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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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繋囚よ、青い鳥の定義を謳え-2

「ねえスーさん!ひどくない!?俺これはぶっ飛ばしても怒らんねえよね!?」

「……!」

「どうどう落ち着け~?暴力に訴えたところで多分何も解決しねえぜ?」


 皇彦が怒り心頭、といった様子で拳を構えるのを音無が止めている。内容的に一応加勢しておくべきかと、瑪瑙珠雀も彼を宥める言葉を口にした。


「だって!あいつら俺がネムを恨んでないのはおかしいって言うんだよ!?マジで意味わかんねえよなんでネムを恨むんだ!?」

「……」

「なんでネム落ち込んでんだよ、悪いのはあいつらだぞ!」

「まあオレもあいつらの言い分は~……うーん、わかっちまうな!」

「は?」

「おいおい小粋なジョークじゃねえか、そんなガチトーンで怒らんでくれよ」


 こちらに元ヤンの凄味が向かってきそうだったので、軽くいなす。


「つってもま、大多数は反監獄派なんだから、SやらIやらが何で監獄に歯向かわねえんだって思ってるのはたしかじゃねえの?皇彦だって、音無が関わらなけりゃそっち側だろ」

「それ、は」

「……!?」

「ネ、ネム!いや、そのそういうことじゃなくて」


 言葉を額面通りに受けってしまったのか慌てだした音無を、今度は皇彦が宥める側へとまわっている。と、言っても結局のところ珠雀と皇彦は同じN配属な訳で、思想にそこまでの違いがあるとは思えないのだが。


「あのなネム!俺はネムのことは大好きだけど監獄のことは普通に嫌いってだけで!ていうか自分を人身売買したような奴を好きになれるわけないでしょ?!だからその、抗うだけの力があるならやればいいのにとは思っちゃうんだって!でもネムがそれをやりたがらないのはわかってるし、これから先も求める気なんてないから!」

「……」


 皇彦のそれは、ある意味では利己的な人間そのものだ。友人である音無には望まぬことをして欲しくないとは思っていようとも、それ以外には自分の主張を押し付けたいと思ってしまう。それを、音無がどうとらえているのかは謎だが。


「まあまあ音無、オレらは立ち位置的にこんなもんなんだ。どう足掻いても一番弱い立場からの意見しか言えねえからな。音無から見たらなんか違うんだろうけどさ」

「……」

「ごめんね、ネム。そういうもの、なんだよ」


 立場の違いとは時にして残酷だ。音無と珠雀、皇彦達は違うレンズを通して監獄を見ている。きっと彼女のレンズから見た光景を、二人は一生知ることができないのだから。


「……ネムー!俺もだよー!」

「……!」

「うわっちょっ、皇彦!」


 突然音無に皇彦が抱き着く。そんなことを勢いをつけてやれば、当然足の不自由な音無の身体はぐらりと傾くわけで。慌てて珠雀が音無の背後に周り、彼女を支えた。と、言っても小柄で非力な珠雀と、人並み程度には上背がある上ローラーシューズでかさ増ししている音無では色々と違うわけで。


「ご、ごめんスーさん!ネムも!」

「……?!」


 まあ、当然の如く珠雀が潰れ、廊下の壁に衝突しその上に音無がへたり込む結果となったのだ。皇彦と音無がそろって心配そうに、珠雀の方を見る。


「いてて……大丈夫だっての!オレはこれぐらいでどーにかなるほど貧弱じゃねえからな!」


 そう言って、笑いながら立ち上がって見せる。どこからか抗議の声が聞こえた気がしたが黙殺した。


「皇彦ー?オレは頑丈だからなんともねーけど、音無はそうじゃねーんだから気を付けろよー?」

「わ、わかってるって!」

「……」


 皇彦の肯定に重ねるように、音無が頷く。


「ま、それならそれでいいけどよー!」

「……」

「……」

「なんだー?どうしたんだ?」

「やっぱ、気になるよねネム」


 相変わらず声も無く成立しているらしい会話。さて、何が交わされているのやらと珠雀はのんびりと眺める。しばらくそうしていた後、代表として皇彦が口を開く。


「ねえスーさんってさ、どうして監獄に来たの?」

「んお?話したこと無かったっけ。てか、あんまこういう話題出ねーもんな」

「そうそう!ほら、さっき言ってたクソ共が『どうして監獄に売られたようなもんなのに恨んでないんだ!』とかなんとかほざいてたから、そういえば聞いたことないなーって気になって」

「……」

「だ、大丈夫だよネム!俺もう怒ってない、怒ってないから!」


 わちゃわちゃとし始めた二人を横目に、そういえば両方とも親に売られた口だっけかと考える。そんな二人相手に話すのも微妙なものなのだが…。聞きたいといったのは二人だし、良いだろう。結局そうなってしまう辺りが瑪瑙珠雀なのだと言われそうだが。


「んー、ま、オレがここに来たのはシンプルに、勧誘乗ったからだな!」

「……え……えっマジで!?」

「!?」


 予想通りに驚きの声が上がる。そりゃあそうだろう、素直に勧誘に乗った、という例はかなり希少なのだから。


「マジマジ」

「えっ金積まれてるよな?積まれてるよな?」

「いやどうなんだろな?親に話がいく前に了承したからなあ。一銭もいってないんじゃね」

「猶更なんで素直に従ってんだよ!?」

「!?」


 人身売買の被害者からすれば、珠雀の行動はまるで理解できない物であろう。しかし、珠雀には珠雀なりの事情があるのだ。苦笑いを噛み殺して、珠雀は語る。


「まあ色々あったんだ。もーほんと色々な!」

「もったいぶらずに教えろよー。ネムも聞きたがってるよ?」

「……」


 音無からも不満げな視線を感じる。しかし、この話ばかりは話すわけにはならないのだ。何らかの手段で知られる分には構わないが、珠雀自身が教えることだけはできない。


「大して面白くない話だぜ?よくある異能に目覚めちゃったせいで、周りの人間とぎくしゃくしちゃってーってやつ!」


 だからこそいつも通りの調子で、大まかには正しい当たり障りのないことを口にした。誰にだって当てはまりそうな珠雀の言い分に、皇彦は首を傾げる。


「?でもスーさん乖離重くねえよな」

「……」

「重くねえっつったって、ある程度の疎外感はあるだろー?それプラス色々積み重なっちまってなー」


 たしかに珠雀は、異能者が異能を持たない人間に、人間として認識されにくくなる現象である『人間乖離』は重くはない。むしろ諸々を合わせて推理した辺り、トップクラスに軽い方だろうという仮説すらも立てていたりするが。何事も自ら口を開かなければ露呈しないのだ。


「あーそれがきっかけで色々暴発したパターン?」

「そうそれだな!いやーあん時は大変だった大変だった」

「……」

「大丈夫だって音無、もう終わった話なんだからよ」


 どことなく心配そうな音無に、からっと笑って安心感を抱かせている。そう、これは終わった話なのだ。

 あの日あの時、瑪瑙珠雀という少女が本質的にはもう、この世からいなくなってしまったことも含めて。全ては後の祭りなのだと自嘲した。

本編に関係ありそうでない話

異能が出てない人たちについて

松太郎:当分出ない

珠雀:大分後に出る

有栖:出してもいいけどどこで出せばいいのか。絶対に出る箇所はある

阿ヶ野:どこで出せばいいんだろうね

豊川:どこで出せばいいんだろうねその2

葉澪:近いうちに出る

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