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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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繕う-1

「それでねー!凍乃莉ってばずーっと桐子ちゃんのことチビって言ってくるんだよー!?ひどくなーい!?」


 頷く。仲良くしているようで何よりである。


「だよねおねーちゃんもそう思うよねっ!?今度会ったら凍乃莉に言っちゃおー!」


 相変わらず凍乃莉と桐子は互いに喧嘩腰のようだが、本気の喧嘩でも無いのだし問題無いだろう。


「何してんの、あんた」

「あげはだって見てたでしょ!?凍乃莉が桐子ちゃんのことチビって言ってるところ!」

「事実でしょ」

「そんな事ないもん!」

「少なくともあたしよりは低いじゃない、あたしより年上のくせに」

「だ、だって仕方ないでしょー!?」


 九割九分桐子の発育不良はこの場所の実験が原因だろうから、桐子の発言も間違ってはいないのだが。しかし現実的に、彼女は同年代の平均身長から見てしまえば大分小柄と言えてしまうだろう。


「まあ、あいつも男としてはチビでしょ」

「そうなの?」


 全力で首を振る。そんなことは無い。16歳の平均身長から見れば、湖上は至って普通の身長だ。間違ってもチビでは無い。


「おねーちゃん、違うって首振ってるよ?」

「こいつヒール履いてるから誤魔化されてるだけっての。じゃあ聞くけど、あんたここ何年か身体測定の時1センチ以上伸びてたの?」


 どうしてそう絶妙に嫌な事を聞いてくるのか。


「嘘くさ」


 秒速で見栄を見破らないで欲しい。湖上にだってプライドぐらい存在しているのだ。たとえ自分の身長が世間一般的に高いと言われるレベルまで高くならないことを、何となく察していたとしても。


「……おねーちゃん、さっきからお話してないけど、どうしたの?」

「実験で喉か声帯でもやられたんでしょ、よくあるやつ」


 そういえば、このように伝える手段が無いので二人には何も伝えてなかった。さて不用意に口を開けない今、どのようにすれば伝わるだろうか。


「えっとね、備え付けの端末に、メモ帳ソフトが入ってたと思うの。それなら、できるんじゃないかな」


 まごついている様が二人にも伝わったのだろう、桐子が助け舟を出してくれた。言われた通りに教室に備え付けられたそれのソフト一覧を見てみれば、桐子の言うソフトはすぐに見つかった。さっそく起動してみれば、手書きで書けるアナログのメモに近いタイプだったらしいそれに、タッチペンで文字を書き込んでいく。


『あげはの言う通り、実験でやられちゃって。しゃべれないんだよね』

「やっぱりかー。まあ、よくあることだもんね」

「腕とか足が吹っ飛んでないだけマシよマシ」

『あげはは腕とか足が吹っ飛んだことがあるの?』

「……腕、はあったかも。どうせ欠損しても回復できるからーって、軽いノリで持ってかれたような」

「あげは大丈夫だったのー!?」

「あんたに心配されても、微妙な気持ちになるからやめて欲しいんだけど」

「えー?桐子ちゃんは、あんまり体が無くなっちゃうタイプの実験はやってないから、そんなことないと思うよ?」


 いくら頻度が少ないとはいえ、そういう問題では無いと思うのだが。それはつまり、身体欠損が生じる以外の実験を多く受けているという事に他ならないのであり。またベクトルの違う話であろう。


「それ以外がやばいのよそれ以外が」


 あげはが面倒くさそうな顔をしながら言う。やはり湖上の受け取り方で正解だったらしい。


「そうかなー?だって桐子ちゃんが」

「ストップストップ。やめなさいよその話は」

「なんで?」

「こんな真昼間からするような話じゃないわよ」

「?」

『俺も、真昼間からするべきじゃない話は聞きたくないかな』


 まあ、関心が無いので別に話さなくても良いというのが湖上の純然たる本心なのだが。そんな事をわざわざ言う必要も無い。どうせ、中身はフィクションでありふれているような非人道的な何かだろうし。


「おねーちゃんがしたくないならしなーい」

「いやそれもどうかと思うけど」

『ちょっと、あげはどういうこと』

「だって……ねえ?」

『だからそのねえって何さ』


 何回も考えているが、一体あげはの中で湖上はどんな人物になっているのだろうか。自己評価としては湖上は至って真っ当で一般的な人間だと思うのだが?


「わかんないならわかんないでいいのよ。まあ、あんたはちょっとは自覚した方がいいかもしれないけど」

『何が?!』

「おねーちゃんのなにがいけないの?」

「……全体的に?というか、存在がダメ」

『唐突に全否定しないで』

「桐子ちゃんは違うと思うよ?」

『桐子ちゃんもこう言ってるし、ね?』

「……そうねー」

『生返事!』


 明らかに納得がいっていないらしいあげはが、遠い目をしてあさっての方向を向く。


「ねーねーおねーちゃん、このソフト、お絵かきもできるんだよー」

『本当だ』


 自分の机の端末からタッチペンを抜き取って、桐子が絵を描き始める。上手いわけでは無いが、ほんわかとした可愛らしい花が、余白に咲いた。


「おねーちゃんもなんか描いてよー」

『絵かー』


 桐子にねだられ、タッチペンを握る。と、言っても湖上だってさして絵が上手い訳では無い。と言うよりちょっとした模写しかできないので、無から何かを生み出せない。


「何これ」

『犬』

「微妙に似てるようで似てないわね」

『あげはもかきなよ』

「やだ」

「あげは、下手なの?」

「違うわよ面倒なだけよ。てか、どーせあいつと比べたら全員大したことないっしょ」

「あー……」


 あげはの視線の先では、暗之雲が見事な山脈を描いている。たしかに、あれと比べてしまったらそうなるだろう。が、比較対象が悪すぎないだろうか。


「もー、そういうことじゃないでしょー?」

「じゃあ、面倒くさいのよ」

「えー!?……あげは、やっぱりお絵かき下手なの?」

「うるっさいわね描けばいいんでしょ描けば」


 そう言って、あげはもタッチペンを手に取ったのだが。


「なにこれ」

「兎」

『えっ』

「言っとくけど、松太郎よりはマシだから。あいつとかマジで資源の無駄レベルだから」


 あげは曰く兎らしいそれは、どう見ても謎の丸い何かでしかなかった。それでも、松太郎よりはマシであるという。それ程までに松太郎がやばいのか、あげはがどんぐりの背比べをしているのか定かではないが。


「松太郎、やばいもんね」

『そんなに?』

「静が褒めるところ頑張って探してた」

『うわあ』


 なるほどそれは……大分、独創的な絵を描くらしい。正直その状況がまるで想像がつかないが。


「でも、松太郎は松太郎だから比べちゃだめじゃない?」

「は?」

「だってあれは……あげは、松太郎の絵と比べられたい?」

「……」


 にしても、このメモ帳ソフトと言い、備え付けの端末には様々なソフトが入っているらしい。教材を閲覧したことはあったが、他のソフトまでは正確に確認はしていなかったのだ。支給された端末は改めたが、こちらも確認してみるべきかもしれない。


「でも、おねーちゃん実験でやられちゃったのに、結構元気そうだねー」

「鎮痛剤打ってんじゃないの?……あーでも、外傷も無いのね。珍しい」

「あんまり風邪と同じ感じで声が出なくなるのってないもんね」

「ああ、そういう方向性なの。てっきり……ねえ、湖上。あんた具体的にはなんで喋れなくなってんの?」


 人は、他のことに意識を向けている時に急に話しかけられると、色々と応対がおざなりになりがちなものである。



「喋れねえっつーか、本音しか喋れなくなってっからろくなこと言えねえんだよ察せ……って、あっ」


「お、おねーちゃん……?」

「……」


 困惑した様子の桐子とあげはの視線が痛い。逃げていいだろうか?

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