第九十四話 決起まで
フランツは先日の軍港襲撃の部分的な成功の報を受けて反乱までの最終調整に入った。
自身の率いる第八師団の面々を帝国の憲兵にバレない様に監視の目を逃れさせて地下へと潜らせている。彼らは脱走兵であると適当に報告し、捕まえにいくパフォーマンスを見せながら捕まえに行ったメンバーも返り討ちにあったと報告して多くの兵士を憲兵の監視から逃れさせる事に成功した。
これで決起の際に使える兵士は2万人近くなり策を実行するのに必要最低限の兵士が揃った事になる
フランツは最後の兵士達と共に宿営地から脱出するために必要な物資の選別と不都合な書類の破棄を行なっていた
そこへ、部下が走って来た
「大佐!御子息からの伝令を名乗る少年がフランツ様に会いたいと尋ねて来ております!」
フランツは目を見開いてすぐにその少年を通すように伝えた。
しばらくすると部下に連れられて小柄な少年がやってきた
「おや?君はたしかルークの友達の……。」
「は、はい!ベル・マクスウェルです」
「そうそう、マクスウェル家の子だったな」
そう言ってフランツは昔を懐かしむ様に一瞬遠くを見ると再びベルに目線を戻した
「それで、伝令と聞いたが?」
「はい、実はパンドラ国内のカナリア解放軍と接触しました。彼らは400人程でカナリア国内の解放軍と連携を取りたいとのことです。短波通信の周波数と暗号を預かってます」
ベルの言葉にフランツは思わず立ち上がった
「ば、バカな!?父から存在は聞いていたが彼らの子孫がパンドラへ亡命したのは半世紀も前だぞ?数は減ったとは言え400名もこの戦いに身を投じる者がいるとは」
そう言って、フランツは目の端に涙を溜めていた
「伝令感謝する!君はこの後どうするつもりだ?」
「あ、あの。またルーク君のところに戻ろうと思ってます」
フランツはコレだけの仲間を得られた息子の事を思い出して深く息を吐いた
「わかった。前線に戻る列車の席の手配を……」
「大佐殿!師団宿舎の目の前に帝国軍の憲兵隊一個大隊が迫っています!」
「なんだと?まぁいい元々我々はここからお暇するつもりだったのだ。ベル君、君も来なさい。こうなると前線にいるルークも安全にはいられない」
ベル君は不承不承頷くと声を上げた
「ルーク君は大丈夫でしょうか…?」
「わからん。ただ、あの子の師匠はアラスターだ。そう易々と殺されはしないだろうし上手い事雲隠れしている事を願おう」
本当はフランツも心配で仕方ないのだが目の前の少年に不安を伝播させても良くないので笑顔でベルの目を見た。ベルもコクリと頷いたのでフランツは深く頷いて部下にベルのことを頼んで物資の選別を進める兵に叫ぶ
「お前ら!これ以上は物資の選別は無用!各々、トラックに乗り込むか徒歩で脱出するぞ!第二中隊!宿舎を燃やして脱出する。手筈を整えろ!」
「「ハッ!」」
兵士たちの返事を背中に受けながら書類をカバンに詰め込んでフランツ自身も運転手が待つ車に乗り込んだ
その他の兵達も動かせなかった装甲車やトラックに兵達が乗り込み、次々と敷地から脱出している。しかし、憲兵隊がフランツ達の脱出に気がついた様で各所で散発的に発砲音が聞こえる
「装甲車部隊は撤退する兵士の援護をしろ!機銃の使用も許可する!帝国のカス共を好きなだけ撃ち殺してしまえ!」
「「おぉ!!」」
装甲車部隊は車両の天井についた機銃の向きを変えて憲兵に向けて弾をばら撒いた
憲兵隊の一部は撃ち返してきたが抵抗は散発的で大した反撃も受けないままに殆どの兵士が脱出を完了した
「よし!所定の地で再び会おう!」
各部隊の長達に合流点を伝えてある。ここからは帝国軍の関所や各町の詰所を落としながら西の都市ポーナンで再集結する事になっている
「いよいよか。いかに他国の干渉が入る前に反乱を完了するかが肝になってくる。占領の時間も必要だが、速度も必要だ……。」
悪路を走る車両に揺られながらフランツは深く考え込んだ
首都ワルツにいた自身や兵士たちの妻子はポーナンに避難させてあるので後ろ髪を引かれる事なく戦いに身を投じることができる
ただ、フランツは唯一息子のことだけが気がかりだった。あの妙な落ち着きや考えがあれば上手く切り抜けている様な気もする……。そこまで考えたところでフランツは息を一つ吐いて首を振った
この部隊にも子供を軍に取られているものも多い。自分だけがその事を気がかりに思っていてはいけない。コレから始まる戦いにのみ全神経を集中させねばならなかった。
次回更新は火曜日の予定です。加えて、ブクマが目標数を超えたので記念として小話付きの人物設定集も用意していますのでお待ちくださいませ〜。




