第九十一話 久方ぶりの
俺たちはカナリア領に入ってすぐの街バウムに辿り着いた
流石に前線に近い街だけあって帝国軍人が多く。それ目当ての商人が多く集まっている事で妙な熱気と賑わいを博していた
俺たちは軍服を着ているので堂々と歩けば疑われることもなかった
「久しぶりに街らしい街に来たな」
ルイスは周囲を見回しながら屋台の飯に気持ちが惹かれている様でチラチラといい匂いのする屋台を見ては生唾を飲み込んでいた
「そうだな。流石に俺たちが脱走してきた兵だと言う事はすぐには伝わらないだろう。この町で一泊するのも悪くない」
「やっと、まともに水浴びができるね」
ヘレナは宿らしい宿に数年ぶりに泊まれる事に喜んでいる様だ
俺たちはその後安い素泊まりの宿に部屋を取るとルイスと俺は観光へ行く事にした。
ヘレナも誘ったのだが部屋でゆっくりしたいとのことだったので男二人で街へ繰り出した。
服はその辺の中古で買った安い服に着替えた。俺とルイスは屋台を順番に見て回る。焼き鳥や乾飯、硬いパンが目の飛び出る値段で売っていた。見入りの良い帝国兵の懐を見込んでの値段設定なんだろう
そうして何を買うでもなく軒先を冷やかしているとやけに明るい路地裏が見えた
もしかするともう少し安い食べ物があるのではないかと思って俺はルイスの服の裾を引っ張ってそちらへと入っていく。
ルイスは訝しげな顔をしながらも彼も気になった様でそちらへと一緒に歩き出した
歩いていくと道の横には看板のついたドアが多い。しかし、やけに店の名前に蝶とか夜とかついた店が多い店の窓からは甘い匂いが漂っていた
そうして少し奥まで歩いた所でルイスが足を止めた
「そろそろ戻るか。この先行っても何もなさそうだ」
俺も頷いて身を翻すと数人の女たちが俺たちの後ろに立っていた
「入る店は決まったの?」
女達の先頭にいた特に妖艶な女がルイスの顎を撫でながら声をかける
「え?」
俺が声を上げるとルイスは固まっていた
あぁ、そうかこの路地裏は春を売る店が並んでる所なのか。通りで道が広いのに人が居ないと思った
「すみません。間違えて迷い込んでしまった様です。道を開けていただいても良いですか?」
俺が声を上げられないルイスの代わりに謝罪を述べると華美な服装をした女は可笑しそうにクスクスと笑うと俺の方へと向き直った
「あらぁ?随分としっかりした子なのね。悪いけど子供にはサービスできない事になってるの。お兄ちゃんを借りていくわね」
そう言うと女は微動だにしないルイスの腕を取るとエスコートする様に近場の店に入って行こうとする
まずいぞ、金を大して持ってないルイスがこんな高級そうな大人のお店に入ったらルイスは大人の階段を登るのと一緒に犯罪者のステップもアップしてしまう
だが、俺は止めようと女の方へ行こうとすると俺は手を握られた
慌てて、振り返ると俺より2回りほど小さい女の子が俺の手を握っていた
「お兄ちゃん。ダメなんだよ。私たちみたいな子供はあのお店に入っちゃいけないってお姉様が言ってた」
「い、いや。俺はあの男を連れ戻そうと……。」
「でも、小さな子がお店に入るとオバケに連れ去られちゃうんだよ?」
女の子は心の底から俺のことを心配してくれている様で手を握る腕には力が入っている
流石にこんな小さな子の腕を振り払うわけにもいかず、まごまごとしているとルイスは店のドアを潜ろうとしていた
あぁ、ルイス。君のことは忘れないぞ。
憲兵に捕まったら助けに行ってやるからなぁぁぁ
俺は心の中でルイスへの別れの言葉を並べていたが次の瞬間、女の手が店から伸びた手に掴まれた
女はイラッとした様に手の伸びた方を見るが顔を見た途端に顔を赤らめた
店の中から女とルイスを道へと戻す様に押しのけて出て来たのは色男と形容する以外に例えようのない男だった。所謂、彫りの深い渋いイケメンで背中には琵琶の様な弦楽器を背負っており口笛を吹いて気分良さそうに店から出て来た。
そしてその男は帝国将校の軍服を着ていた
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