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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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徹夜

「ねえ樹懸!これ楽しい!めっちゃ楽しいよ!あはははは!」

「……」

「なんで俺の事無視するの!?話聞いてよ超楽しいんだよ!?」


 海漣樹懸の隣で、妙に高いテンションを保ち続けるどう見ても少女にしか見えない少年に。樹懸は半眼を向ける。


「……女装野郎……お前、最後に寝たのいつだ?」

「んーいつだったかなー忘れちゃったー!でも全然眠くないよ大丈夫だよ!」


 化粧で隠しきれていない濃いクマを目の下に作って、ある種説得力のある言葉を吐く。どうしてここまで手遅れになってしまったのか、残念ながら樹懸は理由を知っている。原因はあの常時目元を機械で覆った男と、無口な少女に付き従う翻訳者なのだから。


「よおーしもういっぱ……ちょっと樹懸なんで止めるの!?」

「お前これ以上飲むな、多分これ下手な異能薬物キメるよりやばいだろ」

「得体の知れない危ないお薬のがやばいに決まってるでしょ!?つまり俺が飲んでるのは大丈夫!」

「量を考えろ。つか、異能薬物は最悪あの包帯女がどうにかできるけど、それはどうにもなんねえんだからな」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる少年が手にしているのは、カラフルなロング缶である。世間一般的に、エナジードリンクと呼ばれるタイプの。

 つまり、あの二人がカフェイン……と呻きながらちょくちょく夜更かししているらしい奴にエナジードリンクの存在を教えてしまったというわけである。ある意味、この場に包帯まみれの幼子がいなくて正解かもしれない。無駄に騒ぎ立てるものがいないという意味で。などと考えていたのが俗に言うフラグとなってしまったのか。


「おねーちゃん……?」

「さっきっからうっさいんだけど」


 件の幼子と、その付近でよく見かける金髪がラウンジに来てしまった。


「あっ!桐子ちゃんとあげはだー!おはよー!」

「お、おはよう、おねーちゃん」

「うわきも」

「きもってなにさー!俺は楽しいよ!」


 完全にドン引きしている方と、困惑している方。どちらにせよ徹夜テンションで頭がイカれている奴の反応は、さして変わらない。


「樹懸、こいつなんでこんなんになってんの」

「エナドリの飲みすぎ」

「寝なさいよ」

「だって忙しいしこれ飲んでたら眠くないんだし、よくない?!」

「なにもよくないよおねーちゃん!」

「忙しくなるようなもの、何もないでしょ」

「あーるーんーでーすー!」


 至極真っ当な指摘に、駄々っ子のように返している少年が徹夜してまで何をしているのか、それは樹懸にはまるでわからないし興味もない。何かあるのだろうが、それだけだ。


「おねーちゃん、今からでもいいから寝よ?寝ないと体に悪いよ?」

「桐子ちゃんまでそんなこと言うの!?俺はこんなにも元気なのにー!」


 あの幼子が常識側に立っているのもある意味珍しい。いや、それ程までに彼の状態が宜しくないという証左でもあるのだが。


「帰っていい?」

「こいつどうにかしてから帰ってくれ」

「嫌よ。眠剤でも適当に盛ればいいじゃない」

「相手が女装野郎でも、普通眠剤盛るような技術力はねえんだよ」

「あたしもない」


 1人その場から逃げ出そうとする少女を引き止める。たしかに樹懸は睡眠薬を処方されてはいるが、常に持ち歩いている訳では無い。どのみち樹懸にできることは少年を眺めることぐらいなのだ。


「眠剤!?やだよ俺まだやることがあるし!」

「そのやることって健康より重要なの!?」

「……そうでもないけど、まあやらなきゃだし!」

「おねーちゃん!」


 幼子が必死に相手をしているが、依然としてハイテンションはハイテンションのままである。どうしようもない。


「そんなに忙しいなら桐子ちゃんがお手伝いとか」

「だめ!だって見せられないし!」

「あんたほんとなにしてんのよ」

「秘密ー!」


 目の下の隈やらなんやらを考慮しなければ、滅多に見かけることのない、なんだったら初めて見るかもしれないとびきりの笑顔を浮かべる少年。男であると知らなければ、それだけで惚れる奴が出てもおかしくないと言えるだろうものであり。まさしく、凶器である。


『あ、みんないるー!おはよー』

「はよーっす!」

「なにそれ。松太郎ダサーい。かわいくないよ?」

「なんだとー!?つか俺はかっこいいのがいいんだよかわいさなんて求めてない!」


 そしてついにはピアスまみれの青年と、外見年齢と中身がそぐわない代表選手まで来てしまった。本格的に騒がしくなりそうだ。


「静ー!松太郎ー!おはよ!」

『ど、どうしたの?(´。ω゜`)』

「れ、麗?なんかやべー薬飲まされたのか!?と、桐子!」

「異能薬物じゃないから、桐子ちゃんにはどうしようもできないよ」

「じゃあなんでこんなんに」

「ただの徹夜ハイだ。エナドリ飲みすぎでおかしくなってんだよ」


 案の定な反応を示す彼らに、淡々と状況を説明していく。


「どうして寝てないのに眠くならないんだ?」

「このすっごいジュースのお陰だよ!ほら松太郎も!」

『そんな体に悪い飲み物松太郎に飲ませられないから!』

「えーそんなことないよ!とっても健康だよ!寝なくて済むくらい!」

「体に、悪い飲み物……?」

『あっちょっ』

「なんでこいつそんなんに反応してんだ?」

「松太郎、なんでか知んないけどジャンクフードが大好きなのよ。思っくそ体に悪そうなやつ」

「はあ」


 たしかにジャンクフードはジャンクフードで美味しいだろうが。だからと言って体に悪いというフレーズで心躍る気持ちはわからない。一般人である樹懸からすれば、普通に高級ステーキ肉と言われた方が喜ぶ。というか大半の人間がそうだろうに。


「ほら松太郎も!一緒に飲も?」

「うわあ……」

「どうしたの樹懸?!そんな渋い顔して!」

「写真撮るわ」

「最悪じゃん。あたしも撮ろ」

『うわあ……』


 少年の立ち居振る舞いがあまりにもあんまりだった為、思わず写真を撮る。正気に戻った奴に見せたら、面白そうなので。現在の奴は奴でご機嫌なので、ノリノリでポージングしているしまあいいだろう。


「俺がかわいいのは分かるけどなんで急に撮り始めたの?!」

「えっおま自分のこと可愛いと思ってんのかよ怖……」

「あったり前でしょ!?だって俺だよ?!」

「その台詞、普段のあんたに聞かせてやりたいわ」

「まあおねーちゃんはかわいいもんね」

「でしょ!さっすが桐子ちゃん!」

「……そ、そう?」

『ねえ、麗』


 そんなこんなで中身のない会話を続けていると、ピアスまみれの青年が懐から謎の小瓶を取り出す。妙に飾り細工でごてごてとしたそれの中身は、樹懸が異能を使った時の目と同等レベルに毒々しい色をしていた。


『これ、ランダムで効能が変わるジョークグッズ的な異能薬物なんだけど。飲んでみない?』

「え!?なにそれ飲む!ちょうだい!」

『どうぞ』


 あからさまに罠だという判断能力すら働かないのか、躊躇ゼロで小瓶を手に取る。そして蓋を開け、口に流し込んだ。


「──ッ!?」


 そして、いっそ見事だと拍手を送りたいほど潔く崩れ落ちたわけである。


「……あんた、ただでさえ異能が物騒なのにこんなもんまで持ち歩いてんの?何と戦うつもりなのよ」

『誤解だって。これは……うーん、腐れ縁?みたいな子からもらったんだよ。異能薬物を掛け合わせて作ったのに異能薬物では無くなった上、薬効も無いただ気絶する程不味いだけの液体だって。逆に奇跡だからおすそ分けってことでもらったんだ』

「結局なんなんだ?それ」

『死ぬほど不味いだけで特にメリットもデメリットもない液体』

「で、こいつどうすんだ?」


 床に伸びた奴をスニーカーの爪先でつつきながら、目下の課題を提示する。


『……運ぶよ』

「もういっそのこと救護室連れてけば?」

「救護室、救護しなくない?」

「それもそうね」


 そうして、端末を過保護対象に持ってもらった保護者が、奴を運ぶことになったのた。
















「ってことがあったんだよ。これ、そん時の写真な」

「写真撮らないでよ!?」

「お前を脅すネタが増えると思って、つい。つか自爆だし恨むなら自分恨めよ」

「うう……」


 ぐっすりと12時間程眠り、起きた奴に対して諸々を説明していたのだが。まさかの発言をぽろっと零したのだ。


「にしても、やっぱり俺は最高に可愛いね。流石俺」

「は?」

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