第九十三話 嗅覚
遅れまして…。申し訳ないです
次の日俺たちはそれぞれに分かれて男の素性を調べ始めた。
俺は歓楽街へと向かったが男の情報はあっという間に集まった。どうやら彼はこの街ではかなり有名な人物の様で帝国軍の軍服を着て歓楽街や色街に出没しては一晩の恋を楽しんでは朝には消えていく存在なのだそうだ
帝国軍の憲兵も目をつけている様で店からの垂れ込みを得る度に突入するのだが憲兵隊が踏み込むと霞の様に消えていなくなっているらしい。
そもそも、帝国の軍服を着ている理由が支払い能力があると店側に錯覚させるためらしく。まともに帝国軍に籍を置いていたのは数ヶ月らしい
俺の調べた結果を聞いてルイスとヘレナは興味深そうに頷いていた
彼らも似た様な話が上がっており歓楽街のみならずこの街のカナリア系の住民にとっては帝国軍を翻弄する彼は密かにこの街の英雄的な扱いを受けている様である
「あのヘラヘラとした奴がそれほどの大人物には見えないがなぁ」
ルイスの言葉に俺が深く頷く
「当人もカナリア系の住人も帝国系の住人も区別なく接している様で英雄かと言われれば疑問が残るな。だが、帝国軍は好きではないらしい。ヒューズと一緒に寝た女が寝所で聞いたそうだから間違いない」
「俺たちを助ける理由が帝国軍が嫌いという感情だけではなぁ。遊ぶ金欲しさに裏切るかもしれないぞ?」
ルイスはまだヒューズのことは信頼ならないらしい
かく言う俺もあまり信用しているわけではない。感情で動く人間は裏切る時も感情だ。とはいえ金や地位が欲しいと言われても俺たちに与えられる物は何もない。
「となると俺たちの手は二択だ。ヒューズの言葉を信じて道案内を頼むか、時間がかかるがこのまま隠れながら首都まで戻るかだ」
「でもさ、このままだったらルークのお父さんが決起するのに間に合わなくなっちゃうんじゃない?」
たしかに、ヘレナのいう事は最もだ。このまま戦いが本格的に始まって仕舞えば、帝国はカナリア系の住人を次々と捕らえていくだろう。今以上に隠れて首都まで向かわなければいけない。
時間がないのも事実だった。
「うーん、一先ずあの男には帝国側との繋がりどころか憲兵に追われてるお尋ね者らしいから帝国に突き出される事はないだろう。後は幾らふっかけられるかによって今後の行動を考えよう」
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次の日、俺たちはヒューズと出会った所に戻って来た
「本当にこんな所にいるの?」
ヘレナは訝しげな目でピンク色に染まる路地裏を見ている
路地の向こうからは男の俺たちだけで入った時とは違って睨みつける様な目線を感じる。恐らく、ヘレナがいる事によって商売がしづらいのだろう。
「ルイス。ヘレナと一緒に表通りで待っててくれ。俺なら下手に店に連れ込まれないし要らない喧嘩も売られない」
俺の言葉にヘレナとルイスは軽く頷くとお互いに顔を見合わせて肩をすくめて苦笑いしていた
俺はそのまま一人で路地裏に入っていく
店先の女達は俺を見ると興味を無くすか可愛いものでも見る様にクスクスと笑っている。そんな中をヒューズの姿を探しながら歩くのは少々気まずかった
そのまま彼の姿を探して歩いていると後ろに大きな気配を感じた
俺が慌てて振り向いて飛びすさり距離を取ると先日の様にヘラヘラと笑ったヒューズがいた
「おぉ、気づくんだな」
俺が少し眉間に皺を寄せるとヒューズはニヤリと笑った
「まぁ、そう怒るなって。お前らだって俺の事を探ってたんだろ?お互い様じゃねぇか」
俺は努めてポーカーフェイスを貫くが内心は動揺していた
俺たちが聞き込みをしたのは昨日のことだ。そんなにも直ぐに情報を集めているとは思わなかった
「なんてな、鎌をかけただけだ。あのフランツの倅なら相当慎重だろうからなぁ、ただの推測だ。それで?俺が安全そうだってわかったか?」
ヒューズは口元に薄く笑みを貼り付けて両手を広げて見せる
「あぁ、胡散臭いという人物評は変わらないが同じ帝国に追われる身ならある程度は信用ができる」
俺の言葉にヒューズは笑みを深めるとハッと腹の底から声を出す様に笑った
「そう来なくっちゃな!明日の朝この場所で待ってるからよ!ちゃんと来いよな」
そう言って彼はまたフラフラとピンク色の店の中へと消えて行った
やはり、変な奴だ。だが、上手い事首都まで行けそうなので一安心だ。
大通りに戻って来た俺はことの顛末をルイスとヘレナに話した。二人はやっぱりヒューズのことが信用ならない様だがこの手段しか最速で首都に向かうてはないのだ。
仕方がない
俺は首都のワルツがある方角をじっと睨んであの不器用な男の事を思い出していた
フランツ……。後少し待ってくれ…。俺に何ができるかなんてわからないけど、これだけの人間が解放を願うカナリアって言う国を俺にも見せてほしい。
俺が小さく吐いた言葉は出店や夜の街に消えていく者達の雑踏の中にそっと消えて行った
次回更新は月曜朝を予定しております




