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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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変質者

「かあさまー!大変ですー!」


 とある昼下がり。食後にカフェテリアでくつろいでいた湖上の所に、凍乃莉が飛び込んできた。


「どうしたの?!」


 いつになく慌てた様子の凍乃莉につられて、湖上も声を荒らげる。問いかけに、凍乃莉は答えた。


「桐子がへんたい?に襲われてたです!」

「へ、変態!?」

「助けようとしたです、でもワテクシが桐子に触るとワテクシの方が危ないです!ど、どどどうすればいいです!?」

「……凍乃莉ちゃん、でよいのかしら」


 あまりにも、この場にそぐわない言葉が飛び出る。いやまあ、人間が複数集まっているのだからそのような人がいてもおかしくな──いのか?湖上が動揺のあまりオウム返ししかできなかった所に、たまたまその場にいた初が口を出した。心なしか、普段よりも冷たいトーンで。


「?ワテクシは凍乃莉です」

「そう。なら凍乃莉ちゃん、あなたの言う変態って、指定制服の下がスラックスで女の子としては身長が高くて、黒髪で、とっても長い二つ結びの子じゃないかしら?」

「そ、そうです!なんでわかったです!?」

「はぁ~……」


 初があからさまに重いため息を着く。どうやら、心当たりが的中してしまったらしい。というかその変態とやらは配属生なのか、という方が湖上としては驚きだった。てっきり研究員の不祥事的なあれやそれだと思っていたので。


「麗ちゃん、後凍乃莉ちゃんも。申し訳ないのだけど、桐子ちゃんの所へ行ってくれないかしら?それで、場所は」

「第一食堂です!」

「私はあの子の保護者に連絡しておくから、お願い」

「えっ、あっうん」

「わかったです!」

「それと凍乃莉ちゃん。あなたはもう少し敬語を練習しなさいな」

「ですってつけとけば敬語になるんじゃないです?」

「えっ」


 よく分からない場面で、凍乃莉のヘンテコな口調の衝撃の事実が明かされてしまった。と、いうことは。もしや……


「あの、凍乃莉?もしかしてワテクシってのも敬語のつもり?」

「?そうです」

「……そっかあ。まあいいや、とりあえず桐子ちゃんのとこ行こっか」

「はいです!」


 諸々にツッコミを入れることを放棄した湖上は、ひとまず軌道修正を図った。









「私の目は節穴か!?ベリーロングヘアアルビノ合法ロリ美少女なんていう最高の存在を今この時まで認識していなかったなど……節穴すぎて目をくり抜きたくなって来たが、目をくり抜いてしまっては君を見ることが出来なくなってしまう……これぞ、二律背反ッ!いやしかし全身を覆う包帯は痛々しいが、こう、インモラルな魅力があるな?通常ならありえざるそれで、未発達の凹凸の少ない肢体を更に隠し、同時に包み紙を開く魅力を倍増させている……!やはりエロスは隠されるからこそだ、本音を言えばそこにチラリズムが加われば文句無しなのだが。そんなことは」

「……」

「……」


 初が挙げた特徴を備えた少女が、気持ち悪い笑みを浮かべながら桐子を抱きしめうわ言を垂れている。常ならば溌剌と輝いているはずの桐子の赤い瞳が、どことなく濁って見えた。勿論その光景を見せられた湖上と凍乃莉の目も死んだ。どうして食堂、それもS配属とN配属が利用するお昼時の第一食堂でこんな事が出来るのだろうか。そしてなぜ誰も止めようとしないのだ。


「あのー……」

「君としては包帯で覆われた身体はあまり見せたくないものなのだろうが、私はそうは思わないね!むしろ積極的にみせていくべきだろう。幼児服から除く庇護欲をかきたてつつもどこか背徳感を抱かせ、見るものにほんの少しの加虐心を抱かせてしまうような」

「あの!話かけてるんだけど!?」

「話しかけてるですー!」


 話しかけても全く気が付かない少女に、痺れを切らして湖上が声を荒らげると同時に、凍乃莉の手が出た。彼女の肩をぐい、と掴んだのだ。ずば抜けた凍乃莉の筋力は、さすがにこの変質者にも通じたらしい。


「ん?どうしたんだい。私はこの娘を愛でているんだが」

「……お、おねーちゃんと……い、凍乃莉かあ」

「なんかワテクシの扱いひどくないです?ワテクシお前を助けに来てやったです。うざいです」


 桐子の瞳にやっと光が戻る。こちらに縋るように視線を向けたかと思えば、凍乃莉を見つけて微妙な顔をする。相変わらずの喧嘩腰である。


「もしかして、この子の知り合いかい?」

「うん。その、嫌がってるから、離してくれないかなって」

「嫌だ!私はまだこの子を堪能しきれていない!だってアルビノロリだぞ!?こんな、真っ白の肌と少し赤みのある頬、そして純白の髪と包帯の微妙な白の差を堪能するにはまだまだ時間が足りない!」


 いっそ潔い程に変態発言を行う少女。どうして取り締まられないのか不思議ではない。……いや、もしかして。彼女の肩に目を向ける。そこには、「S」が戴かれていた。

 なるほど?初はあくまで保護者に連絡すると言っただけで、研究員には通報するとは言っていない。そして犯人はS配属。この場所では、I配属の次に価値が高い、というのも語弊があるらしいが少なくともN配属よりは重んじられる存在。つまり──クソでは?


「いや、そんなこと関係ないんで。離してくれません?」

「関係あるに決まっているだろう!?」

「桐子ちゃんが嫌っていう意思も無視!?」

「ワテクシがこいつぶっ飛ばすです?」

「暴力沙汰ってどこまで許されるのかな……」


 完全に堂々巡りである。どうしようもない。このままでは本当に最終手段こと凍乃莉頼みになってしまう。そう、湖上が焦っていたその時。


「んお?どうしたんだー?」

「うっわ面倒くさいのがいる……」

「……!」


 瑪瑙と榊、そして菫色が湖上達に接触してきた。考えてみれば三人が食堂にいることは何もおかしくない。瑪瑙は状況を一瞥し、察したのかどこか同情するような視線を湖上達に向けた。


「あー、こりゃあ、災難だなあ」

「どうにかならない……?」

犀祀(さいし)の嬢ちゃんだからなー」


 榊と菫色もどことなく遠い目をしている気がする。どうやら、瑪瑙が犀祀と呼んだこの少女がこのような行為を行うことは有名な話のようだ。初も知っていたようだし。


「湖上センパイ。この人、悪い意味で有名な人っす」

「あっ、やっぱそうなんだー」

「12歳ぐらいまでの見た目年齢の奴らを襲う変態って」

「なんで取り締まられてないのかなー?やっぱ、S配属だから?」

「実害は出てないって判断らしいっすよ」

「うへえ」


 抱きついてうわ言を囁くなど、出るとこに出れば然るべき処罰が与えられそうなものなのだが。この場所でそんな常識を説くことに、意味などないのであろう。


「幼児特有のもっちりとした頬の白さに、赤みのコントラストがこれ程までに映えるとは!私にもまだまだ知らないことがあるものだ」

「本当にやめてくれない!?」


 なお、湖上が事情を聞いている間も犀祀は通常運転のままとする。いや本当に、よくここまで口が回るものだ。


「うーむ。なあ、犀祀」

「……ん?ああ珠雀じゃないか!抱きしめてもいいかい?」

「いーやオレは身を売る気はねえよ。つか、お前さんの基準的にオレは微妙じゃねえの?後怒られるからそんなことしないっての。……そうじゃなくてよ、そこのお嬢さんより魅力的な奴を連れてくりゃ、お前さんだってお嬢さんを解放するだろ?」

「まあ……?そう、だな」


 犀祀の発言で思い出したが、珠雀もかなり小柄な部類ではあるのだ。見た目年齢的には12歳より上に見えはするだろうが、湖上より年下だと言っても通るだろう。彼女の人柄の印象が強く、忘れていた。


「ふーん。皇彦」

「……うっわめっちゃ楽しそうなこと考えてんじゃん。ほらネムもネムもー!」

「……」


 そう言えば、榊は菫色が会話せずとも彼女の意図を悟れるらしい異能を使っていた。おそらくはそれを、瑪瑙相手に使ったらしい。菫色も呼び、三人で団子になって何かを話し合っている。


「……よし、行けるな。でも捕まえんのがなー音無でもできなかないが」

「誰か捕まえるです?それならワテクシやれるです!」

「おっ、じゃあ頼まれてもらってもいいか?音無に着いてってくれればわかるはずだから」

「わかったですー!」

「位置情報割り出して貰えたからネムに送った!」


 今なんか不穏な発言が聞こえたのだが?


「よっしゃ行ってこーい!」

「わー!です!」

「……!」


 湖上が問い詰める間もなく、凍乃莉と菫色が食堂を飛び出していく。一体何をするつもりなのだろう。いや、わかっている、犀祀が好むような者を連れてくるつもりなのだろう。しかしそれは生贄と何が違うのだろうか?正直湖上はその場が丸く収まればなんでも良いのだが。


「瑪瑙さん、何したの?」

「大したことはしてねえよ。まっ、絵面は愉快なことになるだろうがな」


 瑪瑙の言葉に不安しか感じない。そして、そんな湖上の不安は現実となった。


「サプレッサーに実働役は卑怯ですよ!」

「ひきょー?普通です」


 凍乃莉の肩の上でじたばたと暴れるのにつられて、ポニーテールも揺れている。そう、凍乃莉と菫色が連れてきたのは神構だったのだ。……たしかに彼ならば、12歳ぐらいまでという基準を満たせるだろう。だからと言って何故神構を選んだのだ、とは思うが。たしかに顔は整っているだろうが、神構だけが年少の者という訳でもないだろうに。


「ほらー!犀祀、連れてきてやったぞ!」

「……」

「逃げようとしても無駄です」

「誰だって、何もしてないのに死刑宣告がなされたら逃げようとするでしょう」


 何もしていない、というには些か彼にまつわる噂は物騒すぎるだろうに。たしかに今回は何もしていないが。


「……ぽ、ぽぽぽポニテショタ!?げ、現実にそんな……そんな素ン晴らしいものが存在していていいのか!?なんだ君は私の性癖の濃縮還元なのか!?」

「えっ、お前神構のこと知らねえの?」

「私がこんなショタを見逃すわけがないというのに……クッ、やはり視野を広げなくては!」

「リスクヘッジの管理は怠っていませんからね、当然でしょう」


 大量の根回しやらなんやらと同列に語られる犀祀は一体何者なのだろうか。いやまあぐへへとお世辞にも綺麗とは言えない笑みを浮かべる犀祀を前にしていると、なんとなく分からないでもないが。


「でも今お前割と窮地だよな」

「諸悪の根源が何を仰っているのか……!」

「いやーすまんな!でも俺はちょーっとムカついてて、まっ、不可抗力だと思ってくれ!」

「俺と貴方の間で不可抗力という言葉の意味に致命的な齟齬があるようですねぇ!」


 神構が叫んでいる間にも、犀祀が誘惑と戦っている。おそらくI配属であるが故に接触機会が少ない桐子と、N配属で接触機会は多いが彼女にとってはストライクらしい神構とを天秤にかけているのだろう。早く振り切って欲しい。


「いい気味だなー!」

「貴方方の鬱憤がこの程度で晴れるのなら、お安いものですよ」

「……黙れ、ガキンチョ」

「ええ、たしかに貴方から見て俺はガキンチョでしょう。そんなガキンチョに本気で怒声を浴びせるような大人にはなりたくないですね」


 凍乃莉の拘束の強さに、逃れられないと悟ったのか神構が榊を全力で煽っている。こういう所は、いつも通りというか。


「──くっ!やはり私は獣欲の奴隷ッ!」

「ひっ」

「お渡しするですー」


 どうやら犀祀の理性より本能が勝ったらしい。桐子から手を離し、犀祀の魔の手が神構へと向かった。当然、避けられるはずも無く。


「ああ、やはり君は最高だ!神構と言ったか?ここまで髪を伸ばしてくれた君の最大の感謝を伝えよう!美しく艶やかな黒髪をポニーテールにすると聞こえだけなら簡単かもしれないが実際は違う、まず似合う似合わないがあり、そしてポニーテールを形作る」

「離れてくださいますか?」

「ことそのものの難易度が高い!だというのにここまでの完成度、そして美貌!これは最早国宝指定を受けるべきでは?美少年と美少女は」

「離してください」


 無謀と判断していようとも、抵抗は続けるつもりらしい。犀祀が滔々と語り続ける最中も、桐子とは違い抗議の言葉を口にする。


「……みこーって、あの人なの?」

「あー、そうだよ」


 解放された桐子が、複雑そうな顔で犀祀と神構を見ている。そういえば、桐子は神構と面識が無いのだった。初対面がアレでは、彼に対する印象が聞いていた噂と異なると感じても無理もないだろう。


「なんか、あんまり怖くなさそう」

「あー……まあ、あれだけ見れば、そうなるよね。犀祀さんが強いのもあるけど」

「怖い」


 湖上の服の裾をぎゅ、と桐子が握る。どうやらよほど辛かったらしい。まあ、誰だってあんな目に遭えば辛いだろう。


「でも、多分あの人の怖いとこって……あんな風に、やばい人にビビったりするような普通の感性はあるのに、普段は恐怖政治やれてるところだからなあ」

「そういうものなの?」

「そういうもの」

「俺の噂話が楽しそうでなによりですね。にしても、こんな形で花厳さんにお会いできるとは。ところで助けてくださいませんか?」

「……んー、俺は桐子ちゃん助けに来ただけだから!」

「ワテクシもです!」


 こちらに話しかけに来るだなんて、随分と余裕があるらしい。空元気なのかもしれないが、そうと断定できないぐらいには取り繕っているあたり、さすがと言うべきか。


「まあ、いいですよ。だってそろそろですから」

「そろそろ?」

「──おい、犀祀ネナああああああ!」


 食堂の入口から、少年の低い怒声が響き渡る。もしかしなくても、初が呼び出すと言っていた犀祀の保護者だろうか。


「どうしたんだ瑚刀吹(ことぶき)

「お前が!やらかす度に俺は呼び出されてんだよ!」

「やらかす?私は何もやらかしていないが」

「己の欲望の為に子供に手出ししてんのがやらかしじゃなくてなんなんだよ!?」

「別に性行為はしていないのだからよくないか?」

「せっ──何も良くねえよ!」

「大変だな、瑚刀吹は」


 瑚刀吹と呼ばれた少年の額に青筋が浮かんでいる。常習犯らしいのだから、彼が犀祀の尻拭いに呼ばれることまでが日常茶飯事なのだろう。嫌な日常茶飯事だな、と湖上は眺めていた。

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