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鬼のチカラ

残酷描写が続きますのでご注意ください

「ぎゃああっ!!!」

「化け物ッ!!」


バッと視界の端がが明るく染まり、どこからか悲鳴が漏れた。

それと同時にパンパンという鋭く乾いた音が響き、続いてまた悲鳴が上がり、ガラガラと何かを薙ぎ倒した鈍い音がした。


――――ガゥン!


そして、今まで生きてきて聞いたことのない音が、間近で響き渡った。

鼓膜にびりっとした余韻を残す音とともに鈍い悲鳴がすぐ上から落ちてきた。そのまま、もんどりを打って床に倒れた男が足を押さえてうずくまっていた。

じわじわと血があふれている。

「う、ぐ、ひっ、なんだこれ、やめろぉ!うわあああっ!!」


紗枝から離れた直純の体が火だるまというにふさわしく燃え上がる。


紗枝は恐ろしさにただ身をすくめた。


震えて視線を向こうにやれば、社は銃の照準をリーダーの男に向けていた。彼の足元には、劉盛会の手下たちがなぎ倒されていた。彼らも打撲の跡や肩や足を撃ちぬかれた跡が見られる。そして自身が持っていただろう銃と共に腕の一部が焦げていた。

鈍くなっていた感覚が急激に戻り、硝煙と血の匂いに、紗枝は震えだけではなく吐き気さえ覚えた。


けれど、社は眉一つ動かさない、むしろ冷静すぎる表情でこちら側を見ていた。

けれど、その瞳は抑えきれない怒りを湛え、赤く染まっている。以前に紗枝の店で見せた時よりももっと深い赤で、それは血を連想させたうえ、瞳孔が細く金色にも光っていた。


完全に何かの箍が外れた彼の様子を、紗枝は震えて息を呑むしかなかった。


「やめろと、俺は言った」


社の声が地響きのように低く場に落ちた。


「ひ・・・っ」


顎鬚のリーダーが一歩下がった。

その分、まだ銃を降ろさず、男の眉間に照準を合わせたまま社が近づく。


「あぁ、坊ちゃんはまだ燃えカスにはしないから安心しな。もっと苦しんでもらわねえと割に合わねえからな」


炎に包まれてのたうち回る直純をチラと見遣り、男が目に見えて震え出した。


「だがそもそもこうなったのはお前らが余分なことしたからだよなぁ?この馬鹿だけならここまでのことにはならなかった。散々忠告はしたが、無視したのはお前たちだ」


だったらやられても仕方ねえよなァ、と薄く笑みすら浮かべて社は言う。


「せっかくここまで誓いを破らずにこれたのもこれでおじゃんだ」


祭が言っていた社の誓い。

決して私情では力を使わないこと、身を守る以外に鬼火で人をむやみに攻撃しないこと。


だからこそ、社は以前劉盛会のチンピラをのした時には、脅しレベルの炎しか使わなかった。実際にはほぼ燃えない程度の。

それを侮ったのは、正しく極道の仁義を知らずに成長した彼らだ。


「とはいえ、あんまりやるのは揉み消すのに苦労するだろうから、アンタはこっちの掟どおりにヤッてやるよ」

「く、来るな!!」


男は懐から銃を取り出して、がたがたと震える手でそれを構えた。二つの銃口が互いに向き合う。


「社さん!!」


また別の意味で血の気の引いた紗枝が叫んだが、それは社には届いていないようだった。

まったく臆しもせず、残忍な笑みを隠しもせず、社は引き金に指をかける。


「そんなに死にたきゃ一人で死ね」

「社さん!?」 


今度は社を止めるために、紗枝は彼の名を呼んだ。

ぴくりと一瞬だけ社の動きが止まる。

その隙に男は銃口を向ける先を紗枝に変えた。


「おおおろせ!さもないとあいつも死ぬぞ」

「――――!」 


蒼白になった紗枝からは悲鳴さえあがらなかった。

恐怖に微動だにできないとはまさにこのことだ。


だが。


「ひぃぎゃああああっっ!!!」


ゴウッと熱波が届くと共に男が真紅の炎に包まれた。


「そんなにヒトならず死にたいとはな」

「ひ・・・!」


引き絞る悲鳴を上げたのは紗枝だった。

社が、残酷に笑っていた。

もはやそれは紗枝の知る社の表情とはかけ離れていた。


「どうやって死にたい?一部分ずつ、ゆっくりゆっくり焦げていくのがいいか?」

「ぐ、ぎゃ、お、ぉ」

「触れちゃいけねえもんに触れるとどうなるか、馬鹿にはわかんねえんだな」

「・・・ひ・・ぃ・・・や、め・・・っ」


紗枝に銃をむけていた男の右半身が真っ赤にただれていく。肉の焼ける匂いがはっきりとわかった。


紗枝はもはや声が出なかった。

ひゅうひゅうと喉が恐怖に鳴るだけだ。

社の周りにポツポツと丸い鬼火が現れ始めていた。その数8つほど。

その鬼火たちはぴゅんと飛び回り、あちらこちらに転がっている手下たちに乗り移り始める。


「あァ、もうめんどくせえ。取り繕うのなんてやめた。知ったことか・・・全部、ぶっ壊してヤルか・・・ソの方が、ハヤい・・・」


呟く社はとても正気とは思えなかった。

ただギラギラと赤い瞳が虚空を見上げて、壊れたように笑い始める。


その時、倉庫の中にけたたましい音と目も開けてられないほどの照明が入ってきた。

社が不審そうに振り返り、鬼火をそちらにも向ける。


「社っ!やめろ!」


しかし、社を止めたのは、はっきりとした彼と同じ声だった。

社の炎よりも明るくオレンジがかった炎が、飛び回る鬼火を捕まえるかのように包み込む。


「お前、今度は正当防衛じゃすまねえぞ。ほら、ちゃんと周り見ろ。紗枝が怯えまくってるだろ」


ぴたりと動きを止めた社に光の向こうから近づいてきたのは、祭だった。

彼は社のそばにくるとその肩に手をかけ、足元にも燻っていた炎を踏みつける。

途端に霧散した真紅の炎に、紗枝はやっと息が吐けた気がした。


「来るのがちょっと遅かったな。しかし派手にやりやがって」


意識を失っている劉盛会のメンバーを足蹴にし、祭は部下に彼らを連れて行くように顎で命じた。


「まさか一人で行くとは思わなかった。だから待てって言ったのに。お前、本当にキレると手がつけらんねえな。馬鹿殺して、刑務所なんて行きたくないだろ?」

「・・・ま、つり」

「チカラに飲まれるなって散々お前が言ってたのに世話ねえなあ」

「・・・・・・すまん」

「おっ、珍しく素直」


握りしめたままだった銃を祭に渡し、すうっと社の瞳が黒に戻った。

熾火のようにゆらゆらと最後まで燃えていた直純の体からも炎が消える。直純がふと正気づいた。

言葉通り、後からのつもりで本気で燃やしてはいなかったので、彼だけは気絶もしていなかった。


「ば、ば、バケモノ!!」


転がったまま開口一番に叫んだ直純を、今度は祭が覗き込んだ。

ニヤニヤと口元は笑いながら、しかし、その目は底光りするかのように冷たい。

かちゃりと社から受け取った銃を直純の額に当てた。


「ひぃっ!」

「うちの関係者の馬鹿どもに加担して、紗枝を痛めつけたんだ。このおぼっちゃんにはこっちで物事の道理ってもんをしっかり叩き込んでやるよ」


死んだほうがましだっていうかもしれねえけどな、と引き金に指をかけて笑う祭はまさに悪魔のようだった。

泡を吹いて倒れた直純は、大森に引き立てられて倉庫の外の車に連行されていった。


「で、今回は収めてくんねえか?この後始末は全部こっちでやっとくからよ。今晩、この場にお前たちはいなかった。そうだろ?」


祭の手が片割れの肩に再び置かれる。

今度こそ、目に見えて、社が脱力したのがわかった。


彼は、祭が連れてきた蒜生の部下に縄を切ってもらった紗枝の前に膝を折ると、そのままぎゅっと抱きしめてきた。


「!?」


紗枝は咄嗟に声が出ず、目を見開いた。

彼の腕はますますきつくなる。

殴られたり蹴られたりした痕が鈍く痛んだが、彼の震えを感じるとすぐに気にならなくなった。


「・・・・かった・・・」

「え?」

「また・・・失くすかと・・・俺の、せいで・・・」


耳元にこぼれおちる声が、泣きそうだと思った。

だから紗枝は痛む腕をそろそろと社の背に腕を回して、肩の辺りを撫でる。


「・・・社さんが来てくれたから平気でした。すみません、私の、せいでこんな危険な・・・」

「お前のせいじゃない。あいつらの狙いは俺の会社だ。すまなかった」

「いえ、でも・・・あの人、遺産がどうとかって・・・だから、私のせいなんですよね。そんなに自分を責めないであげてください。こうして、無事だったんですから」

「無事?無事じゃないだろう?」


社は怒った声で、紗枝を引き剥がした。そして、ぼさぼさになった髪と腫れている頬を見て、さらに瞳をきつくする。

また瞳の奥に炎が宿った気がした。


「やっぱり殺せば良かった」


ひっ、と紗枝の喉が締められた気がした。

本気だ。早く止めなければ。


「や、社さん!そんな物騒な・・・大丈夫です。何日かしたらすぐ治りますから。お願いですから落ち着いて」

「痛かっただろう?」


踏まれたせいで赤みがさし、砂だらけになっている紗枝の手をそっと払い、腕をまくって擦り傷や打撲のあとを確認して、頬にも触るか触らないかのくらいの優しさで手を置く。


よかった、普通の社だ。

ホッと息を吐いて紗枝はその大きな手に、自分から顔を預けた。社が少しだけ、緊張したように指先をぴくりと動かした。


「大丈夫です。こうして、動けてますから。心配してくださってありがとうございます」


生きているのだから、それだけでいい。


“始末する”といわれたときは、もうこうして社には会えないと思っていた。

それが体温を感じ、触ってもらえている。それだけで十分だ。


そう思うと、突然涙が出てきた。


「紗枝・・・」

「す、すみませ・・・!あれ、へ、変だな?別に・・・いま、泣くつもりじゃ・・・」

「怖かったんだろう。当たり前だ。我慢しなくていい。俺もすまなかった」


狂った暴挙の詫びも含め、社がおずおずと紗枝の頭を撫でた。


「う・・・あっ、ひっ」


紗枝はぎゅっと社の袖にしがみつき、それを知った社が再び抱きしめてくれる。

傷に触らないよう優しいその腕の中でわあわあと泣いた。

それからどれだけ泣いていたのか分からないが、社はずっと紗枝の髪や背を撫で続けていてくれた。


「・・・・・す・・・みませ・・・ん・・・」


ようやく涙がおさまったとき、紗枝は急に現実に引き戻されて恥ずかしい思いに襲われた。


そういえば、この場には祭や蒜生の人間が幾人もいたはずなのだ。

臆面もなく社にすがって泣いてしまうなんて、と顔を上げられない気持ちになりながらも、それでも離れがたいような気持ちになっていて、紗枝は困ってしまう。


しかし、社だってきっと迷惑に思っているはずだ。

馬鹿みたいにつかまって、助けにきてもらうような状況を作ってしまって。


(・・・あれ?そもそも何で助けにきてくれたの・・・かな?)


紗枝はふと疑問に思って、社の服を掴んでいた指を緩めた。

紗枝と会社だったら、彼にとって比べるまでもないと思うのに。そもそも会社のために、紗枝を騙していたような人なのに。


「・・・あの・・・」


紗枝は問いかけを携えて、ようやく顔を上げた。


しかし、質問をする前に別方向から声が割り込んできて、驚いた紗枝はそのまま問いかけを失う。


「悪かった!社も紗枝も・・・本当に悪かった」


振り返れば、祭が二人に向かって頭を下げていた。


彼がこんなにも真摯に頭を下げることが信じられなくて、紗枝は見間違いじゃないかと何度も瞬きをした。

それは社も同じだったらしく、驚いた表情をしている。


「俺が紗枝に余分なちょっかいをかけなければ、こんなことにはならなかったんだ」


祭の話によれば社に呼び出されたあと、祭ともみ合った際に、紗枝の携帯が落ちていたらしい。

不穏な情報をつかんだ社が、やはりそこから動くなと伝えようとしても、祭はその携帯に出なかったし、しばらくはふてくされて家の電話も取り次ごうとしなかった。

だから後手後手に回ってしまったのだという。

結局すべてを知ったのは、社が劉盛会からの電話を受け、それを確認したときだったようだ。


「すまん。俺が・・・俺が、全部悪かったんだ。本当に、すまん」

「いえ、そんな・・・。祭さんが悪いなんてことはないですよ」

「・・・いや、祭が悪いだろ」

「社さん?」


祭の謝罪にぶんぶんと首を振る紗枝だったが、社は何故か追い討ちをかけた。


「お前が余分なことをしなければよかったんだ。紗枝にはちゃんと償いをしろよ」

「ああ、分かってる」

「えっと、社さん?べ、別に謝ってもらわなくていいし、そんな償いとかいいですから」

「そんな簡単に済ませられる問題じゃない。こいつのしたことは一歩間違えば、お前の命さえ危うくさせていた」

「社さん・・・」

「だが、俺も同じだ。俺が不用意にお前を呼び出したりしなかったら、こんなことにはならなかった。すまなかった」

「え!そ、そんな・・・」


しかし、社にまで謝罪をされて、紗枝はさらにうろたえる。

怒っているわけでもないのに、二人に頭を下げられても困る。

しかも、この兄弟は絶対、人に頭を下げるタイプの人間ではないのだから余計に。


「えーっと、やっぱこういうのは、誘拐をした人が悪いんですから・・・も、もうおしまいにしましょう。ね?助けていただいたことで、ちゃらってことで。二人とも、顔上げてくださいよ」


心底弱りきった声を出すと、社と祭は顔を見合わせて、同時にため息をついた。


「本当にまあ、汚れてねえっていうか・・・人を責めれねえ性格って損じゃないのか?」

と、肩をすくめたのが祭。


「美徳なんだか、欠点なんだかわかんねえな」

と、紗枝の頭を撫でたのが社。


どちらも苦笑いに似た表情を浮かべていた。


「もしかして、何か馬鹿にされてますか?」

「いや、馬鹿にはしてねえけど」

「お人よしぶりに呆れてはいる」


二人で息ぴったりに答えられ、紗枝はきょとんとするしかなかった。


「社さん?」


とりあえず近くにいた社を見上げるが、それ以上の説明はもらえなかった。

代わりに頭を右肩のあたりに抱き込まれて、よしよしと撫でられる。

髪に彼の頬を寄せられていることに気がついて、紗枝は瞬時に真っ赤になった。


「ややややしろさん!」

「なんだ?」

「―――!ちょ、はっ、離れて、く、くださ・・・っ」


けれど、すぐ鼻先で覗き込まれる様相になってさらに慌てる。

先ほどしがみついていたときもこのような体勢になっていたのかと想像するだけで憤死しそうになった。

いや、今更すぎるが。

ただ、泣いていた事実よりも数段恥ずかしい。


「紗枝、我慢してやれよ。社だって安心したんだろ。ていうか、お前すごいな」

「え」

「あの社見て、怖がらねえでむしろ自分から抱きついてた根性がすげえっての」


確かに死ぬほど怖かったが、それもこれも紗枝を助けてくれようとしたからであって、そこを無視して怯えると言うのは違うと思う。

そもそも今の社は全く怖くない。むしろいつもより弱っているように見える。

だから紗枝は、さきほどと打って変わって、社の腕に触れた。

祭がため息をついた。


「ったく・・・お似合いだよお前ら。そんなに自分のもんって見せ付けなくてもわかったっての」


後半は社にむけた言葉で、さらに呆れた声音だ。


「もうあきらめたって。お前らには構わねえよ。あとは、お前が好きなだけ言い訳すれば?つっても、紗枝のことだからあっさり許しそうだけどな」


ここまで無茶やらかす奴と張り合うかよ、とぼやいて、祭は不意に真剣な表情になった。


「あのときも、そうだった」

「・・・祭?」


恐ろしいまでの静寂が漂う。

いつの間にか、蒜生の部下たちは狼藉者たちを引き取っていつの間にか倉庫からは退出していた。


「美江子が死んで・・・お前が一人で報復に行ったとき、俺は・・・お前には一生敵わないって、そうやって思い知らされた」


何を言い出すのか不審そうだった社の表情が、はっと厳しいものになった。


「あのときも、俺が・・・馬鹿なことをしなければ、美江子は死ななくて済んだ。最初からちゃんと言っていれば、俺じゃないってそうやって言っていれば、俺が変な意地を張ってなければ、美江子はそこまで想ってくれるお前と幸せだっただろうに・・・と、そうやって、何度思って・・・」


祭の語尾が震える。

打ちひしがれたように、彼は拳をにぎりしめ、地面だけを見つめていた。


「今更、遅い・・・後悔しても、美江子は帰ってこない。けど、言わせてくれ。すまなかった。ごめん、社・・・。俺は、お前より劣ってるって認められなかった、そんなくだんねえちっぽけな俺のプライドのせいで、お前も美江子も不幸にしちまった。本当に、すまん・・・っ」

「祭さん・・・」


うちひしがれている様子の祭は、あまりに痛々しかった。

自責の念をやはり祭はずっと自分の胸にしまい続けていたのだ。

どれほどそれが、彼を苦しめていたのだかは想像に難くない。

社は、ただなんの感情も見えない表情でそんな祭を見つめていた。


「・・・あのとき」


不意に社が口を開いた。


「お前が、美江子を裏切ったりしなければ、と何度も思った」

「―――っ。分かってる。俺が悪いんだ。気が済むまで殴ってくれればいい」

「今更」

「ああ。本当に、今更だ。だが・・・お前に謝らなければ、俺はいつまでもくすぶったままだ。紗枝にそれを気づかされた。今度は、間に合った。最悪の結果を免れた。また、俺が取り返しのつかないことをすることだけは避けられた。だから・・・今しかないと思ったんだ。もう、これ以上引き伸ばしていられないと思ったんだ」


再び沈黙が降りた。それを、低い社の声がゆっくりと切り裂いていく。


「・・・お前に尋ねるだけの価値などないと・・・美江子の思い出が汚れると、そう、思っていた」

「ああ。お前が俺を軽蔑していることくらい知っていた。それでいいと、俺も思う」

「だが・・・、あえて聞く。お前は、何であのとき、俺たちを呼び合わせようとしたんだ?本当に、ただ、伝言を頼みたかっただけなのか?」


怖いくらい真剣な瞳で、社は弟を見た。

祭は、一瞬顔を歪め、それから視線をはずして答えた。

真実を紗枝に話してくれたとおりに。


あれは、ねじれてしまった関係をもとに戻したかった祭の思いやりだったのだと。

自分では美江子が悲しむだけだと知った祭の、最初で最後の彼女への思いやりだったのだと。


社はその告白に息を呑み、それからなんとも言えない表情になった。

それを祭は、自分への嘲りと受け取る。


「分かってる。美江子を騙して、省みなかった俺が何を言ってるんだって言いたいんだろ。ろくでなしの俺が、無駄な気を回したせいでって。・・・俺、いなければよかったな。俺がいなけりゃ、こんなことにならなかった。お前は出来損ない弟に煩わされることもなかったし、美江子だって振り回されることなかったし、何より死なずに済んだ。俺が、あのとき代わりに死ねばよかったんだ」

「そんな・・・」

「違う」


だが、社ははっきりとそれを否定した。

そして、ふっとどこか寂しげに笑う。


「お前も・・・やっぱり美江子のことが好きだったんだな」


その言葉に、祭は大きく目を見開いた。


「双子だからな。うすうす分かってはいた。お前が自覚していたかどうかはしらないが、そうなんだろうとずっと思っていた。ただ、確信が持てなかったんだ」

「・・・俺、俺は・・・」

「祭、お前は俺より劣っていることを認めたくなかったと言ったな?だが、俺こそ認めたくなかったのかもしれない。お前に、負けたってことに」


紗枝を抱きしめる社の力が少しだけ強くなった。


「・・・何を言ってるんだ?」

「お前に言うかどうか迷っていた、ずっと。だが、知っても・・・今更どうになるものでもないし、数いる女のうちの一人としてしか美江子を見ていないお前に話すのは、美江子の思いが踏みにじられるような気がして、話せなかった。お前だってもう死んでしまった幼馴染に引きずられたくないだろうと・・・。だが、それは結局、俺が認めたくなかっただけなのかもしれない。ちゃんと言ってやれば、お前はこんなにもずっと苦しまなくて済んだのに」


そう前置いて社が話し始めたのは、あの日、祭の電話を受けた後のことだった。


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