少女願いて曰く-7
「好きなタイプは?」
「えっ、好きなタイプ?いやそんなこと考えたこともな」
「そうなのです?仲良くしたい人って考えないものです?」
「いや、そもそもそういう意味じゃなくてね?」
「聞きたいなー?気になるなー!」
「……お、おねえさまも含めて、俺を愛してくれる人?」
「疑問形です?」
「だから俺もあんま考えたこと無いんだってー!今の無し!」
羞恥心から来る衝動のまま、ベッドに顔を埋める。背後で桐子と少女の楽しげな笑い声が響いていた。
結局湖上への質問大会という名の尋問会は敢行されてしまった。故に先程からあんな事やらこんな事やら、とんでもない質問が大量に飛び交っている。おねーちゃんだとかかあさまだとか敬う気持ちがあるのならば、もう少し手加減して欲しいものだが。
「次は何聞くです?何聞くです?」
「えーっとねー」
「悩むぐらいならもうやめてくれてもいいんだよ!?」
残念ながら、この場は湖上を犠牲にする事によって成り立っている。この世は多数決が正義であるが故に、過半数が楽しんでいる今、湖上の叫びは聞き入れられることはないのだろう。
「いやです!もっと聞くです!」
「そうだよおねーちゃんのことって桐子ちゃんまだよく知らないしー!」
故に湖上の犠牲を良しとして、この会の興奮は暫く継続してたのだが。
「……えっ、とね」
「桐子ちゃん……眠いなら無理しないで、部屋に帰っていいんだよ?」
「そうです、ワテクシとかあさまがハッピーになるだけです」
「……まだ、起きれる、もん」
桐子がうつらうつらと瞼を重たげにし始めたのだ。現在時刻はぼちぼち二十四時近くといったところ。まあ、桐子が早く寝るタイプの人間ならこんなものだろう。なお湖上は誠に残念ながら、この時間はよくコーヒーを胃に流し込んでいる。
……ここで桐子を寝かしてしまったら、厄介なことになるのはわかっている。そもそも桐子はあげはに宿泊自体禁止されているのだから。起きているうちに、自室へ戻るべきであろう。
「桐子ちゃん」
「……大丈夫、だもん」
「大丈夫じゃないでしょ。お開きにしよ?俺達もすぐ寝るから」
「……やだ!」
眠たげな眼を晒したまま、桐子は明確な拒絶を示す。
「……楽しいの、終わりたくないよ」
告げられた言葉は、平時の彼女の言葉の何倍もの真に迫った響きを伴う。。ずっとこの、監獄なんて揶揄される場所に閉じ込められてきた少女の、ちっぽけな本音が。実年齢にそぐわぬ身体に、やけに似合っていた事こそが虚しい。
「……はあ。わかった」
「わかった、ってどうするです?」
やりたくない。まるでやりたくないし同情することそのものがとても癪に障るが。湖上にだって良心の呵責ぐらいは存在している。だから。桐子に、背を向ける。
「桐子ちゃん、帰るよ」
「……嫌って、言ってるのに」
「言葉で言わなきゃわかんないの?運んであげるから、乗って。眠くて歩くのも億劫なんでしょ?」
「……えっ」
おいお前今一瞬起きただろ。……と、言いたくなったが今は目を瞑る。全く、善意と悪意を綯い交ぜにして、どうにかこうにかの折衷案を出したと言うのに。肝心の当人に引かれるとか、先程から扱いが酷くないか?あげはに桐子の部屋の場所を教わっていなければ、折衷案すら出す気が無かったのだから。
「早くしてよ」
「~っ」
ぽん、と軽い体が湖上の背にもたれかかって来る。首に手が回されて。その手が、なるべく湖上に触れないようにしているのを見て苦笑を浮かべつつ。湖上は包帯に包まれた華奢な足を両腕でしっかりとかかえて立ち上がる。そして、状況についていけず置いてけぼりになっている少女に声をかけた。
「ごめん、ちょっと桐子ちゃん送ってくるから。君はこの部屋にいて。あ、いなら寝ちゃってていいからね。帰ってきた時ちょっとうるさいかもしれないけど」
「わ……わかったです」
少女の了承を得て、湖上は桐子をおぶったまま玄関へと歩いていく。
「わ、ワテクシが開けるので大丈夫です」
「お願い」
少女に鍵を操作してもらえば、自動で扉が開いていく。そうして適当に購買で買ったメンズのパジャマ姿で、桐子を背負って廊下へと足を踏み入れた。
「ごめん、ね?」
「何に対する謝罪?」
「……なんだろ」
夢見心地と言った調子に、ぼんやりとした言葉だけを桐子は口にする。故に、謝罪の言葉そのものに深い意味は無い。意味があったらあったで、こちらは面倒なものでキレなくてはならないので。
「……おぶって、運べるんだ」
「いや、まあそれぐらいは。俺の事なんだと思ってんの」
たしかに湖上は体育会系ではないとはいえ、これでも一般的な同年代と比べれば鍛えている方なのだ。できて当たり前である。というか桐子ぐらいなら女子でも運べなくはないだろう、そんなことを言われてもまるで嬉しく無い。
「……おねーちゃんは……おねーちゃん、だよ?」
「なにそれ」
「わかんない」
完全に眠気で思考がまとまっていない。何か面倒なことでも言うのかと身構えてしまった己が阿呆のようでは無いか。
「ほら、ついたよ。降りて」
「ふわぁ~」
「後はあげはでも呼んでやってもらってよ」
湖上がしゃがめば、桐子がのそのそと降りていく。背中に子供特有の体温が名残のように残っていた。そのまま、眠たげな足取りで桐子は自室の扉を開ける。
「……おやすみなさい、おねーちゃん」
「おやすみ」
足を一歩踏み入れて、こちらに振り返ってから。微睡むままに挨拶をする桐子に、湖上も形式的に告げて。振り返らず、自室へと戻った。
「えっちょっと待ってマジで床で寝てる?なんでそんなとこばっか有言実行してるの?と、とりあえず起きて!」
「むにゃむにゃ……なんですー?……どうしたですーかあさま?」
「だから床で寝ないでって言っ」
「かあさま……一緒です……」
「ちょっと!?」
なおこの後も何故か床で寝ていた少女に隣で眠るように引きずられかけたり、それを全力で説得したものの結局湖上が折れて床で眠る少女を尻目にベッドで寝たりするなど一悶着以上の事件が発生したが、ここでは割愛する。




