづけぇぇぇ!!」
装甲車に乗り込んだイゴーは在らん限りの声で叫んだ
まずは突進でどこまでの敵を半包囲出来るかがこの作戦の戦果の大小を左右する
「脇目も振らずに前進せよ!乱戦になれば敵は発砲できない!銃剣で応戦せよ!」
帝国兵達はまさか大部隊に小部隊が突進を仕掛けるなんて思っても見なかったのか隙が生まれている
しかし、この隙は一時的なものだ。可能な限り今のうちに進んで敵を鎌の穂先の中に入れてやらねばならなかった
そうして南側の帝国兵の内、大凡1000人規模を半包囲したあたりで北側の敵もこちらの意図を察したのかこちらの最後尾に噛みついてきた。
「ここまでだな。よし、者共!東側の元来た場所へ戻る。脱落者は置いていく!死ぬ気でついて来い!」
兵達は銃剣で敵を薙ぎ倒し、半包囲した帝国兵を東側へと押し込んでいく
半包囲されたことを理解した帝国兵はパニックになり必死に唯一の逃げ道である東へと逃げていく
「稲穂の如く刈り取ってやれ!」
イゴーは叱咤激励しながらも冷や汗を流していた。北側の帝国兵がこちらの意図を理解するのが思いの外、速かったのだ。
最後尾の部隊が切り崩されそうな所をなんとか耐えている状況だった。
「フランツ殿、気がついてくれぇ!」
その悲鳴にもならない声は誰に聞こえることもなく掠れて消えていく
敵兵を追い討つ速度とこちらの最後尾が押される速度が等速になりつつある。このままでは追い越されてしまう。
イゴーは爪を噛んで止まらない冷や汗と心臓の拍動を歯を食いしばって必死に押さえ込もうとする。
その時、こちらに向けて駆けていた一個中隊が踵を返して追いかけて来ていた敵部隊を迎え討つ姿勢に入った。その隊はカナリア共和国の旗を高々と掲げて、その旗を中心に見事な隊列を整えてみせた。
その中心には副官の姿があった
「おい、アイツ……。」
遠目に見える副官の顔には笑みが張り付いており、いつもの神経質そうなメガネを外していた
その隊は一斉射撃で追いかけてきた敵の出鼻を挫く。しかし、イゴー達が前進を続けている以上進むのをやめた彼らはあっという間に敵に包囲される。それを見越していたのか笛が一つ吹かれると中隊は方陣の陣形に切り替わっていく。
その動きは見事の一言に尽きる。
兵士達は一糸乱れぬ動きで陣形を変えて一分の隙もなく敵を無闇に近づけさせていない
そして、一瞬副官と目が合った。彼は上を指差した後『見ているぞ』とハンドサインで示したあとハンッと鼻で笑って嘲るようにこちらを見ていた
まるで、『何が、特進だ。カタブツの力を借りないと何も出来ないくせに』そう言うような嘲りと満足気な笑顔を最後に浮かべてくるりと敵側に無理直って指揮に戻って行った
そして、半包囲した敵軍を東側まで追い詰めた時、イゴーが先ほどの場所を振り返ると銃弾によって穴だらけになったカナリア共和国の旗がゆっくりと傾いていくのが見えた
「俺が不甲斐ないばかりに……。あれほどの兵を失ったのか」
イゴーは自身が今までしてきた傲岸不遜な発言を恥じた。そして、もう2度とこのような過ちは犯さないと心に誓ったのだ
そうして前に向き直ると半包囲した敵兵へ東側からもカナリア解放軍の旗を掲げる一団が襲いかかるのが見えた
「フランツ殿……。いささか遅すぎるぞ」
イゴーは苦渋と安堵が含まれた愚痴を呟く
そうして、カナリア解放軍初の対帝国の本格的な戦いはこうして一先ずの終わりを見たのである
大きな仕事が入ったので次回更新は未定です。それでも、一週間以内には投稿予定です




