遊戯
「ゲーム機でやるすごろくと普通のすごろくって何が違うの?」
「すごろくの途中になんかミニゲームとかが挟まるんだよ。つかやっぱやったことないのか」
「いや普通のすごろくはやったことあるって」
ちょっと話は盛ったかもしれない。最後にやったのがいつなのかまるで思い出せないので。
「本当か?」
「本当だって。ほらあの……職業えり好みしてるとフリーターになっちゃうやつ。あれはやったことあるよ」
「……あー、んなもんあったような」
「樹懸だって知らないじゃん」
「この歳になるとボードゲームって中々やらなくね?」
「そうだけどさー」
樹懸って自分の年齢わからないんでしょ?この歳も何もなくない?と一瞬聞きかけたが思いとどまって、当たり障りのない返答をする。
特に特別やりたいことも無かったため、ぐだぐだと湖上麗は樹懸と話していた。この手の話題をするとすぐに桐子辺りがすっ飛んできそうなものだが、何か用事があるのか不在であった。
「やったことないしやってみたいなあ」
「は?俺は持ってねえぞ」
「でもやったことあるってことは、樹懸の知ってる人の誰かしらは持ってるってことだよね?」
「……まあ確かに、クソ八方美人が持ってるけどよ」
湖上には聞き覚えの無いあだ名が出てくる。榊、菫色、餡条の三名には該当しないということは、湖上の知らない樹懸の友人なのだろう。根本的に在籍年数が違う初を除けば、I配属の中では一番交友関係が広い樹懸である、可能性としては十分ありうる。
「やってみたいなあ」
「買えよ」
「初期設定ができない」
「機械音痴だっけお前」
「ゲーム機いじったことほとんどないから、やれる自信がないんだよね」
「それぐらいメカ野郎にやらせとけ」
「いや仮にも年上の人にやらせるってのも、教えてもらうってだけならいいのかもしれないけど」
「あいつの異能機械にクッソ強いんだからやらせとけよ、多分5秒ぐらいで終わるぞ」
「そんなに……?」
手早く終わる、という比喩表現では無く。本当に秒単位で終わるという意味らしい。……もしかして、彼が常にみにつけているあの目元を覆う機械は異能の為なのかもしれない。今度会ったら聞いてみようか。
「何の話してんだー?」
樹懸とだべっていると、松太郎が声をかけてくる。当たり前だが、まともに自習課題をやる気が無ければ形式上の授業時間はとても暇なものだ。彼も暇を持て余しているのだろう。
「ゲームにもすごろくってあるんだなーって話」
「こいつ、なんも知らねえからな」
「ゲームってあれだよな?なんかピコピコしてるやつ。やったことねーんだよなー」
「……」
「……」
『ねえなんで二人共俺を見てるの!?俺何かした!?』
「いやあ」
さして詳しくもない湖上ですら、ゲームが一部の保護者から教育に悪いと厭われている事は知っているのだ。被過保護具合に定評のある松太郎がこの調子ならばつまり、ということなのだが。案の定こちらの会話の流れを把握していたらしい静が抗議の言葉を表示する。
『俺だってほっとんどやったことないよ!』
「マジかよ」
「まあ俺もやったことあんまりないしなあ」
「お前ら現代人だよな?」
「そうなんだけどねー」
遠い目をする。家庭事情的にも、交友関係的にも触れる機会があまり無かったのだ。具体的には、ゲームと言われると真っ先に出てくるのがトランプだったりする。
「樹懸はそのすごろく持ってんの?」
「俺じゃなくて知り合いが持ってんだよ。俺が持ってんのはゲーム本体だけだ」
「ってことはその人からそのすごろく?を借りてくればできるんだな!」
「金持ってんだからお前が買えよ」
『松太郎、ゲームは1日1時間ってのを破っちゃいそうだからなあ』
「出たよ過保護のっぽ」
『えー普通でしょ』
予想通りかつ相変わらずの静の過保護具合に、樹懸が呆れた眼差しを向けていた。
「……で、結局その人に借りれないの?無理ならソフトだけ俺が買うけど」
「あー、わかったっての。聞くだけ聞いてみっから。借りれなくても文句言うなよ」
「そしたら俺がソフト買って樹懸の部屋に押掛けるだけだから」
「すごろく、二人でやって楽しいのか?」
「俺と静もいくぜー?」
「ちっ」
折れてくれた樹懸が、端末を操作し始める。さて、芳しい返事は聞けるのだろうか。
「うっわ一瞬で既読つきやがった」
『そりゃ、授業中って基本やること無くて暇だもんね』
「配布される教材データは……?」
『あれやってる人ほぼいないでしょ。やることカウントされないって』
「で、樹懸どうなんだ?借りれるのか?」
松太郎が樹懸の端末を覗き込もうとする中、樹懸が苦い顔で阻止する。そして。
「やる予定ないから、借りれるってよ」
「よっしゃあ!じゃあ今日の放課後樹懸の部屋な!」
「なんで俺の部屋で確定なんだよ」
「正直、樹懸の部屋がいちばんその手のものがあると思うよ。榊くんとか菫色さんとかが色々置いてってそうだし」
「俺と静の部屋はなんも無いからなー」
先日凍乃莉と桐子を招いた一件で思い知った、もう少しものがあった方が何かと都合が良いのだと。せめてお茶ぐらいは常備しとくべきなのだ。コーヒー用の水だけでは来客には適さないのだ。
「……なんか持って来いよ」
「わかったバカでかいコーラ持ってくるな!」
「ポテチ買ってみよ」
そんなこんなで、放課後にクラスメイトとの約束を取り付けるなんていう、いかにも学生らしいやり取りが実行されたわけだが。
「青と黄色のリモコンは借り物だからな」
「俺青なー!」
『赤―!』
さて、放課後樹懸の部屋に集まって、さっそく松太郎と静が各々リモコンを選んでいる。湖上が以前レースゲームをやった時とはまた違うカラフルなリモコンがころんと転がっていた。
「すっげーカラフルだな―!」
『コントローラーってちっちゃいねえ』
「お前の手がでかいだけだろ」
しげしげと興味深げに、静がリモコンを眺めている。たしかに静の手に握られていると、リモコンがとても小さなもののように見えてくる。なんとなく、ここで自分の手を見たら負けな気がして視線を逸らした。
「俺は水色にするね」
「ってことは俺は黄色か。まあいい、やるぞ」
「おー!」
余っていたリモコンの中からうち一つを手に取る。フローリングの床に座り込んで、脇にコーラをなみなみと注いだコップを置いて。すごろくが開始された。
「うっわサイコロがめっちゃ浮いて……おお!転がってった!これ静できるか!?」
『うーんどうだろ。サイコロ潰しちゃいそうだなあ』
湖上達の駒代わりのキャラクターたちの頭上にサイコロが浮かび、明らかに念力的な奴で浮かび上がらせ、回転させたのちに転がすさまを見て頓珍漢な発言をしていたり。
「え待ってやめてそんな殺生な、いや本当にマジでやめ」
「うるせえ黙れこれがすごろくだ」
「あー!」
たまたま最下位を突き進んでいた樹懸と珍しく一位をキープしていた湖上の位置が、ハプニングマス?とやらによって入れ替えられてしまったり。
「ミニゲーム自分で選んでも勝てねえよー!」
『お、俺が手加減して負けた方が……?で、でも勝ちたいし』
「お前にもそういう葛藤とかあったんだな」
『そりゃ誰だってゲームは勝ちたいでしょ』
「でも静だしさあ」
静が負けず嫌いを発動していたり。
「け、結局俺最下位……」
「女装野郎にも負けるとかよっぽどだな」
「事実だけどひどくない!?」
『やっぱ俺手加減するべきだったかなあ』
結果、どうにか最下位を回避できてほっとしていた湖上を他所に、松太郎が落ち込むこととなった。というか、ほとんど初めてだと言う静が、コツをつかむのが上手いのかミニゲームで樹懸とまともにやり合っていたのだ。その時点で湖上と松太郎で泥仕合が始まることは目に見えていたともいえる。
「俺もゲームを買って練習すれば……!」
『買ったとしても、ゲームは一日一時間だからね?』
「それゲームばっかで勉強しなくなるやつ向けのやつだろ。俺ら勉強する必要ないんだから別に何時間でもやってりゃよくね?」
「テスト無いしね」
『それもそうだけど、同じことずっとやってるのもどうかと思わない?』
湖上も樹懸の意見に同意なのだが、静からすればそうもいかないらしい。寝る間を惜しみ始めたら健康に悪いと嘆く気持ちもわかるが、そもそもそこまでやるほどハマる前に、静なら確実に気がつくだろうと思うのは湖上だけなのだろうか。
「もう一戦やろうぜー!」
「飽きた」
「なんでだよー!?ほら、なんか色んな種類のすごろく入ってんだろー!?やーろーおーぜー!」
『こういう時じゃないとやる機会も中々無いし、もう少しやろうよ』
「せめてすごろく以外にしろよ、ミニゲームとか色々あるから」
「じゃあ俺さっきやったステーキ焼くやつやりたいかな」
「俺はあのばびゅーん!って早い魚よけるやつ!」
この時間はまだまだ続くらしい。さりげなく自分の意見を滑り込ませつつ、らしくないようである意味らしい平穏に身をゆだねた。
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