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ラブコメ・恋愛

行きつけの喫茶店の店員と仲良しだと知った幼馴染がコーヒーを淹れ始めた


「行ったらダメ。コーヒーが飲みたいなら、わたしが1番、合うの淹れるから」


 行きつけの喫茶店のマスターが腰痛のせいで、大学生のマスターの娘が、喫茶店を手伝うことになったのは、3ヶ月前。

 結果、よく通うので、女子大生のマスターの娘と、親しくなったわけだが。


「ダメダメ。絶対、女子大生にコロッとやられるから。失恋だよ。絶対に失恋。失恋しかないんだよ」


 俺、別に、喫茶店に、女子大生を、拝みに、行っている、わけじゃ、ないです。

 まぁ、信用されていないことは分かった。だがーー。


「断る。あそこのコーヒーじゃないと、俺はダメなんだ」


「だったら、わたしもついてく」




 隠れ家的喫茶店。少し学校からは遠いけど、家の帰り道だから、よく通っている。こじんまりしたアンティークで古風な入り口だけど、中は、ガラス張りの先に小さな庭が見える開放的な喫茶店になっている。

 それに奥にはダンロがあり、ロッキングチェアがあって、俺はコーヒーを飲みながら安楽椅子探偵ごっこで、思索を深めるのだ。

 まぁ、ダンロは雰囲気だけで、実際には使えないただのハリボテ。


「てか、絶対、コーヒーの味より雰囲気を楽しんでない」


 安楽椅子の近くの普通の椅子に座る幼馴染。


「そんなことがあるか。俺はマスターのコーヒーの味に惚れ込んで、ここにいつく精霊になったんだ」


「500円で長居する 迷惑客」


「やめろ。そんな真実を突きつけるな」

 

 二時間ぐらいで最長でも帰ってるよ。テスト期間は、甘えています。


「いいのよ。結構、カッコいいし。ホームズみたいって、人気あるみたいだし」


 マスターの娘が、コーヒーを二つ運んで来てくれる。


「ほら、女子大生も、そう言ってる。やっぱり、俺、イケてる。大学行けばモテますか?」


「うん、モテモテ」


「見ろ、大人には俺の魅力が分かるようだ」


 つまり、俺がいるおかげで、ご婦人方も大喜びということだ。俺は騒がず、静かに、高校生という若さを提供しているわけだ。女子だけの特権ではないのだ、若さは。


「どう考えても、あしらわれる年下の図です」


「この子は、カノジョだったりするの?」


「いえ・・・・・・ただの腐れ縁です」


「どうも。腐れ縁のカノジョです」


「青春だね。それじゃあね」


 ああ、マスターの娘が、去っていく。

 まぁ、幼馴染の前で、あんまり話されても困るけど。


「目で追わない。将来、ストーカーになるよ。盗撮で捕まらないでよ。ああ、いつか、やると思っていました、って答えないといけないし」


 そんな嬉しそうに義務を果たそうとしないでくれ。まさか、彼が、そんなことをするなんて、でお願いしたい。というか、二択だよな。思ったとおりか、予想外だったか。


「まぁ、コーヒー飲んでみろよ。うまいから」


「うん。――美味しいね。インスタントとは違う」


「幼馴染さん、俺に合うコーヒーはインスタントだと」


「被害妄想すぎる。自覚があるの。というか、家のコーヒーとか、だいたいそうじゃないの」


「俺は、ツウだから、ちゃんとドリップしているよ」


「じゃあ、今度、うちに来たときは、普通に入れよう」


 まさか、幼馴染の家で、飲んでいたのは、インスタントだったのか。えっ、マジ。よかった。味について、何も言わないで。美味しい、美味しい、というのが、人の気遣いだからな。


「まぁ、このレベルのコーヒーと安楽椅子があれば、ウチで毎日、コーヒーを飲んでくれると。そういうことね」


「俺の舌は、肥えているぜ」







「はい。どっちが、どっちか当ててね」


 二つのコーヒーが目の前に提出された。


「喫茶店のマスターの娘さん、なんで、こんなに、究極的な味審査が始まるんですか」


「女子の恋路を応援するのが、年上のおせっかいというものだからね。幼馴染同士の恋愛とか、もうね、最高よね。協力惜しまないよ。あ、でも、たまには、うちに来てね」


 俺、本当は、喫茶店の採算のお邪魔虫でしたか。今、ていよく、追い出す算段がたったと。


「今年の誕生日は、ロッキングチェア買ったからね。三万もした」


 やめろ、そんな高校生にとって、破格すぎる値段をぶつけてこないで。行かないわけには行かなくなるだろう。高校生が送り合う誕生日プレゼントの値段を大幅に超えているんだよ。


 飲んだ瞬間に分かった。口に含んで、飲み干せば、あまりの味の違いに、間違うわけもない。

 俺は勝負事には、手は抜かない。コーヒーの味に関して、嘘はつけない。


「右が幼馴染の、左がここのコーヒーだ」

 

 ああ、残念だ。

 これからも、ここのコーヒーを愛し続けよう。


「はい。ハズレ」


「えっ、いやいや。こんな飲み比べ間違うはずが。絶対、右がマズイ」


「うぅ~、やっぱり~」


 なんで、喫茶店のマスターの娘さんの方が、うなだれているんだ。


「これ、右は、マスターの娘さん、左は、わたしだよ。やったっ!!これから、放課後は、わたしの家に、コーヒーを飲みに来てね」


「あのー、もしかして、マスターの娘さん、いれるの下手だったり」


「わ、わたしは、完璧に、マネしていれているはずなのに・・・・・・。どうして・・・・・・」


 さらに体勢が崩れていく娘さん。


「今度から、俺、飲みに来ますよ」


「えっ、ちょっと待って、それは――」


 幼馴染さん、勝負よりももっと重要なことがあるんだ。男には。


「いや、だって。マスターがもし倒れたら、俺の癒やしの空間が――。これは、必要な協力だろう。味覚の発達した俺が確認しないと」


 癒やしとは、男にとって、絶対に必要なものなんだ。


「マスターの味も分かってないんじゃない。わたしのコーヒーと区別つかないんだし」


 痛いところに指を突っ込むじゃないか。火傷するぜ。


「あ、そうだ。一つ完璧な解決策があるんだけど」


 おずおずと、手をあげる女子大生。




 行き着けの喫茶店に、ウエイトレスが一人増えました。

 ついでに、安楽椅子も一個追加されました。

 カノジョがバイトを終えるまで待って、一緒に、コーヒーを飲む、そういう日課になりました。



「うーん、まだ、ちょっと、味が違うかな」


「え、もう一緒だろう。さすがに」


「インスタントで十分な気がするなぁ。幼馴染の俺くんには」


 幼馴染が味覚チートな件について。


「というか、わたしの家で、わたしのコーヒーを飲まないの」


「コーヒーは一日三杯と決めてある。朝に一杯、喫茶店で二杯。これ以上は、カフェイン中毒の危険が」


「大丈夫。ちゃんと中毒になっても、十分な量のコーヒーを準備しておくよ」


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