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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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血まみれ

「何?」

 

 一人中央棟を歩いていた湖上麗の前に現れたのは、豪奢な金髪もロリータ風の指定制服も、なんならヘッドレストも含め等しく血に染めた夜宮だった。


「ひっ……い、いやなんでもない、です」

「ムカつくんだけどその態度。外任務帰りなんてこんなもんでしょう」


 そういえば、S配属は例外的にこの場所の外に出て、与えられた任務をこなす事があるのだとか。I配属には縁のない話なので、具体的に何をしているのかまでは詳しくないが。


「後、これ全部返り血だから」

「ひえっ」

「だからなんでそうなるのよ」


 誰だって西洋人形的な顔立ちの美少女が、血まみれだったら怖いだろう。返り血と自己申告されたところで、それは別種の恐怖が増すだけだ。


「こんなんでへばっててよく実験生き残ってるわよね。ああ、I配属の実験は腕やら足やらは飛ばないんだっけ?」

「吹っ飛ばないよ!?」

「そう。そういう話聞く度に思うのだけど、あなた達の方が余程優遇されてるわ」

「そうだねー……」


 たしかに湖上は今のところ手足が消し飛んだことは無い。I配属が被害に遭う方向性はどちらかというと外傷では無いらしいし。口振り的に、夜宮はそうなった事があるのだろう。もしくは、S、N配属の誰もが経験している話なのかもしれない。


「じゃ、じゃあ俺はここで」

『あれ?麗だー』

「あ、静ッ!?」


 この場を後にしようと、言葉を口にしたその時。妙にゆっくりとした静の端末の読み上げ機能の声が聞こえて、湖上は振り返ったのだ。

 そこにいたのは、夜宮など比じゃない程、血を浴びた静だった。


「ひっぎゃあ!?」

『あれ?どうしたの?』

「さあ。なんか怖いみたいですよ、血が」

「いや血が怖いんじゃなくて血まみれの人が怖いんだって!」


 想像して欲しい。赤い罰印が特徴的なマスクを身につけ、これでもかとピアスを開けた長身の少年が、衣服やら何やらを真っ赤に染め上げている様を。なお少年はいつも通りの鉄面皮であるものとする。悲鳴をあげた湖上は何も悪くないと思う。


「ところで山嶺さん、端末に血が着いてますけど大丈夫なんですか?」

『防水仕様だから大丈夫だと思うよー。前血溜まりに落としちゃったことあったけど問題なかったし』

「ならいいですけど」


 慌てる湖上を他所に、夜宮と静は他愛ない話を続けている。二人からすれば、湖上の状態は至極どうでも良いものなのだろうか?


「俺を置いていかないで!?」

「置いていってないわよ。そっちが勝手に止まってるだけでしょ」

『でも麗ってグロいの無理なんだ。意外だなー』

「いやこれグロ耐性とかの問題じゃないと思うんだけど。静と夜宮さんが血まみれになってるのが怖いって言ってるだけで」


 湖上が感じた恐怖は、グロテスク云々ではなくどちらかと言えばホラーに近いと思う。というか、その手の単純な耐性だけならば湖上だって高い。


『でも、松太郎は俺がこんなんでもビビんないよ?むしろお疲れ様って言ってくれるよ?』

「松太郎は慣れてるんじゃないかな」

『この状態で教室行っても、ビビられたことないよ?入って来んなーって言われちゃったことはあるけど』

「ほら!言われてる!」

『いや血が汚いからシャワー浴びてから来てって』

「ド正論!そうだけど違う!」

「まあそうなりますよね」


 夜宮が至極冷静に返しているが、そういうことではないと思うのだが?化野の件を思えば松太郎の対応は意外だが、慣れているのだろう。長年一緒にいるらしいし。


「ていうか、夜宮さんはわかるけど静はなんでそんなことに……?」

『戦闘系の異能者の手が空いてなくて、ヘルプとして呼ばれたんだよね。任務自体は夜宮さんとは別だよ』

「ええ。私は人がいない方が楽だもの」

「あー、だろうね」


 夜宮の異能は完全に一対多、それも対人特化である。それ故に対人では滅法強いのだろうが、味方へ攻撃してしまうリスクが高いのだろう。夜宮からすれば、味方の出血すなわち異能の制御の負担が重くることに違いないのだから。それならば一人で任務をこなしていてもおかしくない。

 対して静は単純な破壊力では夜宮を上回る、指名される任務そのものが違うだろう。


「というか、どうしたらそうなるの?」

『いやあちょっと、ぐしゃあってやりすぎちゃって。いっぱい血を被っちゃったよー』

「私はいつもこんなものよ。汚れなんて気にしていられないわ。そんなことより生き残ることの方が重要でしょう」


 ロリータという、明らかにおしゃれに気を使うタイプしか着ない類の服装の人が口にして良い発言ではないと思う。いっそ潔いと言うべきなのか、それとも普通に機能性重視の服を着れば良いと言うべきか。彼女の場合下手につっつくとまた聖棺関連に飛び火しかねないので、不用意に口にするつもりは無いが。


「いやまあ、そうだけどさ」

「戦闘系の異能じゃないあんたに、理解なんて求めてないわよ」

「ひどくない!?たしかに俺の異能しょっぼいけどさあ!」

『しょ、しょぼくないよ!』


 静が必死にフォローしてくれているが、事実である。ただ遠くを見るだけの、N配属相当らしい異能がしょぼくなくて何がしょぼいと言うのか。


「そう、大変なのね」

「めちゃくちゃ興味無さそうじゃん……」

「あんた如きに向けるものなんて無いわよ。全部勇希に向けてるに決まってるでしょう」

「はは……」


 流石、夜宮と言うべきか。相変わらずのようである。ところで。


「二人とも、着替えなくていいの?」

『あっ』

「ああ、そう言えば。ずっと血塗れなのも気持ち悪いわね。早く部屋に戻りましょう」

『俺も着替えてランドリー行こー』


 夜宮がそそくさとその場を後にする。静もシャツをつまんで赤黒いそれを眺めていた。


『麗ちゃんまた後でねー』


 静が別方向に歩いていくのを眺めながら、湖上は一人、ランドリーの「血液汚れモード」はこの為なのだろうなと思った。一生縁が無いことを祈ろう。

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