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私の何がそんなに悪いの?


「・・・う、んんんっ!」

「ったく、よく暴れるガキだな。むかつくぜ」

「こら、短気を起こすな。一応、確認とらねえといけねえんだからよ」


手足をロープで縛られ、芋虫のように転がる紗枝を靴先で蹴ろうとした男を、もう一人の男がたしなめる。

ガムテープを口に貼られているので苦しい息ながら、紗枝は男たちをにらみつけた。

こんなことになった理由はまったくわからない。


分かるのは、蒜生の家を出て言われたとおりにタクシーを捜しに大通りに出たその瞬間にいきなり拉致されたという事実だけだ。

砂塵がベニヤの床を埋めつくし、材木があちこちに積み上げられているここは、どこかの倉庫のようだった。

埃臭いことからして、しばらく使われていないのだろう。


「それにしても手間ぁかけさせやがって」

「仕方ねえ、何と言っても蒜生がバックだ。だが、これであいつにも泡吹かせてやるチャンスができた。上手くいけば本家も巻き込める」


彼らの話している内容が良く分からない。

しかし、必死で首を上げてみれば、彼らのつけているバッチが劉盛会のものだということが分かった。


やはり、という気持ちと、どうして、という気持ちが紗枝の中で交錯する。

もうケリはほぼついたと祭が言っていたのに。

見通しが甘かったのだろうか。

それにしても何とか逃げられないかと紗枝は身をよじってローブを切ろうとした。

だが、余計な動きは彼らにすぐに気づかれる。

がしっと髪を掴まれて、紗枝は顔を歪めた。


「なぁにやってんだ、このお嬢ちゃんは。大人しくしてろ」


ぐりぐりと頬を砂まみれ床にこすられて、擦れる痛みに目をつぶる。


「だからやめろって」

「いいだろ、どうせ始末するんだから」


――――始末。


その言葉にぞっと全身が冷たくなった。売るとかそういうレベルではない。始末、とはつまり。


(・・・殺される・・・)


彼らならやりかねない。手段を選ばない、そういう連中だと社に何度も教えられた。

恐怖に、がたがたと震えが走った。


「何だ、やっと怖くなってきたのか?」


髪を掴んでいる男が、にぃっと嫌な笑みを浮かべた。

獲物をなぶっている肉食獣のようだ。


けれど男の期待に応えるのが嫌で、紗枝はぐっと歯を食いしばって男から視線をはずすことだけはしなかった。


「んだよ、その目は」


すると途端に男の機嫌が急降下する。

そのときだった。

古びたドアが開く音がして3人の男が入ってきた。


「汚いところだな」


嫌そうに言ったその声には聞き覚えがあった。


(・・・あの、パーティーの男・・・)


引っ張られて起こされた紗枝の前に立った男は、やはり紗枝がシャンパンをかけた直純だった。


「後ろ暗いことをするにはこういう場所の方がいいんですよ」


直純の後ろにいた顎ひげの男が、くっくと笑う。その彼も劉盛会のバッチをつけていたが、色が他の彼らよりも大きく磨き上げられた綺麗な金色をしていた。

どうやら彼が一番偉いようだと紗枝は当たりをつける。

だから、彼を思い切りにらんだ。

どういうつもりなのだと視線で問いかける。

するとそれに気づいた彼が、可笑しそうに答えた。


「これはこれは。噂どおり気の強いお嬢さんだ。この状況でまだそんな顔ができるとは」

「んんんっ!」

「朝丘の坊ちゃん、この女、ホントにいいんですかい?」

「ああ。目障りなことこの上ないからな」


直純は膝を折って、紗枝の頬をぺちぺちと叩いた。


「まさかいとこ殿とは思わなかったぜ。母親がじじいの妾の子供、それもじじいの秘書と駆け落ちしたんだって?その秘書も、親に売られたようなろくな奴じゃなかったそうだな。全く、育ちが知れる。ろくな教育も受けてないからこんな下品な人間に育つんだな」


両親を馬鹿にされ、紗枝はかっとなった。

どんな境遇だったろうとも、紗枝にとっては自慢の両親で、卑怯なことをした直純になど馬鹿にされるいわれは全くない。

怒りに任せて、頭突きをしようとした紗枝だったが、両肩をつかんでいた男たちに引き戻され却って後ろに転んだ。


「っ何しやがるんだ!この女が!」


難を逃れた直純は怒りに顔を赤くして、起き上がった紗枝の頬を思い切り殴った。

ごつっと鈍い音が倉庫に響く。

容赦のない一撃に、じわりと紗枝の目に生理的な涙が浮かぶ。口の中に血の味が広がる。

それでもにらみつけることだけはやめなかった。


「・・・・な、んだよ、その目は!生意気なんだよ!この俺を誰だと思ってんだよっ!」


またしても拳がとんだ。

今度はこめかみにあたり、くらりと体が傾ぐ。どさりと横向きに倒れた紗枝の肩を直純が靴底で踏みつけた。


「ほら、謝れよ。ああ、その口じゃ無理か?おい、これはずしてもいいか?」

「坊ちゃんのお好きに。とはいっても、あまりやりすぎるとよくないですよ。後で見つかったときに疑われますから」

「ふん。あいつがやったことにすればいいだろ。いざとなりゃお前らだ。俺は関係ない」

「・・・まあ、報酬さえもらえりゃ、何でもいいですけどね」


顎鬚の男は肩をすくめて、直純の好きにさせることにしたようだ。一歩後ろに下がって、何事かを控えていた二人組と話している。

一方、紗枝はといえばびりっと口のガムテープを乱暴な手つきではがされて、またしても顔をしかめることになった。

それでも口が自由になって、紗枝はふっと息をつく。

だが、再び肩に痛みが走って苦痛の声をあげることになった。

直純は紗枝を踏んだ足にわざと体重をかけて紗枝を上から覗き込んでくる。


「お前の立場分かってるのか?生意気な目をしてごめんなさい、って謝れよ」

「・・・絶対っ嫌・・・だ!あんたみたいな最低な・・・っ」


それでも紗枝が逆らうと、直純の暴力はさらにひどくなる。げほげほと紗枝がむせてかえった段階になってようやく少し溜飲を下げたようだった。

すでにぐしゃぐしゃになってしまった髪を直純がぐいっとひっぱると、切れた口の端がひどく痛む。

紗枝は半ばうつろな目をしていたが、それでも直純に折れる気はなかった。


「くそっ!何だよ、この女。女なんて俺の言うことを聞いてりゃそれでいいんだよ!」


ばかじゃないの、と紗枝は吐き捨てようとしたけれど、それは力のない吐息にしかならなかった。

彼はすべてが自分の思い通りになると思っている幼稚な人間だ。

自分がもつ権力は自分のものではないのに、それを勘違いしている。

何も持っていない空っぽの人間。

ここまでくるといっそ憐れみたくなった。

いや、紗枝は実際に憐れんでかすかに笑みを浮かべた。

幸いにもそれは直純に見られず、痛みにすぐ消えてしまったけれど。


「坊ちゃん、それくらいにしといたらどうです?あんまりやると死んじまいますよ」

「どうせその運命なんだ。口を出すな」

「そうは言っても、今あれじゃ、いざというときの人質にできないじゃないですか。何せ、いわくつきの相手だ。手駒は多いほうがいい」

「何だ、案外腰抜けなんだな」

「普通じゃそこまでの用心はしませんけどね。何せ、こっちは5人だ。チャカもある。ですが、相手は化け物なんでね。念には念を入れても用心しすぎるってことはないです」

「それにしてもこいつが餌で本当にくるのか?」

「い・・・!」


また一際強く髪を引かれて、紗枝はとっさの悲鳴を飲み込んだ。

声をあげれば、直純が喜ぶ。

苦痛を耐え続けている紗枝はなんだかだんだんとぼんやりとしてきた。

とりあえず誰かが来るということだけはわかって、その人に来たら駄目だ、騙されているんだと注意をしてあげたいと思った。


「来るでしょうね。俺たちが調べたところによると、手元において随分と可愛がっていたらしいですから。それに大切な朝丘翁の孫娘だ。それなりの価値はあるでしょう」

「孫娘!?こいつに、そんな呼び方をするな!たとえわずかでもこのようなみすぼらしい下劣な輩と血がつながっているなんて、考えるだけでも不愉快だ」

「そりゃ、申し訳ない」


あまり申し訳ないと思ってもいない声音で顎鬚の男が謝る。


「とにかく処分はこちらにまかせてください。でないと、こっちの身が危ないんでね。じゃなけりゃ依頼は果たせませんよ」


その言葉に、直純はちっと舌打ちをして紗枝の髪から手を離す。


「まあいい。とにかくこの女と、俺に恥をかかせたあの男を始末してくれりゃあな」


(・・・ああ、いやだな・・・こんなことで、死にたくなんてなかったな・・・)


再び床に頬をうずめた紗枝は、どこか達観した思考でそんなことを考える。

感情が麻痺してしまったようで、不思議と恐怖は感じなかった。

ただ、こんなことになるのならやりたいことをもっと好き勝手にしていればよかったなあ、とぼんやり考える。


(社さん、待ちぼうけにしちゃったな・・・せっかく説明してくれるって言ったのに・・・。ごめんなさい)


そのあとで、ふと思いついたのは社のこと。

彼は何を説明してくれようとしていたのだろう、と考えると、それを聞けなかったのは心残りだったと紗枝は目を閉じる。


(もっかい会いたかった・・・な)


そのときだった。

再びさびた扉が開く不快な音がして、数人の足音が続いた。


「これはこれはようこそ」


リーダー格の男が歩み出、笑み交じりの下卑た声を発するのを聞いて、再び目を開いた紗枝はのろのろとそちらへ顔を向ける。

けれどぼんやりと霞む視界と紗枝を隠すように別の男が立っているせいで、その人の足しか見えなかった。

何より意識がはっきりとしない。

寒いような感覚がして、このまま眠ってしまいたい気分だ。


そのせいで男や直純が何かを言っているのかを理解できず、ただ意味を持たない音だけが耳に届いている状態だった。

しかし、一つだけ紗枝にはっきりと伝わった声があった。


「朝丘直純、てめえ、何処まで腐れば気が済むんだ?」 


(・・・え?)


それはよく知った声だった。

そして紗枝が先ほど会いたいと思ったまさにその人の声で、彼と同じ音はあと1人しかいない。

朦朧としていた紗枝の意識が、一瞬ではっと現に引き戻される。

何重にもぶれて見える視界を修正して、紗枝は必死で顔を上げた。


(やしろさん・・・)


隙間から、ちらりと見えたのはやはり社だった。

息を呑む紗枝に気がつかないまま、社は男たちと会話を続けている。


「謝恩会での狼藉に留まらず、今度は誘拐と脅迫か。おぼっちゃんにしてはいい度胸してやがる」

「うるせえ!お前たちは目障りなんだよ!」

「その軽いおつむじゃ、まだ喧嘩を売っていい相手を見極められないようだな。会社を潰されたくらいじゃ足りねえか」

「っ、うるせえんだよ!お前さえいなければ、俺はじじいの財産で悠々自適に暮らしていられたんだよ!それを貴様がでしゃばって・・・」

「弱いものは食われる。当然の摂理だ。てめえじゃ役不足なんだよ」

「なんだと!?」

「分かりやすく言ってやろうか。てめえみたいな無能は、朝丘を潰すのがオチだ。それを分かっているからこそ、朝丘翁はてめえを見捨てたんだろうよ。あの狸じじいはむかつくが、それだけの器を持っている。だが、お前は見栄を張っているだけの泥舟だ。進めば沈むのが目に見えている。無一文で放り出されなかっただけじじいの温情に感謝して、田舎でつつましく暮らしな。無能なおぼっちゃま」

「き、さま・・・っ!おい、何をぼうっとしてやがるんだ!こいつを早くやれ!こんな生意気な口を二度と利けないようにしてやれ!」


社の挑発に直純はすぐに乗った。怒りに顔をどす黒く染め、唾を飛ばして男たちを振り返ると叫んでいる。


「まあまあ、ぼっちゃん。落ち着いてください。こいつの思惑に乗ったら終わりですぜ」


けれど顎鬚の男は冷静に直純をなだめた。


「うるさい!お前らは俺の言うことを聞いていればいいんだ!」

「おい、そちらの御仁を押さえておけ。邪魔をされたらかなわん」


それでも直純が言うことを聞かないのを見ると、部下に彼の両肩をつかませておいた。

それをしっかりと見届けて男は社へ一歩近づいた。

それでも決して社の手の届くところには入らない。

警戒心がしっかりと働いているようだった。

それを見て社が唇をわずかに歪めた。


「雇い主とは違ってお前は賢明のようだな」

「そっちこそ銃をつきつけられているとは思えないほどの落ち着きぶりだ。さすが伝説とまでなった語り草を持つ男と賞賛すべきかな?とはいえ、俺は大げさの噂にすぎないと思っているけれどな」

「御託はいい。紗枝は?」


ぐったりとした状態で会話を聞いていた紗枝は、社が自分のためにこの場にいることを知った。

ざっと全身に鳥肌が立つようだった。

自分のせいで彼が危険な目にさらされている。

そんなことは駄目だ、と思うが、自分で起き上がることができない紗枝には何もできはしない。


「蒜生の直系ともあろうものが女を気遣うなんて堕ちたものだな。それともその腑抜けのせいで弟に跡目を奪われたというほうが正しいのか?」

「お前らの狙いは俺や本家だろう。紗枝は関係ないはずだ。どこにいる?」


男の揶揄を綺麗に無視し、社は威圧感のある声で言った。


「どちらが優位の立場にいるのかわかっているのか?」


男が不愉快そうに反応した。

紗枝には見えていなかったが、このとき社の背に一層強く黒光りする物体が突きつけられていた。

それでも社は平静を崩さない。


「俺を今やればお前らの欲しい情報は永遠に手に入らないだろう。それこそ愚かだな」

「・・・交渉にも長けているようだ。おい」

「・・・・う・・・」


リーダーの声に促され、紗枝の首に手下の男が腕を回して、ぐいと引き起した。


「っ紗枝!」


同時に上がった声の主を、紗枝はようやく正面から見ることができた。

うすく白い膜を張ったかのようにぼやける視界に、怒りを耐えている表情の社がいる。


「・・・や、しろさ・・・」


呼びかけた声はちゃんと出ず、ひどくかすれたものだった。


「そいつを放せ。無関係な人間を痛めつけるなんざ、相変わらず仁義もへったくれもねえ屑どもだな」

「あいにくだが、これは俺たちがやったんじゃねえぜ?そこのおぼっちゃんの仕業だ。死んでないだけマシだと思いな」

「紗枝を離せ。この鍵と交換だ。金庫の中には電子キーがある。それとパスワードがそろえばパソコンのデータロックが外れる仕組みになっている。無事紗枝がこちらに戻れば、パスワードを教えてやろう。これは俺しか知らないワードだ」

「相変わらず上からの言い方だな。いい加減どちらが優位かわからせねえと駄目か?」

「こっちもぎりぎりで交渉してやっているんだ。まずは紗枝を離せ」


二人のにらみ合いが続く。彼らが交渉材料としているものは分からなかったが、とにかく自分が社の足枷になっていることだけはわかっていた。


紗枝は、悲鳴を上げる体を酷使して身をよじると、わずかに外れた男の手に思い切り噛み付いた。


「いてっ!」


紗枝を捕まえていた男が咄嗟に手を引いたため、紗枝の体はまた床に転がることになった。

ただし、両手両足が縛られた状態のままで逃げられるわけはなく、すぐにつかまる。

結果、男を怒らせただけだった。

「このアマ!!」という怒声とともに、紗枝の頬がひどい音を立ててぶたれた。

それでも泣くものかと思った。平手なだけましだ、

そう自分に言い聞かせて、紗枝はぐっと奥歯をかみ締める。

しかし、さすがにもう一度腕を振り上げられたときには、ぎゅっと目をつぶった。


「やめろ!!」


それを止めたのは、彼らのボスではなく、社だった。

その怒声の勢いは、その場にいた全員をぎくりとすくませるほどだった。


「それ以上してみろ。・・・殺すぞ」


それがただの脅しではないことは、彼から上る迫力から明らかだ。

それにぞっとしない者はいなかっただろう。

場は水をうった様に静まり返っていた。


「は・・・ははは、な、なんだよ・・・随分ご執心だな」


一種の金縛りにあったような状態を一番に抜けたのは、直純だった。

それは彼が一番世間知らずで、社の真の怖さを理解していなかったからかもしれない。

直純は自分を押さえていた劉盛会のメンバーの手を外させると、紗枝に近づいて地面に貼り付けるように、彼女の背を左足で踏みつけた。


「じゃあ、こういうことしたらどうするっていうんだよ?殺せるもんならやってみな。何もできないくせに、えばるんじゃねえよ」

「・・・っ!」

「お前もいい加減その目をやめろよ。見てるとむかつくんだよ」


その上投げ出された手を、勢いをつけて容赦なく踏まれた。激痛に悲鳴が上がる。


「やめてほしかったら、泣いてごめんなさいって言えよ。優しい俺は、それだけで許してやるからよ。それともそこの身の程知らずな男に助けを求めてみればいいだろ。助けられるとは思えないがな」

「・・・・・・・やしろさ・・・、も・・・いいから・・・、逃げてくださ・・・」


私はいいからほっといてください。こんな危ないところにいないでください。


紗枝はかすれた声とうつろな目で社を見た。

しかし、ぶれる視界で社の姿をはっきりとは捉えられない。加えてすぐに直純が高笑いと共に、紗枝の手の甲をかかとでぐりぐりと踏み潰したので、痛みをこらえるためにすぐに目をつぶってしまった。


「馬鹿じゃねえの?この状況で逃げれるわけがないだろ。お前もそいつも、仲良く消えてもらうに決まってんだろ。うじ虫どもが」

「・・・っ・・・」

「今はお前のことを嫌悪しているみたいだが、じじいがいつとち狂ってお前にも財産分けるなんて言い出すかわからないからな。それにお前みたいなハイエナを野放しにしておけば、いつ分け前を寄越せと言いだすかわかったものじゃない。腐った芽は先に摘むのが一番だ」


罵倒を聞いているうちに、紗枝の目からはいつの間にか涙がこぼれていた。

あまりにも自然で止める暇がなかったくらいだった。

直純のその言葉のどこがつらかったのだろう。

いや、矮小なこの男の言葉に怯えたわけでも、胸を痛めたわけでもない。


あるとすれば、朝丘の祖父が紗枝を“嫌悪して”という部分だろうか。

紗枝は紗枝なりの正義があった。

けれど、それは実の祖父にそこまで疎まれることだったのか。

そもそも器量がよくないから、とそんなことで血のつながりのある人間に見捨てられなければならなかったのか。

父以外に始めて知った親族・・・だったのに。従兄弟の男にもこんなにも憎まれなければならないのだろうか。


殺したいほどに?


普通の家庭で普通の生活をしてきた紗枝にはまるでわからなかった。

ただただ、この現実が、状況に、涙があふれ出て止まらない。

「なんだ、泣いてるのか。やっといい面になったな」


高揚感を前面に押し出した直純が、静かに泣く紗枝の髪を掴もうとした。

そのときだった。



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