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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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運営

「そういえば、監獄ってなんでこんなことできるんだろ?ここの運営、めちゃくちゃお金かかってそうなのに。もしかして国が関わってたりするのかな」

「……え。お前何で知らないの?常識じゃね?」


 赤いメッシュ混じりの黒髪の少年、神楽坂(かぐらざか)呼霊(こだま)の何気ない疑問に、クラスメイトである琴柱は呼霊の正気を疑うかのような眼差しを向けた。心外なのだが?


「そんな常識聞いたこと無いんだけど」

「は?普通親から教わるだろ?」

「親が知ってるならそう簡単に誘拐とかされないと思うんだけどなぁ」

「あんなん知識あっても無理だろ。俺が今ここにいるんだからな」

「説得力がありすぎる」


 監獄式ブラックジョークである。平常運転とも言う。


「まあ、それはそれとして、さっき言った話は知らないよ。琴柱、またなにかズレてるんじゃない?」


 琴柱雪月という少年は、節々の言動から察するにかなり良い所の生まれらしい。故にド庶民の呼霊には理解し難い言動を取ることも珍しくは無いのだ。今回もその類だろう、と呼霊は早々にアテをつけたわけである。


「そんな事ないし。間違ってないし」

「ふーん。雛緒ー!ちょっとこっち来てくれなーい?」

「何?」


 呼霊達よりも前の方の席に座っている、藤色の髪に青いリボンとあじさいの花飾りを身につけた幼子を呼ぶ。授業中とはいえ、形式上のものに過ぎないのだから。座席移動ごときで、とがめられるはずがない。とことこと近寄ってきた雛緒──芥島(あくたしま)雛緒(ひなお)に対し、呼霊が口を開いた。


「琴柱がどうして監獄って運営できてるの?お金どうなってんの?ってのを知ってて当たり前って言うんだけど。そんな事無いよね?」

「なあ雛緒。俺の方が正しいよな?」


 二人そろって雛緒に迫る。傍から見て、それは大人げない行為に映るのだろうが。実年齢的に雛緒はNI7で一番年上なのだから問題は無い。苦草色の瞳が二人を一瞥した、その後。


「知るわけないよ、そんなこと」


 呼霊に、味方をしてくれた。


「ほらあ!僕の方が常識でしょ!」

「納得いかねえ」

「むしろぼくとしては雪月が知ってる事の方に驚いたよ」

「マジかよ」


 琴柱は未だに不可解そうな表情をしているが、呼霊の脳内では勝利のファンファーレが鳴り響いていた。くだらない事でも、勝てるとなんとなく嬉しいものなので。


「うん。なんだったら話を聞きたいくらい」

「お?雛緒が気になるって言うんなら話そうじゃないか」

「よろしく」

「やった!よろしくね琴柱!」

「いやお前も喜ぶのかよ」

「それはそれこれはこれ。最初に言ったでしょ、気になるんだって」


 興味が無いなら、そもそも話題に出さないだろう。身近に事情を知っている者がいるのだから、聞かないわけがない。琴柱がゴチャゴチャと言っている間にも、雛緒は近くの席に座って聞く気満々な訳で。琴柱もそれをわかっているのだろう、大人しく口を開いた。



「監獄を運営してんのは、上峰(うわみね)家なんだよ」



「なにそれ」

「知らない」

「なんでこんなことも知らねえの……?ネットにも載ってるのに……」

「ネットに載ってるから有名って訳でも無いんだから、そりゃあ知らないよ」

「乗ってるにしても知ってる人が少ないってことは、監獄の運営者として載っている訳でもないんでしょ?」


 呼霊と雛緒がそろって首をかしげる様に、琴柱が頭を抱えている。己の常識と戦っているようだが、世間とは平民が大多数を占めているものである、諦めた方が楽だ。


「じゃあ、ウィッチ・メディスンは?」

「あー、なんかたまに広告やってるやつだよね」

「市販の薬って、正直そんなに買わないから、広告のイメージしかない」


 たしかに知っている。それなりに有名な製薬会社で、なんらかの広告に接する機会のある者ならば必ず知っているたろう物だ。名前も知らぬ企業と比べれば、有名なのだろうが実際どんな薬を売っているのかと言われるとよく分からないレベルの知名度である。しかし、ここで琴柱がその社名を口にしたということはつまり。


「まさか……」

「そのまさかだ。ウィッチ・メディスンの経営者が上峰家なんだよ。つか、あくまで製薬会社がメインってだけで、他にも子会社やらなんやらが大量にあるからな」

「それだけ聞くとまともなのにね」

「うわあモロに親族経営の大企業じゃん。ていうか異能薬物ってそういう」


 苦い顔を浮かべる。それは口では淡々としている雛緒も同様だ。なにせ、名前を聞いたことがあるような企業が、この地獄の運営者らしいのだから。誰だってショックを受けるだろう。


「なんでそんな会社がこんなことしてんだろうね」

「いやいや逆だぜ雛緒。監獄を運営する為にウィッチ・メディスンを作ったってのが定説だ」

「でも、そもそも監獄の目的がわかんないからなあ。なにがしたいんだろうね」

「それは誰だって聞きたい事だろうよ。なにせどんな名家でも上峰からは逃れられないんだからな。警察にも顔が利くらしい上、政府との癒着まで噂されてるような連中から、どう逃げればいいんだって話だ」


 琴柱の語る話は、ある意味想像通りにロクでもない。結局の所、恨むべき相手がわかった所で、呼霊達には何もできないのだから。監獄の──上峰の目的も、同様である。


「まあ、そうでもなきゃ色々説明がつかないもんね」

「それはそう」

「もみ消せねえからな、色々と」

「ていうかこんな事知ってるって、やっぱり一般家庭出身じゃないよね?常識違うもんね?」


 暗い話題もそこそこに、呼霊はじとっと考柱に視線を向ける。お前、やっぱ常識無いだろ、と。


「俺三男坊だから家継げないし、実質的に一般人だろ。つまり俺は常識人」

「本物の一般人はまず家督の相続なんて話はしない!」

「えっ」

「雛縮も琴柱側なの!?」

「いやぼくは」


 琴柱と同類なのか、と呼霊がじっとりとした視線を向ける。その後琴柱と呼霊が言い合いになり、雛緒も問答無用で巻き込まれたのは言うまでもない。

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