規制
『あ待ってやば死ぬ死ぬ死ぬ!先輩こっち来てくださいよ!』
「行ってもいいけど俺が来る頃には死んでるだろお前」
『いやそんなことはなあッ』
「ほらな」
ボイスチャット越しに求められた救援を拒む。距離がある相手に助けを求めても意味は無いだろうに。
空調の効いた自室で、悠堂游は後輩である豊川雨久とオンライン通信でゲームをしていた。集まってやってもいいのだが、休日ぐらい自分の部屋でゴロゴロしたいという双方の意見の一致によりこうなっている。向こうは二人部屋の筈だからそんなにゆっくりできないのでは?とも思ったがそれは悠堂が気にすることでは無いだろう。
「よっしダブルキル」
『流石ですね!』
「お前もう大人しく普通のローラーで地面塗ってろよ、ダイナモ向いてねえって」
『ダイナモはロマンじゃないっすか!そういう先輩こそヒッセンのくせに!』
「環境使って何が悪い。環境は強いから環境なんだよ。つか、お前今何人キルしたんだ?」
『……あ、ほら後30秒ですよ!』
都合が悪くなったのか豊川が露骨に話を逸らす。追及しても大した意味は無いので、やるつもりは無いが。
『えっちょっまっ』
「またかよ」
『やめて俺はまだ死にたくない!死にたくない!あ"ーっ!』
「ネタを言う余裕はあるんじゃねえか」
『いや誰だって死の間際はこんな感じでしょ!?あーまた生き残れなかった……』
終了直前に倒されてしまったが故に、豊川の操作キャラクターが画面に映っていないのだろう。まあ豊川に限って言えばよくある事だ。
「ほら、勝ったぞ」
『よっしゃあ!』
「次からお前ブキ変えろよ」
『確定事項じゃないんですけどー!?』
リザルト画面から、ぽちぽちと操作をしてマッチング画面に進む。今日は世間一般的にも休日の筈なので、そこまで長く待たされることは無いだろう。
『そう言えば先輩、俺最近PC新しいの買ったんですけど。ぜーんぜん届かないんですよねー』
「パーツ選んで組み立ててもらうやつか?」
『それですそれ』
「自作PCまでいかなくても半自作の時点で検閲厳しいからな、諦めろ」
『うえー。やっぱそれマジなんですね。うちの始番号が言ってたから知ってはいたんですけど、まさかここまでとは』
「パーツの一個一個まで検査してるらしいからな、仕方ねえだろ」
ゲーム機の画面では、ぼちぼちと人が集まりつつある。そろそろ始まるだろう。
『うっわそりゃ時間かかりますねー。先輩、本当にこういうの詳しいですよね』
「まあ、こればっかりはな。元凶だからさすがに知ってる」
『……え。元凶?』
「フリーズすんなよ始まるぞー」
むしろ悠堂からすれば、知っているものとばかり思っていたのだが。もしかしてわりと噂になっていないものなのか?もしくは知っている者が軒並み口をつぐんでいるのかだが。
『何したんですか!?』
「そっち敵行ったぞ」
『あっ確かに来てってそうじゃなくて!』
「いや大したことはしてねえって。劇場型のVのノリで監獄の内情外部にぶちまけただけだっての」
『……は!?』
「うっわダッサ。普通そこで落ちるかよ」
悠堂の横で範囲外に落ちていった豊川のキャラクターを見る。そこまで動揺する程だろうか?いや、何も知らないのならばそうなのかもしれないが。
『先輩これ終わったら一旦部屋抜けましょう!それでそのやらかしについて一から十まで話してください!』
「うわうるさ、加減しろよ鼓膜破れるっての……まあ、話すのはいいけどよ。そんなに愉快な話でもないぜ?」
豊川の叫びがヘッドフォン越しに響き渡る。そして、気が散ったのかミスを連発した豊川にちゃちゃを入れつつ、ゲームを一旦中断して。
『それで!一体どういうことなんですか?』
「……監獄から支給される端末って、SNSなんかに投稿しても外部からは見れないだろ?」
『?そうですね。というか、別に支給端末じゃなくてもそうですよね』
ボイスチャットに使用している、監獄内で主に流通している次世代型ウェアラブル端末とは違う、外で主流である極々一般的な端末をこつこつと叩く。
「あれちょっと前は違ったんだよ。監獄やら異能やらに関係がない投稿は普通に外部からも閲覧できてたんだ」
『そうなんですか!?ソシャゲのガチャのスクショ載せたら反応来てたってことですよね~うらやまし~!』
「つっても内容が大したこと無くても九割方は検閲くらって弾かれてたけどな。で、その弾かれる基準なんだが。監獄支給端末は完全にアウト、だけど外部から取り寄せた端末、特に自作PCはまだ弾かれにくかった」
『あー、それで』
豊川も察したらしい。そう、悠堂が自作PCを悪用したからこそ現在豊川がPCが届かないと嘆いているのである。
『でも、なんでなんですかね?特に違いは無さそうなのに』
「検閲システムが対既存の端末を想定していたらしい。自作PCはパーツから考えるからな、完全にかぶることはほぼ無いから検閲をぶち抜けたんだろうよ。んで俺は、その中でも検閲をスルーしやすい海外のパーツをできる限り複数の国から集めて組んだんだ」
『うっわえっぐいですねえ流石です!』
あの時は大変だった。悠堂自身法則性には気がついたものの、当時の自分はPCそのものに対する知識が不足していたのだ。お陰であの頃は随分と無茶をしたような覚えがある。怪しげな海外サイトを必死に翻訳して、モニターの前で検閲を通過してくれと祈りを捧げていたっけ。
「あと他にも位置情報とかが絡んでるんだが……まあ、これは省く。想像つくだろうし。検閲をスルーしやすいマシンを作り上げて、ボイチェンしてゲーム実況やったんだよ」
『先輩身長低いだけで声は高くないから無理そう』
「なんでネカマに限定するんだよ普通におもしろ系に変換しただけだ、失礼な奴だな」
試したことは無いが、悠堂の声ではどう頑張っても女声には近づけないと思う。わかりきったことを何故そう聞くのか。そして。
「覚えておけ、俺の身長は低く無え」
『えっでも先輩って有栖さんとかよりも全然低』
「俺の、身長は、低く、無え」
『ひいいいいいいっ!わ、わかりました、わかりましたからあ!本題の続きをお願いしますう!』
どすを効かせた声で、脅しをかける。悠堂游の身長は低くない。決して低くない。低かったとしたらそれは世界の方が間違っているのだ。そうに違いない。
「はあ。つっても、もう話はほぼ終わりだ。よくあるVみたいに動画とかSNSに考察要素をばらまいて、最終的には監獄にたどり着くように仕向けた。勿論これは現実で起こっている出来事なのでは?って思わせるようにな」
『それ、信じてもらえるか結構五分五分ですよね』
「だな。でも監獄が動いたってことは、俺は賭けに勝ったんだろうよ」
『気づかれてる時点で負けでは?』
「当時の記憶消去異能持ちを壊しきってやったから勝ちだよ」
たしか、自分の記憶を代償に他者の記憶を消す異能とかだったはずだ。最終的に代償にしているのが記憶の量では無く記憶の時間であったことが判明して、使い物にならないと殺処分されたらしい。まあ、監獄の異能者では無いので悠堂も詳しくは知らないし、興味もない。
「まっ、検閲が厳しくなったのはそういうことだ。これ以上やらかすやつが出ねえようにってな」
『なるほどー。って、じゃあ俺はPCが届かないのは先輩を恨めってことですか!?』
「諸悪の根源恨んどけよ、俺はあくまで抵抗しただけだ」
『うう……てか、監獄はどうして先輩の動きに気がついたんですかね。記憶消去で対処できるレベルってことは、そこまで広まってないってことですよね?』
豊川がそう疑問を呈すのも当然であろう。勿論当時の悠堂も疑問に思い調べた。その結果は。
「わかんねえんだよ、未だに」
『……へ?』
「当時は機械やらインターネットやらに強い異能者なんかいなかったから、異能的な何かでは無え筈なんだよ。監獄側のなんらかの情報網に奇跡的に引っかかったって言った方がまだ説明がつくレベルだ」
『なんで、なんですかね?』
「さあな。ま、もう調べるのも面倒くせえから調べてすらいねえよ……あ、ステージ更新されてるぞ」
『よーしじゃあ再開ですねー!』
すっかりスリープモードになってしまったゲーム機の画面を触って、オンラインに復帰する。いつもの動作をしながら、ふと思ったのだ。
そういえば、あの人ならわかるのだろうかと。……まあ、聞いてわからないと返されたら、今度こそロクでもないことになるのだから。進んで聞く気には、なれない。
参考
有栖:158cm




