第八十九話 遊戯
俺とルイス、ヘレナは焚き火の元へ戻ると荷物をまとめて一箇所に固めておいた
勘づかれた時のために最低限の食糧必需品は体に携行して二日間は何食わぬ顔で生活した。
ドグやヤウン、ヌーベルは特に俺たちの変化に気付いた様子もなく戦線を膠着させた上層部の判断に愚痴を漏らす毎日で戦闘らしい戦闘もなくあっという間に二日間は過ぎていった
俺は夕方になるのを待ちながら塹壕の中でヘルメットを目深に被り、ウトウトとしながら壁にもたれかかっていた。周囲の他の隊の兵士たちは塹壕の中で談笑していた。
というのも、しばらく戦闘がなかったことで比較的弛緩した空気が塹壕に流れていた。
レイスとヘレナは荷物の最終点検のために離れたところで作業をしている
そこへドグとヤウンが俺の元へやって来た
「おい、ロブズやろうぜ」
そう言ってドグはポケットからカードを取り出して振って見せた
ロブズというのはこの世界の大富豪のような物らしくカードは前世のトランプに似ていた。相手の全てを奪うと言う意味でロブズというらしい。物騒なゲームに聞こえるが要は賭博だ。丁半をやってる所を見かけたこともある。塹壕の中での暇つぶしに兵達は配給食糧や私物を賭けて暇つぶしをしているのだ。
俺はヘルメットのつばを少し上げると頷いた
「よし!なら3人でやるかな」
そう言うとカードを配り始めた。ヤウンは珍しくムスッと黙って瞑目してカードが配られるのを待っていた。
カードが配られて対戦が始まろうというところでドグが口を開いた
「こういうのは何かを賭ける物なんだよな」
「あぁ、確かにな。何をかけたい?」
俺が問うとドグは俺の目をじっと見つめた
え?なに俺が欲しいって?参っちゃうなぁ
「俺が勝ったらあんた等が何をコソコソやってるか教えろ」
なっ、そう来たか。やはり何かを薄々勘付いていたか
俺は神妙な顔を即座に作るとため息をついた
「何のことを言ってるかはわからないが。お前が勝ったら質問に一つ答えてやる」
俺の言葉にドグは静かに頷き、手元の手札に視線を戻した
俺はヤウンに視線を移して彼の目を見た
「お前はどうする?」
俺の問いにヤウンは中空を向いて少し考え込むと肩をすくめた
「じゃあ、自分が勝ったら配給食3日分で」
彼の言葉にドグが顔を顰めて肘で小突くがヤウンは素知らぬ顔で向こうを向いた
「じゃあ、俺が勝ったらそれ以上の詮索はするな」
「いいだろう。じゃあ始めるか」
俺の言葉にドグは深く頷いてカードを一枚出した。
俺の手札はかなり強い。ジョーカーの相当するカードは無いが1や2のカードは枚数があり絵札も多い。俺がカードを出すとドグは口を開いた
「なぁ、俺たちはちゃんとお前等カナリア出身の奴も背中を預けるに足る仲間だと思っているんだが、お前達はそうは思ってなかったのか?」
ドグの言葉には答えを返さずに黙って自分のカードを出す
俺の様子を見たドグは鼻を鳴らすと自分のカードを出した
そうして各自の手札が3枚になるまで無言でカードゲームは続いた
その後、俺は3枚ドグは2枚、ヤウンは5枚残っていた
「どうやら、俺の勝ちみたいだぞ?」
ドグが嬉しそうにカードを出そうとしたのをヤウンが手で制した
「まだ、自分の番っす」
「あぁ、悪かったな」
そう言ってヤウンはカードを一枚出した。そのカードはドグの持っていたカードより強かったようでドグは怪訝そうにカードを手元に戻す
俺も手札を見るが俺のカードもどれも勝てるカードではなかったのでヤウンの番に戻る
「じゃあ、自分の勝ちっすね」
そう言ってヤウンはカードを4枚重ねて場に放り投げた
「なっ!?」
ドグが驚愕した顔でカードを拾って内容を確認した後「クソッ」と悪態をついてカードを場に叩きつけた。
俺もそのカードを拾って確認するとジョーカーが2枚に同じ数字のカードが4枚での同時出しだった。
「じゃあ、食料の配給3日分。頼みましたよ」
そう言ってヤウンは気の抜けた顔で立ちあがろうとするとドグが彼のズボンの裾を掴んだ
「お前、ルーク達が何やってるか気にならねぇのか?」
だがヤウンは飄々とした様子で肩をすくめた
「どうでもいいっすね。自分は給料以上の仕事はしたく無いですから」
そう言ってヤウンは人の合間を縫いながら自身の荷物のあるところまで歩いて行ってしまった
「チッ!賭けは賭けだ。俺の要求もお前の要求もチャラだ。詮索はするが直接は聞かねぇ」
そう言ってドグは当てが外れたとばかりに苛立ちを隠そうともせず人の間へと消えて行った
あいつ等も何かを感じ取っているのだろう。ただヤウンは答え合わせをする事を拒んでいたように見えた。ドグの直球さには恐れ入ったが、やはりあいつ等は凸凹コンビだがいい相性だなと思い彼らが消えて行った方をしばらくの間じっと見つめていた。
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